18誰が為の浪漫
「見習い、良いデートスポットを聞いたぞ?」
「誰情報ですか?」
「宰相閣下だ」
「却下です!!」
宰相閣下のオススメはろくなことが起こらない、これが先日のデート事件の教訓です。しかし宰相補佐官様は熱くデートスポットを語った
いわく、浪漫あふれる風景を見ながらお茶を飲んだりする浪漫あふれる場所で、結婚間近の恋人たちには絶大な人気を誇る浪漫あふれる場所……だそうだ。何故にしつこく『浪漫あふれる』を強調するのかわかりませんが、ちょっとだけ興味を持つ。いや、でもなぁ……宰相閣下の情報だしなぁ
念の為に第2王女殿下に確認を取ったところ、そこにはまだ行ったことがないと仰られた
「話にも聞いたことがないのぅ。まだ入手したての情報なのか、……いかがわしいことが出来ぬ健全な場所であったか、あれの琴線には触れなかったのではないかな?」
「宰相閣下が興味を持たなかった場所なら、安心ですね!!」
それもどうかと思う、と殿下は遠くを見つめる。未成年ながら婚約者の事を考えていると、とても艶やかな表情をなされる殿下、調教済み……なんて思ってしまった私は不敬罪です。申し訳ありません、私も殿下と共に遠い目をしながら宰相府のある方向を眺めた
そして結局そのおすすめのデートスポットへいくことになったのですが、昼に出発の予定が宰相補佐官様のお仕事の関係で遅くなってしまった。すでに夕刻に近いのでまた日を改めてということにしましょうと言ったのに、そのまま決行ということで、彼の軍馬に同乗して風のようにデートスポットへと疾走した
早すぎて目を開けられない!!こんなに速度を出したら怒られるのではないかと思い、宰相補佐官様の腰に回していた腕で腹の辺りをつつく。騎士の私が結構強めにつついているのに、宰相補佐官様は気付かないのか無視しているのかわからないが、一向に速度を落とさずむしろ早くなっているような気がする……。ひぃぃ、ガクガクと体がぶれて怖いので、つつくのは一旦中止しひたすらに彼の腰にしがみついていた
は、早く着いてくれ~!!
「……ここですか?浪漫あふれる風景を見ながらお茶をしたりできる浪漫あふれる場所は」
「そうだ、どうだ見習い」
「真っ暗で何も見えません」
疾走中、すっかり日は暮れて真っ暗。現在どこにいるのかもわからず
どうだと言わんばかりに馬から降ろされ、感想を聞いてくる宰相補佐官様。私はてっきりお洒落なお店があるのだと思っていたのですが、明かり1つみえません、真っ暗です。風が下から吹いてくるような感覚、恐らく崖のようなところに立っているのでしょう、うかつに歩くと落ちてしまうかも……とオドオドしているうちに、あれ?宰相補佐官様はどこへ行ったのでしょう。真っ暗でわかりませんよ!?
これでも騎士なので、人の気配ぐらいは探せるはずなのに。と言うか馬の気配まで感じられません、どういうことですか?もしかして崖から落ちた……とか?
「宰相補佐官様ッ!!どこですか、返事をしてくださいッ」
あんなムキムキでも一応文官。騎士ほどの身体能力が……ありましたね、そういえば。最悪落ちたとしても、一言も漏らさずに落ちていけるものなのでしょうか?馬だってヒヒンともいいませんでしたし。風の音のみが聞こえる暗闇の中、私はどうしていいかわからず泣きそうです
「馬~~~!!補佐官様~~~!!」
声を張れるだけ張って呼びかけます。どうか無事で……
「何故私よりも、馬を先に呼ぶのだ見習い」
「ひぃぃ、どこにいるのですか、まったく見えないのですが?」
急に返事が返ってきて、崖に落ちたのではないという事はわかったのですが、声が木々に反響して居場所が特定できません。声はすれども、姿も気配も見えず……あわあわと走り出そうとすると
「むやみに動くな見習い。落ちるぞ?」
「だ、だって……」
「どうにかしてほしいのならば、服を脱げ。見習いの白い裸体なら、暗闇の中でも良く目立つだろう」
「……………………は?」
ナニヲイッテイルノカシラ?
月にかかっていた雲が途切れ、少しだけ視界が明るくなりました。すると馬と宰相補佐官様、いいえ、宰相補佐官様と馬は、ほんの数歩離れたところに普通に立っていました。何故こんな至近距離で気配が探れないの、私
いえ、何故気配を消すの宰相補佐官様(と馬)
宰相補佐官様は近づいて私の腰を掴み馬に乗せ、ご自分は手綱を引いて崖の下へ迂回して歩いていきます。崖の下には小さな洒落た建物。宰相補佐官様は懐から鍵を取り出しドアを開けると、そこそこ広い落ち着いた雰囲気のリビングがありました。馬を繋いでくるから先に入っていなさいと言われ、きょろきょろとしながら足を踏み入れました
リビングに入ると自動で明かりがともります。魔法でしょうか……さらに中央に置いてあるローテーブルには、品質保持の埃避け風魔法装置がお酒と食事にかぶせられていました。どうした、急に浪漫あふれる事になっている!!さっきまでホラー感丸出しだったのに!?
