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シャルリア王女 9

 女の子へのプレゼントには、どのようなものを贈るのが良いのだろう。 

 気持ちが込められていれば十分よ、とシュエットは言っていたけれど、幼馴染の欲しがりそうなもの、趣味趣向は漠然と理解していたし、我が家の経済事情が芳しくはないということも把握されていたので、誕生日のプレゼントに困ったことはなかった。 

 しかし、今回はシュエットへのプレゼントではない。

 シャルリア王女のお誕生日にはもちろん、僕もいつもよりさらに気合を入れてお料理や飾り付けをするつもりだ。


「……そうはいっても、僕なんかが王女様に贈り物なんかしてもかまわないのだろうか」


 シャラさんは、お誕生日を祝して、お城や国を挙げてのパーティーやお祭りはやらないのだとおっしゃられてはいたけれど、少なくともお城ではお祝いをすることだろう。

 料理なんかはプレゼントにはならないだろうし、女の子の欲しがるような、ぬいぐるみやら、洋服やら、アクセサリーやらを、シャルリア王女が欲しがるだろうかと聞かれると、あまりそうは思えなかった。

 シャルリア王女とお会いしてから、それほど日が経っているわけではない、というより、まだ数日しか経っていないのだけれど、何となくそのように感じていた。

 かといって、ヴァイオリンやら、宝石類は、シャルリア王女に似合いそうなものを探すと、きっと値が張ってしまって、この国――もしかしたらこの世界――のお金をほとんど持っていない僕には、おそらく手の届かないものになることだろう。

 

「アルフリード、何を難しそうに考え込んでいるの?」


 エプロンドレス、お城の制服であるメイド服に身を包み、てきぱきと慣れた手つきでフライパンを動かすシャラさんが、手を止めずに僕に話しかけてこられる。


「はい。先日おっしゃられていた、シャルリア様のお誕生日のことですけれど、シャラさん達は何かお贈りになられるのですか?」


 もしそうならばそれに便乗する形でもいいかな、なんて、恥知らずなことを考えていたのだけれど。


「私たちは、特に。もちろん、当日の飾りつけや料理には腕によりをかけるけれど、これといって、個人的にはもちろん、使用人一同、みたいな感じにお贈りしたことはないわね。日頃の感謝は日々の仕事の中で示せばいい、というより、示すことの出来るように努めなくてはならないのだし」


 それはそうだろうなというのは僕も察している。

 使用人がお仕えしている方に贈り物をしてはならないという法は聞いたことはない(おそらくこの国にもないだろう)けれど、何かを贈るにしても、それを手に入れるための金銭は、結局、主人様から賜っているものだ。


「でもね、贈り物をしてはいけない、という法はないし、してはいけないと決められているわけではないのよ。感謝の気持ちを形にして表すのも素敵だと思うわ」


 感謝……はもちろんしている。

 ここへ流れ着いた僕をシャルリア王女が拾ってくださらなければ、僕はそのまま野垂れ死んでいたかもしれないのだから。

 でも、何とも思っていない相手からのプレゼントなんて、気味が悪いというか、むしろ迷惑というか。

 

「贈るだけなら、相手はタダだし、気に入らなければ気に入らないで、捨てるなり、燃やすなりすればいいだけで、すっきりするとか、ストレス解消に使えなくもないし、別に構わないんじゃないかしら。まあ、主人が使用人に贈り物っていうのは聞いたことがあるけれど、その逆はあんまり聞かないけどね」


「それに、好きって気持ちだけなら、身分の上下は関係ないし」


 僕はまだシャルリア王女を好きだとは、いや、嫌いということではなく、好きか嫌いかと聞かれたら好きにはなるのだろうけれど、一般的に、男女間で起こるような、恋愛的な好きということではないというか。

 何というか、ちょっとした――ということもないけれど――誓いのためというか。


「何? その誓いって。アルフリードとシャルリア様の間に、いつ、何があったの? もしかして、朝の話と関係ある話?」


 シャラさんがそうおっしゃられると、その場にいらした皆さんが寄って来られてしまい、シャラさんは特に躊躇われることもなく話してしまわれた。

 どうやら、また余計なことを口走ってしまったらしい。ここへ来てから自爆してばっかりだ。

 別に、シャルリア王女とのことを秘密にしていたということではないのだけれど。断じてそんなことはないのだけれど、何となくもやっとするのは何故だろう。


「シャルリア様とお約束しているため詳しくお話しすることは出来ませんが、先日、シャルリア様に、必ずお味方いたしますと誓いを立てさせていただいたのです」


 そう話した直後、一瞬の沈黙の後、近寄って来られた皆さんに、ほっぺたを引っ張られ、口々に文句を言われる。


「どうしてそんなに面白そうな話を黙っていたのよ!」


「黙っていたのはこの口? この口が悪いのかしら?」


「本当にそれだけ? 他にも何かあったんじゃないの?」


 凄い喰いつきようだった。

 もう調理自体は終わっていて、後は盛り付けるだけだったためか、その場にいらっしゃるメイドさんが全員、手に持っていらしたお皿やら、フライパンやら、鍋やらを一端置かれて、僕を取り囲まれていらした。

 傍から見れば、一種のモテ期、ハーレムにも見えないことはなかったけれど、内情は全然違う。僕の気分は、いじめっ子に捕まったいじめられっ子か、とにかく、一刻も早くその場から逃げ出したいということでいっぱいだった。


「ほら、素直に吐いて楽になりなさい。早く、私たちにネタを提供するのよ」


 ネタにされると分かっているものを、何故、わざわざ提供しなくてはならないのか。


「喋らないというのなら、もし、アルフリードの幼馴染のシュエットさんが見つかった時、あることないこと、吹き込むわよ」


「もしくは、アルフリードの制服を、明日から私たちと同じエプロンドレスにするわよ」


「ホワイトブリムの代わりに猫耳をプレゼントするわよ」


 しかし、どちらにしても、むしろ、話さない場合の僕への被害がどんどん膨れ上がってゆき、僕は結局ほとんど話さざるを得なくなった。


「へえ。そんなことがねえ……」


「でも、この様子だと、アルフリードってば、全然分かってないわよ」


 内緒話なら、本人のいない所でやっていただきたい。いくらひそひそしているようでも、この距離ならば聞こえないということはない。もちろん、完全に、全てが聞こえるという訳ではないのだけれど、ときどき、わざと漏らしているのではとも思えるほどの時がある。

 まあ、これも僕の精神がゴリゴリ削られるだけで、仕事に影響はないので、何か言うことは出来ないのだけれど。

 シャラさん達はしばらく話し込まれ、顔を合わせて頷き合われた後。


「やっぱり、シャルリア様にプレゼントをお贈りするべきよ。場所が分からないというのなら、私たちが案内してあげるわよ」


「こうしちゃいられないわ。今日の買い物当番は私が行くから、その時、アルフリードも付いてきて。私が教えてあげる。とはいっても、アドバイスだけよ。ちゃんと、シャルリア王女にお渡しするときには、自分で選んだのだと言うのよ?」


 シャラさんは真面目そうな顔でそうおっしゃられて、僕は頷いた。

 シャルリア王女の欲しいもの、というよりも、僕の気持ちの証か。


「じゃあ、朝のうちに掃除やらなにやら終わらせて、昼過ぎに出かけましょう。お金がないって言いたいんでしょう? アルフリードはここへ来たばかりだものね。大丈夫、その辺りも考えてあるから」


 そうおっしゃられて、シャラさん達は楽しそうに笑われた。


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