066 正攻法のノック
今年も読んでいただき、ありがとうございました!
本話が今年最後の更新です。来年もお付き合いいただけたら嬉しいです<(_ _)>
静寂に満ちたアリーナを後にするソウガの背を見つめ、眉をひそめた。
視線を大仁学園の監督席に移すと、亜麻色の髪の女子生徒が通信機を握りしめ、老いた女性教師に慰められていた。
監督役の彼女は私の作戦に従い、持久戦に持ち込もうとした。
狙いはもちろん安全装置の起動だ。動かずとも魔力を消費し続ける武蔵零式。残量が二割を切れば、強制解除され装着できなくなる。
その欠点を突き、ひたすら守りに徹するようメモに書いていた。
ダイニの機人が壁際まで後退したとき、作戦を採用してくれたと分かり、安堵した。
だが、ソウガは予想を超える行動に出た。まさか足元に潜り込み、機人の視覚外から攻撃を仕掛けるなんて――。
しかも武器も使わず、装甲が厚く頑丈な武導機人の脚を一撃で破壊した。
たしかにダイニは改造もしていない普通の機体だった。それでも武導機人だ。四種の機人の中で王導に次ぐ防御力と耐久力を持つ。
――その装甲を正拳突きだけで粉砕するなんて信じられない。
規格外の機能を持つ武蔵零式。それを制御できつつあるソウガ。もはや私とハンナだけの力では、彼の優勝を阻止することはできない。
そう結論づけた私は、覚悟を決めて控室にいるソウガとリュウゾウ先生のもとへ向かった。
◆
圧倒的な性能を見せつけて勝利したソウガ。嬉しい一方で、優勝に近づくほど困惑する。このままだと反乱鎮圧の学生召集に巻き込まれてしまう。
アリーナをじっと見つめる私に、ナツメさんが声をかける。
「ハンナ、今から控室に向かうよ。あんな規格外の性能を前に、下手な小細工は意味がない。ここは正攻法でいく。ついてきて」
彼女の意見は正しい。まだすべての機能を解放していない武蔵零式――それでいて、あれほどの性能。予想がつかない相手に綿密な作戦は立てられない。
私が頷くと、彼女は立ち上がり歩き出した。その後を追いながら尋ねる。
「どこに向かっているんですか、ナツメさん」
「ソウガがいる控室だよ。さっき、正攻法って言ったでしょ。もう直接話して、出場を辞退してもらうしかないよ」
息を呑む。いきなり最終手段に出るとは思わなかった。けれど、それしか手は残っていないのかもしれない。
ここで手をこまねいていたら、明日には優勝が決まってしまう。彼女の冷静な決断に感心する。
競技に優勝してコイズミ陛下に武光七翼の女性限定の解除を嘆願する――それは諦めてもらう。他にも方法はある。優勝にこだわる必要はない。
それに、陛下が嘆願を受け入れる可能性は低い。だから父に頼んで別ルートの嘆願を探してもらっている。
勝てば召集――反乱鎮圧の最前線へ投入。無謀な賭けに命を懸ける必要はない。
守るためとはいえ、彼の夢を折らせる。胸の奥がちくりと痛んだ。
必ず説得できる。そう自分に言い聞かせると、足早に観客席を後にした。
◆
控室に戻り、ソウガに武蔵零式の装着を解除させる。
全身の装甲が開き、ソウガが崩れ落ちるように出てきた。やはり魔力枯渇寸前だ。肩を貸して椅子に座らせる。
「大丈夫か、ソウガ。さっき学園から届いた魔力ポーションだ。飲めるか?」
机の上の青い液体の小瓶を差し出す。
「いえ、大丈夫です。今日はもう試合はないので、このままで。このほうが明朝の魔力量の上限が伸びます」
その答えに舌を巻く。すでにソウガは膨大な魔力量を保持している。それをさらに増やそうとするとは、まったく恐れ入る。
たしかに、自然回復量が大きいほど『最大値』は伸びていく。
ソウガの魔力量は、入試のときに秘密裏に測定してある。あのときで宮廷魔導士十人分に匹敵していた。
測定時に表示された数値は常軌を逸していた――記録担当が震えるほどだ。
その事実は本人には伝えていない。知るのは学園の一部と王都の上層部だけだ。
理由は、魔力測定の魔道具が非公開で王家の所蔵だからだ。例外的に使用が許されるのは、学園の入試のときだけ。
しかも、多くの士官や文官を輩出するベアモンド学園と済聖光学園の二校のみ。
椅子に腰を落とし、肩で息をするソウガを見つめる。この規格外の魔力を持つこいつでさえ、武蔵零式を動かせば枯渇寸前だ。
ふつうの人間なら、一分も稼働させられまい。原初機人の所有者は、ソウガ以外に考えられない。
そう確信し、武蔵零式の整備に取り掛かる。
胸部にある小さなパネルを確認すると、消費ログが流れる。
『跳躍−2/リフト−5/チャージ−28』
やはり魔力消費が激しい。こめかみを押さえ頭痛に耐えるソウガを見つめる。
そのとき、扉が叩かれた。乾いた二度のノック。静かで、しかし強い――宣戦布告の音だった。
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