プロローグ
長い間、正確に言えば小学生の時から、僕は自分を平凡な人物だと思い込んでいた。身長168センチ、体重59キロ。ベジータより4センチ高く、ちびまる子ちゃんより34キロ重い。平均的な身長に体重、容姿、性格、頭脳。友達はあまりいないがさほど気にしたことはない。
「平凡」という言葉を集めて人型にするとできるものが自分―――寺生正敏だと、ふと思ったこともある。
平凡と聞くと、生きていくのにさほど苦労しないというイメージを持つかもしれないが、そんなことはない。
現に今、僕は悩みを抱えているのだから。
「はい、じゃあみんなに自己紹介をしましょうか」
教壇に立つ若い女教師の発言で、教室内の空気が変わる。
緊張する者、ニヤニヤと笑みを浮かべる者、早く話したくて仕方がないというように姿勢を正す者。期待と不安が全員の顔に現れているように感じた。
そう、僕たちは高校に進学したばかりの1年生だ。そして僕の悩みとは、まさに今直面している自己紹介のことである。
「はじめまして、井上朱里といいます。趣味はお菓子作りで……」
教室の左端、五十音順で先頭に位置する女生徒が恥ずかしがりながら話し始める。周りの人間はまるで品定めをするようにざわざわと盛り上がっている。ここでの発言で今後の立場がほぼ決まるのだから恐ろしいイベントだ。僕にとって、自己紹介はあまり嬉しいものではなかった。
何しろこれといって言うことがない。
平凡であることはつまり、特徴がないということだ。これは自己紹介においては頭の痛い事実だった。
何を話そうかと悩みながらペンを指で回す。考え事をするときの癖のようなものだ。
二番目の植松という名前の男子生徒も、無難なことしか言わなかった。趣味はテレビゲーム、特技はサッカー。その程度の情報でいいのなら、僕も何とか乗り切れそうだ。
ふと、三番目の生徒に目が留まった。しっとりとした黒髪のどこか品のある佇まいの少女だ。実際はどうか知らないが「お嬢様」のような雰囲気だった。彼女は誰から見ても美人だったが、そこに惹かれたわけではない。既視感というべきか、初対面であるはずなのにどこかで会ったことがあるように感じられたのだ。
少女が立ち上がり、全員の注目が彼女に集まる。
主に男子生徒からの期待が充満する中、彼女は口を開いた。
「折附志紀です!フシギちゃんって呼んでください!趣味は都市伝説探しです!!」
空気が、凍り付いた。




