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お祭りの好きなお国柄らしい

 収穫祭も、シャルリア様のお誕生日も終わり、それからひと月、アンデルセラムの街は、また騒がしさを取り戻していた。

 とはいっても、そう毎月毎月お祭りがあるわけではないらしく、最も盛んなのが秋の収穫祭で、細々としたものでは冬に音楽祭があったりするということなのだけれど、今回はそういうことではなく、月が最も大きく見えるお祭りだということらしい。

 普段はこの時期に、しかも収穫祭のすぐ後なんかに続けてお祭りをするということはないということらしいけれど、今回は特別だということだった。どちらにせよ、お祭りが好きな国なのだということは伝わってくるけれど。

 天文学的にみても、100年周期ほどで起きるという、大変珍しい現象らしく、すでに他国からも観測に訪れようと、たくさんの観光客の方がいらっしゃっていて、買い出しに出かける際に見る街中も、大層騒がしそうにしている。


「来週はついに満月ね!」


「教会の式場の予約はどこも一杯だって話よ。わざわざ夜中に挙げるのですって。ロマンティックな日だものね」


「隣国からも見に来ている人がいるのでしょう? 知り合いのやっているギルドにも、凄く格好良い人が泊まっているらしいわよ」


「でも、満月の夜は力の満ちる日だからって、怪しげな儀式をする人たちがいるっていう噂もあるわよ」


「えー、そうなの? 怖い話もあるのね」


 買い出しに出かけても、街行く人たちの会話は、誰と一緒に見るのだとか、思い切ってその日に告白するのだとか、そんな感じの話題で持ちきりのようだった。

 

「お城の庭から見るのも素敵よ。周りにはこれといって視界を遮るものはないし、お月様に似せた、真ん丸のお団子を食べながらだと気分も最高なの」


 僕の隣ではシャラさんがそう力説していらした。

 

「本当は私も素敵な人と一緒に夜空を見上げながら、お団子を取ろうとしたときに、ふと手と手が触れ合って、そのまましばらく見つめ合ったり、肩を寄せ合いながら星座を見上げて、ロマンティックな神話やおとぎ話を語り合ったりしてみたいんだけれど、相手がいないのよ」


 ふわっと広がる青い髪に、水色の瞳のシャラさんは、お城でメイドとして働いていらっしゃる女性で、僕の先輩にあたる、元気の良い、どちらかといえば、お姉さん気質の方だ。

 僕みたいに得体のしれない男にでも、こうして気さくに話しかけてくれる、面倒見の良いシャラさんには、仕事を教えていただいたりと、アンデルセラムへ流されてきてからというもの、何かとお世話になっている。


「お城勤めだとね。若様も、姫様も、とっても素敵な方で――もちろん、国王様と王妃様も――お仕えしていてとてもやりがいは感じているけれど、基本的にお城の中での仕事ばっかりで、外出といったら買い出しばっかりでしょう? 出会いがないのよねー。素敵な殿方との」


 お城に勤めていらっしゃる方は、仕事が恋人みたいなもので――あの忙しさからすれば、そう感じても不思議はないだろう――そんな恋だの、惚れただのという話とは程遠い方たちばかりだと思っていたけれど、そんなことは全くないらしかった。


「当り前じゃない。アルフリードは私たちを何だと思っているわけ?」


「シャラさんはとても素敵な女性だと思いますし――ええ、それはもちろん男性視点で見てという話ですよ――お声をかけられて、嫌な気分になる男性はいないのではありませんか?」


 お城で住まわせていただいている僕とは違って、通いでいらっしゃるシャラさん達は、言うまでもないことだけれど、お休みの日も交代制でとっていらっしゃる。例えば、夜番の次の日だとか、前の日だとかといった感じだ。


「でも、お城で働いている男性と言ったら、上腕二頭筋がまた太くなったとかって話ばっかりしている騎士団の人達とか、魔法の研究が趣味で、生きがいで、人生だっていう魔法師団の人達とかしかいないじゃない。官僚の方たちは妻子持ちの方ばかりだし」


 女性の、というより、人の好みはそれぞれだし、シャラさんのおっしゃりたいことも分かるけれど。


「――って、ごめんなさい、私の話なんかどうでもいいわよね。ええっと、それで、何の話だったかしら……そうそう、お祭りの話だったわよね」


 隣でシャラさんが話してくださるのを聞きながら、僕は別の事を考えていた。

 城下でお祭りが開かれるということは、きっとあの好奇心旺盛なお姫様方も、特にそういったにぎやかなことには、アイリーン様は絶対に出かけたいとおっしゃられるだろうなと想像がつく。

 今回は出る夜店もそれほどたくさんはなく、星の形のクッキーやら、それこそお団子やらを売るような少しのものしかないということなので、それほどはしゃがれて、迷子になられたりなどということはないと思うけれど。



 夕食の片付けを終えて、図書室へと借りていた本を返しに行きがてら、別の本を借りてから部屋まで戻って来ると、部屋の扉の前の壁にシャルリア様が寄りかかっていらした。

 すでに着替えも済まされたらしく、ドレスではなく、寝具に着替えていらっしゃる。

 ここへいらしたということは、僕に何かお話があるということなのだろう。


「……あの、アルフリード」


 シャルリア様は、大理石のように真っ白な頬をほんのりと赤く染められて、目を伏せられながら、先日、お誕生日のプレゼントにと僕がお贈りした腕輪をもじもじといじくり回されながら、


「月祭りには、その……」


 何事かおしゃられかけたシャルリア様は、僕が屈んで目の高さを合わせると、驚かれたように、真っ赤な瞳を大きく見開かれて、


「やっぱりよいです……」


 と、耳まで真っ赤に染められながら、パタパタと駆けて行ってしまわれた。


「一体何だったんだろう……」


 あっという間に遠ざかってゆく、小さな背中で揺れる銀の髪を見送りながら、僕は首を傾げた。

 


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