第2話 英雄譚の始まりはあながち平凡。
······モグモグモグモグ。
知らぬ間にポケットに入っていた謎の硬貨で売店に売っていたパンを買い、口に頬張りながら空を眺め街道を歩いていた。
街中はいたって普通、異世界とは言え、魔物や盗人が蔓延っているようなラノベ環境ほど治安は悪くはないようだ。
持ち金にも限りはあるし、お金になる仕事を探さないといけない······。
やっぱり定番は冒険者だよな······。
目の前にご立派にそびえている冒険者ギルド。壁のような圧に覆われた建物の扉をそっと開いた
汗と血が混臭するギルド内は荒くれ者たちがみっちりと集まり、あちらこちらで酒を酌み交わしている。
僕は甘かった。
僕の想像していた冒険者ギルドは若い男女パーティーが沢山いて、優しそうなお姉さんたちが受付をしているものだった。しかし、目の前に実在しているのはギルド内に蔓延る男たちの暑苦しい視線やゴリゴリマッチョのタンクトップの受付人、挙げ句の果てには女性の一人もいない······。
それはそうだ、こんな胸苦しい職業に就く人なんて家を持たない荒くれ者くらいだ。
入り口の目の前で唖然と立ち尽くしていると、ある冒険者パーティーがやってきた。
「大丈夫かい、君?」
こもったような声で息を荒くして話しかけてきたのは鉄の鎧を身に纏った覆面姿の巨人だった。
「!?」
驚きのあまり身体は硬直して目前も徐々に暗くなっていった。
「······きろ! 起きろ!」
語りかける声が次第に大きく聞こえてきた頃、僕は目を覚ました。
目の前には申し訳なさそうに声をかけてくれる青年と女性の姿があった。
僕が目を覚ますと女性の方から声をかけてきた。
「よかった〜、ごめんね坊や!」
「ゲルシュ、街に入ったら兜くらい外しなさいよ」
「悪い! 魔狩りに気を取られて兜外すの忘れてた」
「そんな怖い装備、さっさと変えなさいよ!」
説教よりの怒りをぶつける女性は何やら魔術師のようだ。叱られている青年は鞘に重そうな剣を収めているし両手剣士なのだろう。
「この甲冑、隠蔽に適して気にいってたんだけどなぁ······」
「フン······?」
何気なく発した言葉は目の前にいる青年と女性の耳まで届いたようで視線をこちらへ向けてきた。
「坊や、どこの子か分かる?」
「ぼくちゃん?」
「あなたのことよ! 冒険者ギルドになんて来たからとっても心配だったんですよ」
「フン?」
「ぼくちゃん、自分の名前分かる?」
「僕の名前は······うぅ、僕の名前、分からない」
僕の名前は······、、、出てこない······。
転生したことは覚えているのに前世の記憶が曖昧になっている気がする。
「分からないみたいね······。どうする? 子供を1人にする訳にもいかないし······」
「名前は······分からないけど······僕にはもう親はいない気がする······」
「ん~。教会に届けようにも空いてる教会は今無いし、どうしようかしら?」
「······それなら俺たちの通ってる学園にでも通ってもらうか?」
青年と女性は何かを話し合っている様だが僕はまだはっきりと理解することが出来なかった。
「ぼくちゃん、行き場はあるか?」
「ないです······」
「無いのならうちの学園に来てみないか? 衣食住どれも揃っていて困ることは無いけど、どうする?」
······学園生活か~、あんまり良い思い出は無いけど、無料飯が食えるなら入ってみようかな······。
僕は目の前に佇む青年に行く旨のことを伝えた。青年は座っていた椅子から立ち上がり、ギルドを出た。




