030 漆黒の鎧
「いや〜、大きい洞窟かと思ったけど、機人が入れるほどじゃなかったね。でも、魔物がいないみたいでよかったよ、ソウガ君?」
腕に絡みつくナツメを半目で睨む。今、俺たちはラクーンが守っていた洞窟の中を歩いている。
機人で近づいたが、入口はそれほど広くなかった。仕方なく俺だけで探索しようとしたところ、ナツメも付いてくると言い張った。
中の状況は不明で、俺の魔力も半分しかない。本音を言えば大人しく機人で待っていてほしかったが、例の「約束」を盾に強引に付いてきた。
満面の笑みで腕に抱きつくナツメにため息をつく。これではいざというときに戦えない。強引に振りほどき、口を開く。
「付いてくるのはいいし、できるかぎり守る。だから、離れてくれないか。こんな近くにいたら短刀が抜けない」
「へえ~、私を守ってくれるんだ。ふふ、嬉しいな。なら、分かったよ。ちょっと怖いけど、離れて付いて行くよ」
恐怖なんて感じていないのは一目瞭然だ。そんなやつがご機嫌に鼻歌を口ずさむはずがない。何が嬉しいのか分からないが、とにかく先へ進む。
薄暗い洞窟は思ったより短く、すぐ奥に着いた。目の前には格子があり、その向こうに仏像が祀られている。
思わず息をひそめる。先ほどの石像群も仏を模していた。ここだけ世界が違う。
この国は基本、西洋文化だ。様々な地名や風習で故郷の気配を感じるが、貴族社会であり、洋服を身に着けている。
その上で、日々の暮らしは魔導というテクノロジーが支えている。
クムァムーン様を祀るのも教会だ。多少の和風要素はあるが、礼拝堂があり、懺悔室もあった。
転生して十六年、仏教と出会う機会は一度もなかった。ふとナツメに視線を向ける。何も感じていない顔だ。
目の前のものが何か分かっていないのだろう。この霊峰の名「禁望山」がよぎる。つまり、「金峰山」のことでは――。
そのとき、ナツメが格子を魔法で破壊した。鈍い破砕音が洞内に響く。あまりの罰当たりさに言葉を失う。呆然とする俺に、彼女は笑顔を向ける。
「ねえ、ソウガ君。中に何かあるよ。プレートアーマーみたいだけど、少し形が変わってるね。今どき、こんなもの着る人いるのかな?」
木っ端微塵となった仏像に手を合わせ許しを請う俺に、無邪気な声が落ちる。
仏教を知らないナツメに罪の意識はない。それは仕方ないことだ。俺は彼女の分も謝罪して祈った。
静かに目を開け、粉々になった格子の中へ進む。そこには漆黒のプレートアーマーがあった。
――正確には、パワードスーツだ。
漆黒の金属がつま先から指先までをびっしり覆う。ヘルメットの面も完全に塞がれ、中は見えない。まさしく外骨格の強化装甲だ。
各部位に魔石のような結晶が埋め込まれ、背には飛行ユニット。排気口と、精密に折りたたまれた翼が見える。
さらに銃器と思しきパーツがいくつも備わっていた。
絶句する。この霊峰が「金峰山」なら、ここは「霊巖洞」とリンクする場所だ。ならば、「宮本武蔵」に関わるもののはず。なのになぜ、パワードスーツ――。
ただ立ち尽くし、漆黒のスーツを見つめる。その瞬間、ヘルメットの『目』が光り、視線を落とした気がした。
足元を見る。古びた本が落ちている。そっと拾い上げると、「五琳書」と記されていた。
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