097 観の目の拳、紺碧の滑空
炎の魔弾を避け、氷塊を砕くと、巨大な影が落ちた。とっさに見上げると、上空を飛ぶシンヤさんの魔導機人が目に映った。
あんな重い機体がここまで跳躍するなんて信じられない。目を見開き、じっと見つめると、すぐに理由が分かった。
肩に備え付けられた二門の特徴的な魔導砲は後ろを向き、突風を起こして紺碧の機体を押し上げていた。
――攻撃ではなく、機動力のために魔導砲を使うとは。その発想力と高い技術力に舌を巻く。これで太く短い形にした理由にも納得できた。
そして、シンヤさんの想像を絶する才能を目の当たりにし、背中に冷たい汗が伝う。
機人の操縦はイメージを伝えて行うが、自分の体の四倍以上大きな機体を思い通りに動かすことは難しい。
大きな動作は問題ないが、繊細な動きになればなるほど大きな誤差を生む。
加えて魔法を発動しながら、空中で体勢を調整するなんて、超緻密なイメージ伝達が必要なはずだ。それをやってのけるシンヤさんは、間違いなく天才だ。
テッペイさんは幼いころから実家の機人開発の手伝いで、ずっと操縦技術を磨いてきたが、おそらくシンヤさんは学園に入学してからだ。
<聖騎士>のテッペイさんの才能もすごいが、シンヤさんの方が操縦技術においては、突出しているかもしれない。
――間違いなく怪物だ。
呆然と見上げる俺の頭上を、シンヤさんは軽々と越えていく。そのとき、背後から再び巨岩の魔弾が迫ってきた。
黒鉄の枝の上に立つ俺を目がけて放たれた魔弾は、一直線に向かってくる。放った機人との距離も近くなり、照準も上向いたことで軌道が真っすぐだ。
その巨岩を見て、ほくそ笑んだ。一か八かだが、試す価値はある。俺はぎりぎりまで引き付け、魔弾が当たる瞬間、腰を落とした。
頭上ぎりぎりを通り過ぎる魔弾をちらりと見ると、一気に膝を伸ばして拳を振り上げた。
その瞬間、ガキンッと激しい金属音が競技場に鳴り響き、拳が巨岩に突き刺さって爆ぜた。
前方を見ると、魔弾の破片はシンヤさんの魔導機人に直撃した。直後、紺碧の機体は体勢を崩し、地上へと落ちていった。
――賭けに勝った。狙い通りだ。
その姿を見て、自然と口角が上がる。やはり少しでも体勢を崩せば、長距離の跳躍は維持できないようだ。魔導砲から出る風も乱れていた。
――これでまた先頭に立つことができる。安堵の息を吐きつつ、モニターに映る魔力残量を確認した。
『104/125』
まだ百を切っていないが、第二の障害で、すでに二十以上の魔力を消費していた。その数字が、この決勝で優勝することがいかに困難なのか、否応なしに俺に突きつけてきた。
◆
武導機人より機動力が劣る魔導機人――シンヤさんの白秋三式が、信じられないことに二十メートル以上の大ジャンプを見せた。
眼前に広がる紅蓮の炎の海を避けるため、黒鉄の柱から伸びる鉄柱に飛び乗ったソウガ。だが、シンヤさんは彼のさらに上を跳んだ。
後ろ向きの魔導砲から出る風を制御しながら、まるで飛翔するかのように跳躍するシンヤさん。その姿を見て、思わず舌打ちをした。
――昨日の試合を観戦しなかったことが悔やまれる。
観客たちを見渡しても歓声は上がるが、上空を跳躍する魔導機人を見ても、誰も驚いていなかった。
その様子から、間違いなく昨日の試合でもこれを使ったのだと察する。
武蔵零式の<五大>機能『火』の性能を見るために、私たちはシンヤさんが出場した試合を観戦できなかった。
しかし、配下の者たちは見ていたはずだ。情報を聞いておくことはできた。私はすぐにシンヤさん以外の機人へ視線を移し、情報を拾う。
悔しさが込み上げ、上手く戦力を分析できない。あまりの失態に唇を噛み、眉を上げた。
だが、すぐに首を横に振り、気持ちを切り替える。私も失念したが、そもそもあんな規格外の性能を見せつけたソウガが悪い。
魔法を切り裂く蒼炎の剣『あつかけん』。
周囲に秘匿すべき伝説の魔法を備えた武蔵零式と、その重大さが分かっていない彼を如何に周囲から守るか――そのことで頭がいっぱいだった。
私は心の中でクムァムーン様に問いかけた。
(……今回の失敗はすべてソウガのせいで、私は悪くないですよね?)
その瞬間、頭の中にクムァムーン様が現れ、笑顔で頭上に両手を上げて、大きな輪を作った。
――どうやら、漆黒の熊神様もソウガが悪いとお考えのようだ。
私は胸を撫で下ろし、この不利な状況を生み出したソウガに視線を向ける。そのとき、灰色の巨岩が彼に迫っていた。
隣のハンナを見ると、口に手を当てて顔を青ざめている。その向こうでは、眉を曇らせ、腕を組んで黙っているリュウゾウ先生。
私たちはこのままでは巨岩に直撃する――そう思った瞬間、ソウガは腰を落とし、頭上に向かって拳を振り上げた。
刹那、巨岩は砕け、前方のシンヤさんの機人に直撃した。
大きく体勢を崩し、地面へと落ちていく魔導機人。
誰もが地面に激突すると思った。だが、次の瞬間、紺碧の機体は前方に体勢を傾け、肩の魔導砲から猛烈な突風を放った。
激突することなく、シンヤさんの魔導機人は大量の土煙を上げ、地面すれすれを水平に飛んだ。
やがて上体を起こしながら、きれいに着地すると、そのまま勢いを殺すことなく走り始めた。
会場は静寂に包まれ、機人たちの駆動音と地面を蹴る音だけが観客席に届く。そのとき、誰かがひゅっと息を呑んだ。
一瞬の沈黙が訪れた直後、観客が咆哮し、耳を劈く歓声が上がった。
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