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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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その後、トライツは素直に全てを自白した。


この計画は数年かけて、「知の賢者」となってすぐに考え出したこと。

ルカリアの最初の体調不良は、皇宮に出された飲料に薬物を混入させたこと。

そうしてルカリアを教会に誘導し、禁術を使って洗脳した回復術士を使い、ご神体を削らせルカリアの体内に欠片を埋め込んだこと。


そしてその目的。

聖女伝説の再現、そしてその後の飢饉の再現を目論んだこと。


淡々と顔を上げて語る様は、まるで「知の賢者」として情報の提供を求められた時と同じような落ち着きぶりだった。


「トライツよ。・・・すまなかった」


皇帝はトライツに向かい、座ったまま深く頭を下げた。


「『知の賢者』が負担と犠牲の多い職だということは、

 皇帝である私は知っていた。

 それでも、慣例という言葉に甘え、

 君たち『器』の献身に甘え、

 何の抵抗もなくその制度を維持してきてしまった。


 …これは愚策を取った私の責任でもある」


トライツはひとつ息を吐き、

ためらうように言葉を発した。


「この計画について考えている時が、

 唯一心が慰められる時間でした。

 今に見ていろ、目に物見せてやる、って」


皇帝は顔を上げ、トライツの顔をのぞき込む。

その幼い目にはうっすらと涙の膜がはり、波を打つ。


「そうじゃないと、心が壊れそうでした。

 僕はこんなジョブ、望んでいなかった」


こぼれ落ちた涙がトライツの頬を伝う。


皆はようやく、トライツの本質を見た。

彼はまだ若い。少年と言っていい年齢だ。


必死に肩をいからせ、同胞の犠牲と国の歴史を背負い、歯を食いしばって耐えた真面目な少年なのだ。



「謝らないでください。

 陛下もみんなも、いい人だって知ってる。

 僕がこの業を、抱えきれなかっただけだ。


 …弱かったのは、僕なんです」


もはや堪えきれなくなった涙が、次から次から頬を濡らした。

唇が震え歪み、嗚咽が漏れる。



この世界で誰もが持って生まれ落ち、

その身と共に在る「ジョブ」。


それによって身を立てる者もいれば、

身を滅ぼす者もいる。


…トライツや回復術士たちのように、

己の行く末を定められてしまうことも。



…己のジョブを呪う者もいるだろう。


しかしそれは全て、創造主たる女神の思し召し。


天地の理に介入できる者など、誰もいない。




…はずだった。




「ねえ、今の話聞いてた?」


少し苛立ったような声を発したのは、白衣のままのキラーヤだ。


手になにか小さな板状のものを当て、誰かと話しているようだ。


「あ、いける?じゃよろしく」


納得したようにキラーヤが軽く返答した直後、ホール全体に声が響いた。



『あ、あー。聞こえますか』


どこからの声かと皆辺りを見渡すが、誰の声か分からない。


「ご紹介します。女神ネフェリです」


キラーヤはそう言い、ざわつく観衆に向かい、一応証明するねと教皇にご神体の間を開けさせた。


前室に集まった魔物医療チームがさっと左右に分かれ、ホールに集まる皆にもご神体が見えるように示す。


『改めまして、私はネフェリ。

 本当は声を聞かせることはできないんだけど、

 神殿だし、まぁいいかなって』


また声が響く。声に合わせ、ご神体が青く点滅するように発光している。


「ほ、本当か」


「啓示だ!!女神ネフェリの啓示だ!!

 記録を取れ!一言も聞き漏らすな!」


教皇や神殿の職員達が慌てふためくなか、女神ネフェリはのんびりと語り出した。


『ジョブも、あの聖遺物も、

 あなたたち愛しい子が便利に使えればと思って、

 作ったの』


『でも、それで苦しむ子がいるのは歓迎できないわ。

 だいいち、国の歴史全てを一人の子に詰め込むなんて、

 そんなジョブの使い方をするなんて発想、

 私には思いつかなかった。


 人間は賢く、横着で、愚かよね。

 そこが愛しいのだけれど』


『トライツ・ティンバーレイク。

 そしてネフェリ帝国皇帝』


「…、は!」

「は、い」


突然呼びかけられ、座った皇帝は姿勢を正し、トライツは膝を突いて頭を下げる。


『あなた方の行いは咎めません。

 トライツの憤りも、為政者が犠牲に目を瞑るのも、

 よく分かるしね』


「は…」


『けれど、禊ぎは受けてもらいましょう。

 …これより300年、人々の目からジョブを隠します』


「か、隠す…?」

「どういうことだ」

「ジョブが消えると言うことか」


皆口々に戸惑いを言葉にする中、女神ネフェリは言った。


『ジョブが消える訳ではありません。

 ただ、見えなくなるの。

 これから生まれてくる子達は、

 自分が何に適性があるか、自分の手で探すことになる』


「探す…」


『逆に言えば、ジョブに縛られることはなくなる。

 自分次第で、好きな仕事に就ける。

 多くの人は今もそうだし、あまり変化ないんじゃない?』


「しかし、『知の賢者』は…」


トライツが声を上げる。

彼が言いたいことは分かる。

『知の賢者』は国に必要な存在であり、「器」ジョブを持たぬ者が聖遺物に触れれば命を落としかねない。


『というかねぇ、

 あの聖遺物の使い方は、

 人に触れさせるだけじゃないのよ』


『あの聖遺物の前に立って、

 質問するだけでいいの。

 聖遺物が答えてくれるわ。

 

 人に情報を植え付ける使い方は、

 本来私が想定したものじゃないのよ。


 たまたま過去の横着な皇帝が、

 「器」の子に無理にやらせただけでね』



「そ、それなら!!

