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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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094 『火』が灯る決勝

 「やきもちを焼いたのかな」――その言葉に息を呑む。


 ナツメに図星を突かれて赤面した俺は、武蔵零式から出ると、顔を伏せたままトイレに行くと告げ、その場から逃げ出した。


 一瞬、後ろを振り返り、笑いを堪えるナツメとぼうっと見つめるハンナ――二人と視線が重なり、耳まで真っ赤に染まった。


 それ以上、振り返ることはなく、トイレに向かう俺を周囲は珍しげに見ていたが、一切無視して走った。


 やがてトイレに駆け込むと、手洗い場で何度も顔を洗い、火照りを冷ました。ずぶ濡れになった顔が鏡に映り、苦笑いを浮かべた。


 ――少しずつだが、俺は二人に惹かれている。


 出会ったころはハンナは妹で、ナツメは悪女――どちらも恋愛感情を抱くとは思えなかった。


 だが、ともに学園生活を過ごす中で、二人の存在はかけがえのないものになりつつあった。シンヤさんのハンナに向ける眼差しを見て、はっきりと自覚した。


 今日の試合で負けられない理由が、ひとつ増えた。俺は両手で頬を叩くと、ずぶ濡れの顔を袖で拭い、急いで武蔵零式を整備する先生のもとへ戻った。



――――――――――――



 格納庫に入ると、リュウゾウ先生は整備を終え、他校の教師と話をしていた。俺はそんな先生を後目に、武蔵零式のところに向かうと、ハンナが声をかけた。


「ソウガ、顔が濡れているよ。これを使って」


 そう言ってハンカチを手渡した。その後ろではナツメがニヤニヤと笑みを浮かべている。


「ありがとう、ハンナ。助かるよ。これは洗って返すから」


 ハンナに礼を述べ、素早く顔を拭うとハンカチをポケットに仕舞い込んだ。彼女は何か言おうとしたが、口を閉ざした。代わりにナツメが口を開いた。


「へえー、ソウガって、そんな細かな気遣いができるんだね。なら今度、私にもしてよ」

「ああ、わかった。学園総体が終わって、夏休みになったら、何か考える」


 俺が即答すると、ナツメは一瞬、目を見開くが、すぐに視線を落とし、何も言わなくなる。その横顔が、どこか気恥ずかしそうに見えた。


 気まずい沈黙が続く中、リュウゾウ先生が戻ってきた。


「何をやっているんだ、お前たちは。もう整備は終わったから、早く競技場に行け。他校の機人はすでに向かっているぞ」


 先生は手に持ったバインダーで俺の頭を叩き、武蔵零式の装着を促した。


 俺は頭を押さえながらも、胸部の装甲に触れて前面の装甲を開けると、すぐに乗り込んだ。


 金属の冷たい感触が、俺の火照りを攫い、ざわつく気持ちを落ち着かせた。俺は深呼吸をして、モニター右下を確認する。


 魔力残量『125/125』の下に、『火』の文字が赤く点灯している。昨日の魔力枯渇で増えた魔力量と、常時起動する<五大>機能――。


 これなら、昨日以上の試合ができる。自然と口角が上がり、武蔵零式の魔燃機関が唸った。





 格納庫でソウガと別れた私たちは、急いで観客席に向かった。すでに大勢の客で埋め尽くされていたが、ナツメさんのお友達が席を確保しておいてくれた。


 彼女たちに礼を言って席に着くと、競技場に目を向ける。予選を勝ち抜いた七体の機人と武蔵零式が、スタートラインに横一列に並んでいた。


 中央には紺碧の機体――シンヤさんが乗る魔導機人と、ソウガの漆黒の武蔵零式が立っていた。


 二人は予選を一位で通過している。残りの選手たちは順位に応じ、彼らの左右へと振り分けられる配置となっていた。


 ソウガは予選のとき、機人たちに巻き込まれるのを避けるため、コースの端に避難していた。


 だが、予選を一位で通過したことが裏目に出た。機人たちに挟まれる形でスタートする結果になった。


 去年も順位によって配置は指定されたが、強制ではなく、本人が希望すれば変更することは可能だった。加えて順位が高い選手ほど、それは優先された。


 しかし、今年から急に規則が変わり、配置は固定された。しかもその通知があったのは今朝、格納庫で整備しているときに、アナウンスで一方的に、だ。


 不穏な気配を感じ、眉をひそめる。そんな私を見てナツメさんが声をかけた。


「少し雲行きが怪しくなってきたね。ソウガに『魔法剣』の使用を条件付きで認めたのは、正解だったね」


 彼女も同じく表情を曇らせていた。リュウゾウ先生に視線を向けると、顎に手を当て、じっと競技場を見つめていた。


「まあ、決勝は機人の数は少ない。スタートと同時に混戦になることもないし、機体の接触はより厳しく規制されるはずだ。たった八体しかいないんだ。審判の目も届くからな」


 その言葉に安堵する。たしかに予選では二十体以上の機人がひしめき合う中でスタートしたが、決勝は八体だけだ。


 二メートル強しかない武蔵零式に、八メートルの機人がぶつかれば、嫌でも目立つし、明らかに印象が悪く、ペナルティをもらう可能性は高い。


 少しだけ心に余裕ができた私は、ソウガの隣に立つ魔導機人――シンヤさんの白秋三式を観察する。


 一般の機体より装甲は薄く、魔導機人の一番の特徴である両肩に備え付けられた魔導砲は砲身が短く切られ、砲口は大きく広がっていた。


 他校の機人とはかなり変わっていた。だが、機体自体は最下級の白秋三式。その性能は他校と同じはずだ。


 不気味に光る紺碧の機体に思わず息を飲み、再びリュウゾウ先生を見やる。


「……かなりピーキーな改造をしているな。済聖光学園には、よほど優秀な整備士がいるんだろう。学生のくせにすごいな。それにあんな機体を乗りこなせるシンヤ君も、只者ではないな」


 先生は顎に手を当てたまま呟き、ニヤリと笑った。どうやら知的好奇心をくすぐられたみたいだ。


 やはり先生も特級教師の資格を持つとはいえ、本質は研究者だったようだ。教え子を心配するより、相手の機人の性能が気になるらしい。


 壮年の男性が目を輝かせて機人を見る姿に、思わずため息をついた――そのとき、スタートを知らせるライトが赤く点灯し、地響きのような歓声が轟いた。


 足元から伝わる振動を受け、競技場に視線を戻すと、最後のライトが青に切り替わった。


 ――次の瞬間、七体の機人を置き去りにして、猛烈な速さで駆け抜ける武蔵零式の姿があった。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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