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収穫祭 2

 ◇ ◇ ◇



 収穫祭の日。

 結局、シャルリア様の様子が少し変だったことの理由は分からなかったけれど、僕たち5人は収穫祭へと参加するべく、街へと繰り出していた。

 街は、広場や、道の両脇に、香ばしい匂いや甘い香りのする店が建ち並び、何処の店からも呼び込みをする声が聞こえてきていて、人であふれかえっていた。

 お城から、祭りの人の輪のすぐ外まで馬車で出かけてきた僕たちは、そこから歩いてお祭りを見学する。こちらの世界(あるいは国)でも、お祭りというのは賑わうもので、人が集まるとはいえ、人探しには向いていない。


「アルフリード。あれもおいしそうね!」


 アイリーン様はすでに、餡子を入れて巻いたホットケーキや、ぐるぐる巻きのキャンディー、豚の焼き串など、たくさん手に持っていらして、それ以上は持ちきれそうにない。


「アイリーン様。お祭りですから、ダメとは申しませんが、せめて、お持ちのものを食べ終えてからになさったらいかがですか。急がずとも、屋台は逃げたりいたしませんから」


 アイリーン様のお持ちになっている豚の焼き串から汁がしたたるのを、シャラさんが綺麗なハンカチを出して拭われる。

 お祭りにこうして出かけてきたのは久しぶりだ。

 お祭りの夜には、いつも酒場として店を経営していたので、もっぱら売る側だった。何しろ、こんな風に遊ぶためのお金など捻出できそうにもなかったし。

 だから、シュエットがいつもお土産に買ってきてくれたクッキーを、お店を閉めてから、2人で星を見上げながら齧ることが、お祭りの1番の楽しみだったと言ってもいい。

 屋台には屋台の、夜店には夜店の、独特の雰囲気があって、それも相まっておいしさを作っているのだとは分かっていたけれど、それに負けないように、色々と研究していたんだよなあ。

 もちろん、屋台だからこそ、美味しいとか、映えると言えるものもあるし、例えば、店で捻り菓子なんかを出すことは考えたりもしなかったけれど。


「アルフリード」


 呼ばれて振り向くと、顔の前に、飴でコーティングされたリンゴが差し出されていて、僕はそれを1口齧らざるを得なかった。


「おいしい?」


 頷くと、シャラさんは楽しそうに目を細められた。


「周りが気になるのも分かるし、たしかにここへ来たのは姫様方のお目付け役という任務のためだけれど、お祭りに来ているのは事実なんだし、せっかくだから楽しまないと。ね?」


「シャラさん」


 いつものメイド服ではなく、普段着のようなワンピースを着たシャラさんは、見慣れないというか、新鮮で、ドギマギとさせられる。

 普段はまとめている髪を降ろしているのも新鮮で、意外と髪が長かったんだなあ、などとつい見惚れそうになっていると、ぎゅっと反対側の服の裾を強く引っ張られた。


「どうかされましたか、シャルリア様」


 もしかして、と思い、アイリーン様とカルヴィン様の事をシャラさんに頼んで、シャルリア様の視線の先にあったイチゴ水を購入して、差し出した。


「どうぞ」


「……ありがとうございます」


 受け取ってはくださったけれど、シャルリア様は難しいお顔をなさっていて、どうやらこれは正解ではなかったらしい。

 やはり、こういった人が集まるお祭りなどは得意とされてはいないのだろうか。

 それとも、心配で心から楽しめずにいらっしゃるとか?

 しかし、それでは国王様から言い渡されている「子供たちを頼む」というお言いつけを実行できない。シャルリア様にもお祭りを心から楽しんでいただけるようにしなくては。

 僕は視線の端から外れそうになっているシャラさん達に追いつくべく、シャルリア様の手を強く握らせてもらった。

 シャルリア様が驚いたように、綺麗な紅い瞳を見開かれる。


「はぐれてしまわないように、掴んでいてくださいますか? 他にも色々と子豚のレースだったり、輪投げなんかの楽しそうな事もたくさんあるようですから、そちらも見て回りましょう」


 探知の魔法を使えばすぐに位置は分かるけれど、はぐれないに越したことはない。

 

「……分かりました。アルフリードもまだこちらに慣れてはいないでしょうから、はぐれてしまわないように、しっかりと私が掴んでおきます」


 つんと澄ました表情でいらしたシャルリア様は、照れていらっしゃるのか、耳まで真っ赤になさっていた。

 けれど、僕がそっと、半分だけ視線を外すと、少しだけ口元を緩められて、それからそれに気付かれまいとされるかのように、慌てた様子で引き締められた。

 それから、シャラさん達と合流して、道端で玉投げや風船を膨らませているところを見物したり、ドジョウ掬いをやっていたりする、また他の屋台を覗いたりした。


「真っ白な髪の女の子? 悪いけどうちには来てないなあ」


 姫様方はお祭りを楽しまれていらっしゃるご様子で、それは本当に喜ばしいことだったけれど、僕の方の調査は相変わらず、何の進展も見られず。


「どうしたの、アルフリード。少し疲れているみたいよ。あっちで休んでいたらどうかしら?」


 なるべく態度や表情には出さないようにと気を遣ってはいたけれど、どうやら心配をかけてしまっていたらしい。


「すみません、シャラさん。大丈夫です」


 そうだ。

 たしかにシュエットの捜索は、僕にとっては、重要な案件だけれど、今はそれよりも大事な役目をいただいている。

 

「そこのお方」


 決意を新たにしたところで、背後から声をかけられた。

 きょろきょろ辺りを見回してはみたけれど、屋台並びから少し外れた、路地裏への道に店を構えるその黒いフードの女性の店のことは、他の誰も気にしてはいないような様子だった。

 気がついているのが僕だけで、それを否定されたり、間違いだと指摘されたりしないということは、声を掛けられたのが僕だということなのだろう。


「もしかして、人を探しているんじゃないかい?」


「分かるのですか?」


 つい、驚いて声をかけてしまった。

 王子様、王女様方の護衛という任務を忘れていたわけではないけれど、あまりにも思考と一致していたため、思わず惹かれてしまった。


「ええ、分かりますとも。とはいえ、今はぼんやりとしか分かりませんがねえ」


 ぼんやりとでも構わない。

 今までは全く手掛かりがなかったのだから、すくなくとも、人を探していると言い当てられたことは確かなのだから。


「それで、どの辺りにいるのでしょうか?」


「そうだねえ。少し――」


「アルフリード!」


 遠くの方から僕を呼ぶ声が聞こえてきて、はっと我に返った。

 そうだ。今は、僕の事情を優先させている状況じゃなかった。


「すみません。また今度、お尋ねいたします。ありがとうございました」


 普段はどこにいらっしゃるのか、地図でも頼もうか、それとも女性に対してそれは失礼だろうかと思っていたら、去り際に、女性の方から二つ折りにされた地図らしきものを渡してくださった。


「アルフリード。休んできたらとは言ったけれど、あなたの方が迷子になっていてどうするのよ」


 戻ると、シャラさんに怒られた。

 自分のことに夢中になり過ぎて、本来の役目を忘れていたら意味がない。

 あくまでも、本来の役目は姫様方の護衛だったのだから。


「すみません」


「分かればよろしい」


 カルヴィン様とアイリーン様の手を握られたシャラさんの後を追いかけるべく、シャルリア様に手を差し出しかけて、まだメモを握ったままだったと気がついた。


「アルフリード。それは……?」


「いえ。何でもありません。行きましょうか」


 すぐにメモを収納して誤魔化したけれど、シャルリア様の視線はじっとそこへ注がれている様子だった。

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