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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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091 決戦前の朝と緑茶同盟

 ソウガの家に着くと、ピクセル家の魔導車があった。すでにナツメさんが訪れていると分かり、運転手に指示して隣に止めさせると、急いで魔導車から降りた。


 足早く玄関に向かい、扉を叩く。すぐにソウガが現れ、中に入るよう促した。起きて間もないのか、寝癖がひどい。つい頭に手を当てて()いてしまった。


 一瞬、ソウガは目を見開くが、笑みを深めると腰を屈め、しばらく私の好きなようにさせてくれる。


「……えーっと、いいかな、二人とも。いい加減、食堂で話がしたいんだけど」


 突然、彼の背後からナツメさんが顔を覗かせ、半目で睨みながら声をかけた。とっさに私たちは、距離をとった。


「ご、ごめんなさい、ナツメさん。ソウガの髪が乱れていたから、思わず整えたくなって……」


 頬が真っ赤に染まる。よく考えるとすごく恥ずかしい。今思えば、ソウガの顔は近く、目を閉じていた。どう考えてもキスをする前の格好だ。


 私が俯き、黙ってしまうと、ソウガが助け舟を出してくれた。


「待たせて悪かった、ナツメ。つい子供のころを思い出して、髪を梳いてもらった。おままごと遊びの延長みたいなもんだな」


 視線を上げると、ソウガがナツメさんに頭を下げていた。彼女はじっと彼の頭を見つめると、私と同じく、跳ねた髪を手で押さえて撫でた。


「本当に寝癖が酷いね、ソウガ。少しは身だしなみに気をつけてよね。仮にも私とハンナの婚約者なんだから」


 そう言って、最後にパシリと頭を叩くと、くるりと背を向けて食堂に向かって歩き出した。


 その背中を見送ると、黒髪から覗く耳が真っ赤になっているナツメさんに気づき、苦笑いを浮かべてしまう。


 眉を下げて困った表情を浮かべるソウガ。立ち尽くす彼の手を握ると、私たちも食堂へと歩き出した。



――――――――――――



「もう、緑茶(・・)ができたんですね。香りも味わいも十分です。これならお父様も販売に向け、力になってくれるでしょう。さすが、カエデさんですね」


 ソウガが淹れてくれた緑茶を飲みながら呟くと、ナツメさんが尋ねてきた。


「ハンナはこのお茶――緑茶だっけ、このことは前から知っていたのかな」


 真剣な表情を浮かべる彼女に、私は肩をすくめて答えた。


「ええ、ソウガが考えたお茶を飲んだ彼の母――カエデさんが商品になるのではないかとお父様に相談して、隣のヤーマグァン公爵領にあるターケマン領特産の茶葉を仕入れ、研究をしていました」


 そこで言葉を切り、緑茶を口に含む。甘味と渋みが程よいバランスで調和され、後味も爽やかですっきりとしている。


 ――しっかりと味わい、確信する。このお茶は間違いなく売れる。製造方法はすでに特許を取り、工場の手配や専属の茶農家との契約も完了している。


 これでソウガの実家は栄え、騎士爵から一気に子爵に昇叙することができる。


 ソウガの父――ライガ様は騎士として一流で、母親のカエデ様も政務に秀でたお方だ。一代限りの騎士爵にしておくには惜しい人材だ。


 そして何より、これでソウガと私の婚約に懐疑的な寄子たちも納得せざるを得ない。


 思わず口角が上がる。ふと視線を感じて顔を上げると、ナツメさんが訝しげな視線を向けていた。


「どうかしましたか、ナツメさん」

「うーん、まぁ、大したことじゃないけど。あとで緑茶について、詳しく(・・・)話そうか。王都での販路やメディア戦略について力になれると思うんだ」


 彼女は笑顔で告げるが、目は笑っていなかった。恐らく彼女も緑茶が爆発的に売れると予想している。


 その上でピクセル家としてソウガと私の実家――キクーチェ公爵家に恩を売るつもりらしい。


 だが、たしかにナツメさんの実家であるピクセル家の情報網と各メディアとの太いパイプは魅力的だ。この二つを使えば、緑茶は一気に王都全土に広まるだろう。


 ただ、大量生産の目途は立っておらず、すぐに緑茶を広められても、供給が追いつかない可能性が高い。


 ――まあ、そんなことはナツメさんも分かっている。だから、発売の時期やターゲットにする顧客の絞り込みなど、詳しく話がしたいと提案してきたのだろう。


 ソウガを支えようとする気持ちは同じ。なら協力したほうが、お互いに良好な関係が作れるし、私たちがいがみ合って彼を困らせるようなことはしたくない。


 私は笑顔でナツメさんの提案を受け入れて頷くと、手を差し出した。彼女もそれに応じて手を差し出し、満面の笑顔で握手を交わした。


 その様子を黙って見ていたソウガは、なぜか首を傾げると、窓の外に視線を移し、静かに緑茶を啜った。





 笑顔で握手を交わすハンナとナツメ。一見穏やかな光景だが、不穏な空気が漂い、二人の目は笑っていなかった。


(……たいぎゃ、(こわ)か)


 堪らず視線を逸らし、窓の外を眺めながら冷え切った緑茶を口に含む。甘味は薄れて渋みが舌を刺激し、つい眉を下げたところで、ナツメの声が届く。


「それで本題なんだけど、今日のオブスタクルレース決勝だけど、『魔法剣』は使うの?」


 二人が俺の家に来た理由は、やはり『魔法剣』についてだった。予想はしていたので、俺はすぐに答えた。


「ああ、使うつもりだ。もし最後の障害――バトルフィールドで俺の前に機人がいればな」


 ナツメとハンナ――二人も俺の答えは予想していたのだろう。何も言わず、眉を下げて、力なく小さく頷いた。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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