 もっと早くに訂正してくれれば良かった!!

 あんなにたくさんの「器」が死ぬこともなかったのに!!」


トライツが吠える。

が、ネフェリはバッサリと切り捨てた。


『警告したわ』


『私は信託を出した。

 「人間に聖遺物の役割をさせるのはやめよ」とね。

 でも聞かなかった。

 その方が便利だからと言って』



「…我が血族が、申し訳ない」


皇帝がさらに頭を下げる。


『皇帝だけじゃないわ。

 政に関わる多くの人間が、

 「知の賢者」を欲したの。


 あなたたち人間の決断よ』


『だからこの先300年、ジョブを隠します。

 そのほうが上手くいくなら、

 そのまま隠し続けちゃおうかしら』



「ま、私の世界には元々ジョブはないしね」


キラーヤが口を挟む。


「ま、適性があるなら、

 いずれその方向に向かうんじゃない?」


戸惑う帝国の人間と、あっけらかんとするキラーヤと魔物達。



『では、決まりです』



その言葉と共に、世界が一瞬の閃光に包まれる。


「…どう?」


キラーヤが聞くと、


「…見えない」

「本当だ」

「どうしたらいいのか」


と皆それぞれに自分のジョブを確認して嘆いている。


「私も確かめよう。…おっ、本当に見えない」


あのメニュー画面のようなものが、起動しなくなっている。


「術が消えたわけでは…なさそうね」


千里眼は変わらず発動するし、仲間の魔物との繋がりも感じる。


「大丈夫、見えなくなっただけで、

 これまでの努力の結果はすべて自分の中にあるよ」


キラーヤは笑って皆に言う。


「トライツ、頭の中の情報は消えた?」


「…いいえ、消えていません。

 でも何だろう、少しもやがかかったような」


「あなたの負担が減るように、

 女神の取り計らいかもね」


「確かに頭の中が少し静かになった気もするが。

 それ以外は全然変わらんぞ」


恨み言を言うのはルカリアだ。


「あんたは大丈夫ってことでしょうよ」


「まぁ、そうかもしれんが」


「とりあえずトライツ、良かったね。

 咎めないって女神のお沙汰が下って」


「え、ええ…。でも、陛下が」


座ったまま力が抜けたように笑う皇帝は、トライツとキラーヤを見、


「女神には逆らえんだろう」


と頭を掻いた。




…ーかくして、

ジョブを失った帝国はその混乱の対応に追われ、

サルバドールの狼藉やトライツの陰謀はうやむやになった。


状態の落ち着いたルカリアを壺の家に突っ込み、

神殿を去ったまもの使いキラーヤの行く末を追う者は、

誰もいなかった。



ーーーーーーー


「ねえ、ちょっと」


皇都の森に戻った壺の家のリビングで、肘をついてディアドラ謹製のパンケーキを食みながら、キラーヤは電話している。


『なあに』


相手は言わずもがな、女神ネフェリである。


「なんで私とルカリア、縁が結べたの?

 あいつ魔人なの?」


『あはは』


ひとしきり笑った女神は解説した。


『「まもの使い」の表記、覚えてる?

 あれ、「魔物」じゃないのよね。 

 「まもの」なの』


「ああ…そういえばそうだった気が」


『天と地のに生きる者、

 それらはすべからく「まもの」』


「はあ?

 つまり生物みんな対象って事?!」


『そうなるわねえ』


「ちょっと!!重いって!!」


『まあもう見えないんだし、

 好きなように使っていいのよ、能力なんて』


「まあそうなんだけどさ~~」


『あと、神殿での貴女の弟子たちが、

 貴女を探してたわよ。

 あんまり必死に懇願されるもんだから、

 この場所教えちゃった』


「は?!」


その言葉と同時に、来訪者を告げる、壺が叩かれる音がする。


「うわ!

 リンネ先生、シルヴァ先生!!」


見ると旅装に身を包んだ二人が、半信半疑なのか恐る恐る壺をのぞき込んでいる。

壺の口に吹き込むように、二人は呼びかける。


「キラーヤ先生、いるんですよね?!」


「私たち、先生に弟子入りしに来ました!

 教皇も行っておいでって!!」


「教皇それでいいの!!??」



思わず返した声が届いたのか、ふたりは嬉しそうに顔を見合わせた。




「お願いします、先生!!

 私たち、病を治せる人になりたいんです!!」




…キラーヤの旅は、思わぬ方向に転がり出した。



異世界に召喚され、何をする?

…まさかまた、医者をすることになるとは。



キラーヤは諦めのため息をひとつ吐いて、


壺の外に這い出した。





ーーーーーーーー第一部  完ーーーーーーーー


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