カルヴィン様の縁談 3
◇ ◇ ◇
「アルフリード」
その日の昼過ぎ、お昼の片付けを終えて、干していた洗濯物を取り込んでいる僕に声が掛けられて、振り向くとカルヴィン様がいらっしゃった。
昨日までの雪の影響か、今日はしっかり晴れていて、むしろ昨日屋内に干していた分まで外で日に当てるためにと、量自体は結構多い。
その、女性のものまで干してあるところへ僕だけで行かせるのは、信頼されているのか、あるいは男として意識されていないのか、もしくは両方か。
持ち回り制だから当然と言えば当然なのだけれど、なんとなくため息のひとつもつきたくなる。
もちろん、任されたからには真摯に取り組んではいるけれど。
カルヴィン様は、干してある女性ものの下着(本当に僕に任せて大丈夫なのだろうかと、信頼されていると感じるとともに、男だと思われていないのではないかと一抹の不安も感じる)から慌てられたように目を背けられ、お顔を赤くされた。
普段、王様になられるためのお勉強に真剣に打ち込んでいらっしゃるカルヴィン様は、このように昼間から、というより、僕に限らずとも、個人的にこのようなお声をかけられることは、大変珍しい。むしろ、僕がこのお城に来てからでは、ほとんど初めてといってもいいのかもしれない。
「どうかなさいましたか、カルヴィン様」
年頃の男の子の純情を弄ぶ気はなかったし、というより、僕も何だか居たたまれない気になるし、急いでシーツやタオルなどと一緒に籠の中へとしまい込む。
「忙しいところを済まない。しかし、このようなことを相談できる相手は、アルフリードしかいなくてな」
困ったようなお顔を浮かべられるカルヴィン様と、先程聞いた話を考えるに、このタイミングでお話があるとしたら、噂の婚約者様のことについてに他ならないだろう。
「その、聞いた話では、アルフリードは恋愛経験も豊富だということだし、女性に好意を寄せられる男性としての心構えというか、こういった場合、どのように対処するのが正しいのか、教えて貰いたい」
案の定、カルヴィン様のお話は、今度いらっしゃるという、婚約されるかもしれないというお相手に関してのことだった。
誰に聞いた話――おそらく、アイリーン様だろうけれど――なのかは分からないけれど、僕の恋愛経験は豊富ではない。むしろ、通常の人よりも関りが薄いといえる。
学院は途中でやめざるを得なかったため、年の近い、仲の良い異性といえば、このお城に来るまでは、シュエットくらいのものだった。
今でこそ、年の近い(だろう)女性の知り合いは、お城のメイドさんたちがたくさんいらっしゃるけれど、そこに恋愛感情などというものが入り込むはずもない。
頼っていただけることは素直に嬉しく感じるけれど、同時に、おそらく僕ではお力に慣れなくて落胆されるだろうと思うと、申し訳ない気持ちになる。
「申し訳ありませんが、カルヴィン様。お聞きになられたという、私が女性の相手に慣れているという噂は真実ではありません。私といたしましても、お力になれず心苦しくはありますが、そのお話でしたら、私などよりも、メイドのどなたか、もしくはナティカ様、アイリーン様になさる方が、より良いアドバイスをいただけるはずです」
僕を頼ってくださったことは、その信頼には応えたいと思う。
けれど、カルヴィン様の、もしかしたら、今後一生に関わるかもしれない事で、曖昧な言葉で濁したり、的外れな助言をしたくはない。
多分、本当に1番良いのは、ジェリック様に御頼りする事だろうけれど。
まあ、御自分の父親に「女性の口説き方を教えてくれ」なんて、とても頼めたものではないというのはよく分かる。
僕だって、初恋――というよりはおそらく憧憬のような感情なのだろうけれど、小さい頃におつかいへ出かけたりしたときに、お話をしたりした花屋のお姉さんに、逢えたら嬉しいなんてことを、まだ健在だった両親に話したことはなかったし。
「ですが、そうですね。私はこんなお見合いや、婚約などとは縁遠い生活をしておりましたので、カルヴィン様にご助言できるようなことなど、それこそ御存知であるような一般論くらいしかありませんが、やはり、噂に惑わされず、御身の目で直接判断、確かめられるのが良いかと思います。国王様も、結婚や婚約を――まだ――無理強いはなされないでしょう。いずれ来る将来のため、選択の幅を広げられるようにと配慮されたのではないでしょうか」
カルヴィン様は、この国の次期国王様として、必ずどなたかをお迎えしなくてはならないだろう。
国や世界が違えども、その国の王子様、国王様の、最も大切なお仕事が国を存続させること、つまりは、お世継ぎを残されることだということは変わらないだろうから。
もっとも、それはなにも、国王様などに限った話ではないけれど。
「まずはお友達から、という言葉もございます。私などに言われるのは心外でしょうけれど、そう肩ひじを張られずに、滅多にない、このような外の方とお関わり合いになられる機会を楽しまれてはいかがでしょうか」
国王様も、王妃様も、息子を、いくら王子としての役目が重要とはいえ、本当に望まない婚約を無理やり推し進められたりはなさらないだろう。
クラベルさんとは、そういう雰囲気にはなるべくもなかったし、小雪さんは、まだ今後次第でどうなることか分からないけれど、僕が知っている限り、カルヴィン様が御姉妹以外でお歳の近い異性と関わり合いを持たれたのはそのおふた方だけだ。
カルヴィン様のお立場で、難しいというのは分かるけれど、だからこそ、こういった機会を楽しんでいただきたい、というのが、僕の本心でもあるところだった。
「そうか。私も、相手方へ無理強いしたくはない。それでは国王として、民や臣下の信を得られはしないだろうから」
カルヴィン様は納得されたように頷かれると、僕へと頭を下げられた。
「感謝する、アルフリード。たしかに、女性に対するエスコートの経験にはなるかもしれない。もちろん、こんな気持ちでは先方に失礼で、私も真摯に対応するつもりだが」
普通、男子なら、綺麗で可愛い女の子と会える、しかも、自分の婚約者かもしれないとなれば、すくなからず舞い上がってしまうだろうというところ、このような対応をとられるカルヴィン様を、僕は眩しく見つめた。