宰相補佐官様は馬を繋いで戻ってきて、うろうろと見学している私に一言
「飯にするか、風呂にするか、それとも私?」
「それは男の浪漫ですよね、真顔で言わないで下さいよ……」
「ここは疑似新婚生活を楽しむものだからな。定番は言っておかねば……」
「それは女の台詞だと思いますよ。でも、まぁごっこ遊びですか……浪漫かなぁ?」
少々疑問が残るけど、腹が減ったと言う宰相補佐官様は、飯にすると言ってテーブルの方へ。ローテーブルなので、床に敷いてあるフカフカのラグにぺたんと座る仕様です。どうやら仕事が忙しくて昼食を食べていない彼。それを早く言ってくださいよ、そうしたらうろうろしていないで、私が準備をしておいたのに……
彼が料理にかけられていた魔法装置を取り去ると、ふわりと良い香りが部屋に広がります。ワインのボトルをとり栓を開け、グラスに注いでくれ……あ、これ農業国産のワインですね!!美味しいと噂の産地の物で、結構お高いのではないでしょうか。食事も凄く豪華です、でもこんなに豪華だと新婚生活と言うより貴族生活みたいですね
……一応うちも貴族ですが、貧乏貴族なものでこんな立派な食事は出てきません。あ、母の食事は美味しいですよ、特にキャベツ多めのロールキャベツが大好きなのです
落ち着いたリビングで美味しい食事と美味しいお酒を味わい。食事が終わった後、テラスへ出てちょっとほろ酔いで2人並んで夜空を眺めます。昼は昼できれいな景色だったのでしょうけど、夜でも星空が綺麗でこれもありかなぁ……なんて、きゅっとワインをあけます
「夜空なんてどこで見ても同じだがな」
「もう、浪漫台無しです!!」
では浪漫回復にと言って宰相補佐官様は軽い口づけを贈ってくれました……。満天の星空の元、心行くまで夜空を………………って、ちょっと待った!!
「そろそろ家に帰らないと、こんなに遅くなるなんて言ってきていません」
今日はデート後、実家へ帰ると外出申請をしていたのだった。いえ、デートだとは言っていません、外出後と書きました。私は第2王女殿下の護衛騎士をしているので、ある程度居場所を申請しておかないといけないのです。でも、こんな真っ暗の中帰るなんて危険すぎませんか?
そう言うと宰相補佐官様はあっさりと答えた
「まだ風呂に入っていないし、私を喰ってもいないだろう?大丈夫だ、あらかじめ申請を訂正しておいたからな。見習いの家にも連絡済みだから心配するな。……まぁ、その所為で出発が遅れたのだが」
「え、お仕事じゃなかったんですか?」
「申請用紙の訂正は、文官の仕事だ。そうだろう?……嫁見習い」
そう言いながら私にのしかかり、服に手をかけられた。これは計画的犯行ッ、最初から泊まる気だったんですね、だからディナーが用意されていたんですね、もう!!
そう後悔してもすでに遅し、裸に剥かれて一緒にお風呂に入り、宰相補佐官様が3人並んで寝られるような広いベッドで、夜明けの紅茶を飲んだのであった。ぐったりと山と緑が美しい景色を眺めながら、デートってこうなのかしらと、少々疑問に思ったのだけれども。
後日、宰相閣下にこのデートスポットについて、どのあたりが琴線に触れなかったのか聞く機会があったのだが……
「あ~あれね。ちょっといいかなぁと思ったんだけどさ、さすがに管理人がいるとはいえ、ほぼ密室状態でお泊りだとさぁ。理性吹っ飛ぶじゃない?」
「あ、管理人さんがいたんですか……」
アノ時の声聞かれてしまったかしら?今更ながら、恥ずかしくなってしまった。宰相補佐官様が言うには、少し離れたところに管理人棟があって、そこから食事の用意などをしてくれるのだそうで
洒落た建物は他にも何軒かあって、それぞれ独立した作りで守護の魔法もかかっているそうだ。敷地内に入ればかなりの大声も漏れないように。ちなみに犯罪に利用されないように、利用には審査が必要だと言う
私が理解したのを見て、宰相閣下は話を続ける
「さすがに理性の塊である俺でも、入れちゃうと思うんだよねぇ……。婚約者が可愛くて辛い……」
「何を?」
「ナニを。さすがに殿下がお忍びでお泊りはまずいだろう?」
あぁ、早く成人してくれないかなぁ……なんて遠い目をする宰相閣下。視線の先には奥宮、王族方のお住まいになっている宮が……殿下、逃げて!!と叫びたいです。
ひとまず番外編は終了。そういえば、湖に行っていないなぁ……と思ったデート編でしたが、結局湖には行っていないという……。
読んでくださって、ありがとうございました。




