098 狙い撃ちの草原、幻徒
地面に落ちたと思ったシンヤさんの魔導機人は、空中で体勢を立て直して前屈みになると、魔導砲で猛烈な突風を起こした。
直後、大量の土煙が舞い、ものすごい勢いで前方に飛んでいく。
距離を縮めるはずの作戦だったが、相手のほうが一枚上手だった。シンヤさんとの距離は離れ、後続の機人が迫ってきた。
軽く舌打ちをし、モニターの魔力量を確認すると、『103/125』と映し出されていた。
何もせずとも三分経過すれば魔力は消費される。だが、ただ立ち尽くしていただけで『1』消費した。損をした気分になり、今度は大きく舌打ちをする。
その間にも、他校の機人は近づき、シンヤさんは離れていく。これ以上、無駄な魔力は消費したくないし、彼に離されるわけにいかない。
俺は腰を落とし、一気に跳躍した。
その直後、ガキンッ――と音を上げて、俺が立っていた鉄柱が折れた。咄嗟に『観の目』を起動して後方を確認すると、柱は運よく一体の機人に直撃した。
不慮の事故だ。審判から警告のアナウンスは流れない。自然と口角が上がり、しばらく後続の機人たちを見る。
やはり少し警戒しているようだ。走る速度がわずかに遅くなった。その姿を見て、笑みを深める。
前方へと視線を移すと、シンヤさんは黒鉄の森を抜けるところだった。やはり機体が大きい分、一歩の距離も長い。普通に走っていても追いつけない。
超高速移動なら追いつけるが、足場が悪いこの場所では、五十メートルほどが限界だ。それ以上は燃費が悪くなり、ラジエーターももたない。
限界ぎりぎりまで超高速移動を行い、かなり距離を詰めることはできた。だが、ラジエーターを冷やすために通常走行へ戻ると、再び距離が開いた。
ようやく黒鉄の森を抜けたときには、シンヤさんの機人は第三の障害――鉄球が飛び交う草原に足を踏み入れようとしていた。
◆
ソウガが森を抜けるころには、シンヤさんは鉄球を持つ機人が何体も待ち構える草原に突入していた。
大型と小型――その移動速度に大きな差が出る。重量がある大型でも、装甲を薄くした速度重視の改造を施せば、機動力はかなり上がる。
現に懸命にシンヤさんを追うソウガだったが、その差は徐々に広がっている。だが、この鉄球が飛び交う草原なら、的が小さい武蔵零式の方が有利なはずだ。
ここで逆転、もしくは差を縮めておきたい。次の疑似迷路はシンヤさんが有利になるはずだ。さきほどの大ジャンプを見て、そう確信する。
やがてソウガも第三の障害地帯に入った。その瞬間、一体の機人が鉄球を投げた。その鉄球の速度と大きさに目を見開く。
明らかに他の鉄球よりも小さく、軽いせいで速度が速い。小型の機人――武蔵零式のために準備された鉄球だ。
あの大きさなら、大型の機人に当たっても多少傷つくだけで、問題なく走り続けられる。
しかし、二メートル強しかない武蔵零式では、一撃で大きく吹き飛ばされ、致命的な損傷をもらいかねない。
昨日の試合では、すべて鉄球の大きさは同じだった。この決勝に向けて調整したのかもしれないが、それにしてはソウガに不利すぎる。
つい隣に座るリュウゾウ先生を見る。
「ハンナ、お前が言いたいことはわかる。どうも大会本部はソウガを優勝させたくないらしい。第一、第二障害でも腑に落ちない点があったが、この第三障害では、あからさまにソウガだけを狙って調整してきている」
そう言いながら、競技場で懸命に鉄球を避けるソウガを見やる。
「それに先頭を走るシンヤさんよりも、その後ろを追うソウガを標的にする機人が多いね。あの肩の紋章は王国の騎士の機人だね」
ナツメさんの言葉に息を呑み、私も競技場に視線を戻した。たしかに先頭を走る紺碧の機人――シンヤさんよりも、二番手のソウガに鉄球が集まっている。
大きな鉄球が目立ち過ぎて、気づかなかった。私は冷静に鉄球を数え始める。1、2、3――やはりソウガのほうが多い。
十秒間に放たれた鉄球は、シンヤさんが三球。それに対してソウガは倍の六だ。しかも速度は速く、狙いも正確だ。
加えて、シンヤさんを狙う機人は冒険者が多く、訓練されていないせいで狙いも甘かった。紺碧の魔導機人は簡単に避けていく。
一方、ソウガを狙う機人はナツメさんが指摘したように王国騎士しかいない。訓練された彼らが放つ鉄球は正確無比にソウガを襲う。
もはや不利どころの話ではない。明らかに不正だ。そう思われても仕方がないほど、二体の置かれた状況は違っていた。
――断定はできないが、誰かが敵意を持ってソウガを排除しようとしている。
私は、審判たちが控える観客席の上に設置された特別室を睨む。そのとき、観客席からどよめきが上がる。
競技場に視線を戻すと、武蔵零式が陽炎のように揺らめいていた。強引に歩幅と速度を変え、上体を揺らすライガさん直伝の走行法――『幻徒』だ。
ゆらゆらと幻のように見える姿に動揺したのか、ソウガに放たれる鉄球が一瞬止まる。
その隙に、ソウガは一気に加速した。超高速移動ではないが、その速さは尋常ではなかった。次第にシンヤさんとの距離も縮まっていく。
だがそのとき、再びソウガへの鉄球の集中砲火が始まる。一直線で走る彼は格好の的だった。
仕方なくソウガは速度を落とし、再び陽炎のように揺らめきながら走ると、狙いが定まらないのか、鉄球は鋭さを欠く。
先頭のシンヤさんから離されるが、鉄球が直撃する可能性は低くなった。幻徒を駆使しながら走るソウガに安堵の息を吐く。
まだ第四、第五の障害がある。どこかで追いつくチャンスもあるはずだ。
そう自分に言い聞かせながらも、第四の障害――疑似迷路で追いつくことは難しいだろうと察する。
シンヤさんの風魔法を使った大跳躍と疑似迷路は相性がいいはずだ。理不尽な状況の中でも、懸命にシンヤさんを追うソウガを見つめる。
そのとき、照りつける太陽が土を焼き、地表から逃げ場を失った熱が陽炎となって立ち上がる。そして、それは走る彼をさらに揺らし、歪めた。
その姿を見た私は、さらに不安を膨らませ、思わず唇を噛んだ。
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