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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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65/87

065 歓声なき勝利、赤い点

 目の前に立つ大仁学園の機人を見据える。ダイチと同じく両手に武器を持っている。ただ、レイピアではなくショートソードだ。


 リュウゾウ先生から大智学園と兄弟校だと聞いた。通称はダイニ。戦い方も似ているかもしれない。


 西洋文化のこの世界に儒教の教えがあるかは知らないが、「智」と「仁」――三徳(智・仁・勇)の中の二つ。二校は密接に関係していると察する。


 監督席に視線を向けると、亜麻色の髪の女子生徒が通信機を持っていた。隣には老いた女性教師が座っている。


 ――どうやら、ダイニも実質的な監督は生徒のようだ。先ほどと同じように的確な指示を出すなら、その前に勝負を決める。


 少しだけ腰を落とすと、試合開始のアナウンスが耳に届いた。


 一気に背後に回ろうと高速移動の準備を始めた――そのとき、ダイニの機人は後ろに大きく跳んだ。


 呆気にとられる。その間もサスペンションを軋ませ、何度も跳躍を繰り返して壁際に向かっていく。


 気づくと、深紅の機人は壁に背中をぴったりとつけて、ショートソードを構えていた。


 一瞬の油断。すぐに高速移動していたなら、壁際に着く前に背後に回り込めた。


 相手はさっきの試合を見ている。ならば対策を立てるのは当然だ。自分が慢心していたと気づかされ、舌打ちする。


 高速移動を解除する。ゆっくりとダイニの機人が立つ壁へ向かって歩く。


 深紅の機人の目の前に立ち、見つめると、背後に回り込む隙はないのが分かる。ぴったりと壁に背中を付けていた。


 魔力残量を確認。モニターには『66/100』。休憩で回復できたのは『1』だけだった。その上の『火』の表示はグレーアウトのまま。


 新機能に期待はできず、魔力残量は微妙。事前の作戦も通じない。ならば実力で倒す以外ない。大きく息を吸うと一歩踏み出す。


 まだ、わずかに間合いの外だ。相手の攻撃はない。覚悟を決めて駆け出すとショートソードが目の前に迫る。半身で躱し、回転しながら前に進む。


 振り下ろされた切っ先が床に当たり、金属音が耳に届く。わずかに砕けた剣の欠片が装甲に当たり、カンッと鳴って弾かれた。


 モニターには『65/100』。さらに歩幅を広げ、ダイニに近寄ると、影が落ちる。見上げると機人の足裏があった。


 ドンッと床が揺れる。前方に跳んで、ぎりぎりで回避。転がりながら立ち上がると、機人の真下――間合いの内側に入った。


 股下に立つ俺にダイニは攻撃手段が見つからない。ときおりショートソードを突き下ろすが、余裕で躱す。


 魔力残量は『63』。先ほど大きく跳んで『2』を消費した。安全装置が起動するまで残り『43』だ。


 やがてチクチクとショートソードを突き出していた攻撃が止む。ダイニの監督席を見ると女子生徒が顎に手を当てて考え込んでいた。


 機人の真下――視覚外にいる俺に攻撃の指示を出していたのは彼女だ。このまま続けても意味がないと悟ったのだろう。


 その隙にそっと機人の脚を掴む。一気に出力を上げて持ち上げようとするが、びくともしない。モニターを見ると魔力残量は『58/100』。


 ――あまり余裕がない。


 ふとダイニの監督席に座る彼女を見る。俺が何もできなかったことに安堵の表情を浮かべていた。


 彼女の様子にため息をつく。まだダイニが攻撃を仕掛ける気配はない。ならば次の一撃に賭ける。


 腰を落として拳を引き付ける。魔法を詠唱するときの要領で、魔力を拳に集中させる。魔力残量の表示がすごい速さで減っていく。


 キュイーン――と高速回転するモーターの音が聞こえる。それは次第に大きくなり、比例するように魔力消費も加速する。


 モニターの数値は『30/100』。


 一気に拳を突き出した。


 ドゴォン――機人の右足が宙を舞い、防御障壁にぶつかり地面に落ち、かすかにアリーナが揺れた。


 バランスを失ったダイニの機人は前方に倒れる。ふたたびアリーナが揺れる。


 俺は地面に突っ伏す機人の背に飛び乗り、拳を振り上げた――そのとき、アナウンスが流れた。


<し、試合終了! ただいま大仁学園が棄権しました。この勝負は、ベアモンド学園――ソウガ・アクオス選手の勝利です!>


 アリーナに響き渡る俺の勝利を告げる声。だが、歓声は一つも起きない。監督席の女子生徒が通信機を握りしめ、俯いている。


 観客席に目を向けると、ナツメとハンナが映る。


 勝利を喜んでいるかと思われたが、二人とも表情は暗かった。ナツメは分かる。だが、ハンナの様子が気になった。


 ――気にしても仕方ない。この競技で優勝してコイズミ陛下に謁見する。そして、武光七翼の女性限定の解除をお願いする。それは変わらない。


 六月の下旬。小雨が降る中、アリーナは静寂と裏腹に蒸した熱気に覆われていた。優勝まであと一勝。気持ちが緩み、前世の言葉がこぼれる。


「あつかー」


 魔力は込めていない。口元の装甲も閉じている。魔法が発動することはない。だが、モニターに映る『火』の文字が、一瞬、赤く灯ったように見えた。


 すぐ下に表示される魔力残量に目を奪われた――『28/100』。残り『8』で安全装置が起動。まさにぎりぎりだった。


 気づくと魔力枯渇の初期症状で軽い頭痛を起こしていた。


 俺は安堵の息を吐き、ダイニの機人の背から飛び降りると、リュウゾウ先生が待つ入口へと歩き出した。


 その先にはセイセイのテッペイが乗る機人――蘆花三式が両盾を持ち、次の試合に控えていた。


 ――あと一勝。決勝の相手は、間違いなくアイツだ。

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