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シャルリア様のお誕生日

 ◇ ◇ ◇



 前日までに準備をしていたからとはいっても、当日の忙しさが減るわけではない。特に僕たち、料理の準備をする者にとっては。

 シャルリア様のお誕生日の当日、まだ日が昇る前に目を覚ました僕は、自室の机の引き出しを開けた。

 他に何もないその引き出しの中には、1つだけ、小さな紺色の宝石箱が収められていた。

 1度開いてみて、中身を確認する。

 届けられた際に確認した通り、そこにはプレゼントがしっかりと収められていた。

 僕がシャルリア様に贈る物なのだから、僕が選ばなければ意味がないと、選んだのは良いけれど、本当にこんなもので良かったのかと、今更不安になってくる。

 やっぱり、もう少しギルドで依頼をこなして稼いでからの方が良いものが買えたのではないだろうか。

 忙しくて、そんな時間はほとんどなかったわけだけれど(空いていた時間もシュエットの捜索の手掛かりを得るために使ったし)考えれば考えるほど、どつぼにはまってゆく気がするので、それ以上は考えないようにした。

 お金の問題ではないと分かってはいるけれど、こういうことにはならないようにしようと、今後の事を考える。

 もちろん、お城から給料はいただけるのだけれど、それはそれとして、他にもギルドへは出かけるべきだろう。

 少なくともこの地の続く先にシュエットがいるらしいということは分かったので、お城に集まるのとは別の体系で情報が集まるギルドには顔を出しておいた方が良い。

 さらに、お城では金銭のやり取りは必要ないけれど、ギルドに、というよりも街に出かければ金銭が必要ないということはない。いつラヴィリア王国に戻ることが出来るのかが分からない以上、コネクションを作るという意味でも、暇な時にはギルドで依頼なんかを受けた方が良いだろう。

 そんな暇があるのかどうかは分からないけれど。


「おはよう、アルフリード」


 シャルリア様だけではなく、カルヴィン様やアイリーン様にだって、いつ、魔の手が伸ばされることになるか分からない。それこそ、先日のような事態が発生しないとも限らないのだから。

 もちろん、国王様、王妃様をはじめ、騎士団の皆さん、お城に仕えていらっしゃる方であれば誰であっても、お城の警備に注意を向けていらっしゃるというのは分かっているけれど。

 お城に仕える者として、僕は料理人兼雑用のような役どころではあるけれど、どんな状況にも対応できるようにと、空いている時間には訓練をすることにした。

 とりあえずは1人でもある程度は可能である魔法の鍛錬だけれど、そのうち、騎士団の方にもお声をかけさせていただきたいと思っている。体術を訓練するには、魔法以上に、1人では限界がある。

 もっとも、早朝に起きていらっしゃるのは、夜警と、その交代の方だけなので、当面は昼間の仕事に城の雑務がある以上、1人での鍛錬になるのだけれど。とりあえず、慣れるまでは。

 そう考えて、朝、裏庭の方はシャルリア様がそのうち早朝のヴァイオリンのお稽古で使用されることは分かっていたので、表の庭の方で魔法の鍛錬をしていたところ、通っていらしたシャラさんに声をかけられた。


「こんなに朝早くから、精が出るわね」


 これは別に今日に限った事ではなく、ここへくる前にはいつもやっていたことで、鍛錬などと意識しているか、いないかの違いだけだった。もっとも、今日は少しばかり早い時間だったけれど。


「おはようございます、シャラさん。朝早くとおしゃるのでしたら、お城にお部屋をお借りしている僕なんかよりも、通っていらっしゃる皆様の方が早起きなのではないですか?」


 僕はこの国に帰る家がないため、お城にお部屋を借りさせていただいている。

 国王様や王妃様は、部屋なんていくらでも余っているから、好きに使っていいとおっしゃってくださって、実際、掃除をしていても、使っていない部屋がたくさんあるので、そのうちのひとつをありがたく使わせていただいている。

 それはもちろん、僕だけということはなく、メイドさんの中には他にも、こちらで過ごされている方はいらっしゃる。

 そのため、少なくとも身なりを整えて通われるメイドや騎士団の皆さんの方が、僕などよりもずっと早起きでいらっしゃるはずだ。

 

「まあいいわ。それが終わったらこっちを手伝ってね。今日は特に忙しいのだから」


 終わったらというより、どなたかがいらっしゃったなら、自分の鍛錬は終わりにしてそちらを手伝おうと思っていた。

 あくまでも、これは僕自身のためのことなのだから。それで本職の方が疎かになっていては意味がない。


「分かりました」


「それから、私が言うまでもなく、分かってはいると思うけれど、あんまり無理し過ぎて倒れたりしないでね。介抱したりするのは面倒……大変だから」


 メイドさんの仕事は、基本的に、姫様、若様、それから国王様と王妃様に快くお城で過ごしていただくことであって、使用人の世話を焼くことではない。

 むしろ、そんなことで倒れるほどに自己管理を疎かにしているようでは、反省しなくてはならないだろう。


「ありがとうございます」


 それでも、こうして心配してくださってお声をかけてくださったことに感謝したい。


「それで、何時頃終わるの?」


「はい、いえ、もう終わります」


 そこで鍛錬を切り上げると、浄化の魔法で身体と衣服を清めた。

 その僕の様子をシャラさんはじっと見つめられていて。


「やっぱり魔法って便利よね。掃除したり、お風呂に入ったりするよりもはやくて、綺麗になるのでしょう?」


 それはそうだと思っているけれど。そして実際、浄化の魔法を使ったところを比べてみても、綺麗になってはいるのだけれど(これは、お城の衛生にも関わることなので、一応、確認して貰っている)一概に、そうとも言い切れるものではない。


「分かっているわよ。自分の手でやってもほとんど遜色なく掃除が出来たりするのは知っているし、魔法師って、やっぱり、いざというときのために魔法は出来るだけ使わないようにしているんでしょう?」


 便利なのか不便なのか分からないわね、とシャラさんは肩を竦められた。

 魔法が万能ではないというのは、魔法を使う、魔法師ならば誰でも知っている、分かっていることで、魔力に依存する以上、自分の生成できる魔力、あるいは、大気中から取り込んで変換している魔力以上の効率では魔法を行使することは出来ない。

 つまり、別に普段から魔法を使ってまずいということはないのだけれど、何となく、躊躇しているというか、他の人までそうだとは言わないけれど、要するに僕は変なところでビビっているだけなのだ。


「ふ-ん。でも、前にあの塔の掃除をしたときに見せてくれた魔法を使えるのだったら、大丈夫なんじゃないの? なんだか、皆、シャルリア様まで驚いていらっしゃる様子だったし」


「それはそうかもしれませんが、僕の気持ち的なものと言いますか……」


 もちろん、そんなことは滅多にあるものではないと分かってはいるのだけれど、あの渦に巻き込まれた時のこともあるし、保険というか、用心するに越したことはないというか。


「でも――って、こんなこと話している時間はなかったわ。早く行きましょう」


 多分、もう少ししたらシャルリア様がヴァイオリンの練習を始められるはずなので(ご自分のお誕生日だからと練習をなさらないような方ではないということくらいは、シャルリア様の事を分かっていると思っている)演奏を聴いていたいなあとは思っていたけれど、仕事ならば仕方がない。多分、シャルリア様の演奏は、今日のお誕生日の席で拝聴することが出来るだろう。

 僕はシャラさんについて、準備へと向かった。

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