029 擬態の岩壁、白炎の獅子
ソウガ君の説明では、右の岩壁に大量のラクーンが擬態しているらしい。
彼の言葉に耳を疑いつつも、詠唱を始める。操縦桿を握りしめ、イメージと魔力を流し込む。
やがて肩の二門の魔導砲が輝き、わずかに大気が震えた。魔法が完成し、一気に操縦桿を倒す。
「インフェルノストライク!」
砲口が閃き、空気を焦がす。放たれた二つの獄炎の魔弾は、轟音を立てて凄まじい速さで岩壁へ向かった。
その瞬間、岩肌は幾層に重なるラクーンの群れへと一変した。言葉を失う。本当にそこにいた。しかも想像を絶する数で。
ラクーンは俊敏に岩壁を駆け下り始めた。このままでは魔弾が届く前に半数以上が逃げる。先手の目論見は外れた。撤退を考えたそのとき。
人さし指をラクーンに突きつけるソウガ君の姿が目に映る。
「うごかんとけ」
時間が止まった。だが、それはラクーンたちだけ。駆け下りかけた姿勢のまま宙に浮き、微動だにしない。その目には恐怖の色が滲んでいた。
空間に張り付けにされた群れへ、二つの魔弾が螺旋を描いて激突する。半分以上が炎に包まれた。
――生者は縫いとめられたまま。死者だけが糸が切れ、落ちていく。
残りは半数。彼が続けざまに魔法を放つ。
「まっご、あつか」
指先がきらめき、巨大な白炎の獅子が現れる。その灼熱は荒地に散らばった死骸を瞬く間に焼き尽くし、塵一つ残さなかった。
獅子は咆哮とともに駆け出し、岩壁にいた残りをすべてを飲み込み、一瞬で蒸発させると、自らも霧散した。
気がつけば、荒地には静けさが戻り、乾いた風が土埃を巻き上げ、若葉を揺らしていた。
呆然とする私。ふと視線を落とすと、片膝をつき、こめかみを押さえるソウガ君の姿が目に飛び込んできた。
急いで操縦席から飛び降り、駆け寄ると、彼は真っ青な顔をしていた。当然だ。超特級すら上回る魔法を放って無事でいるはずがない。
腰の鞄からポーションを取り出し、手渡した。よほどつらいのか、礼も言わず勢いよく飲み干した。
それでも顔色は優れない。仕方なく私の分も与えたが、まだ十分には回復していなかった。
規格外の魔力量に絶句する。一本で宮廷魔導士を回復できるポーションを二本飲んでも、枯渇状態は続いていた。
さらに緊急時の回復薬を二本渡し、ようやく顔色が戻った。汗を拭い、頭を振る彼を見て、苦笑いを浮かべる。
ソウガ君は頭を下げて感謝を伝えると、静かに立ち上がった。周囲を見渡し、地面に転がる無数の魔石にため息をつく。
「ふう、なんとかなったが、この魔石を回収するのは骨だな。これほどの数と遭遇するとは思いもしなかった。どうする、ナツメ? 拾えるだけ拾うか」
その言葉に首を横に振る。百以上ある魔石を回収していたら、日が暮れる。
「いいや、価値がありそうなものだけ持ち帰ろう。それに討伐記録はこの機人が録っているから問題ないよ。それよりも、あれが気にならない?」
彼は眉をひそめ、私が指さした先を見やる。そこにはラクーンの群れに隠されていた大きな洞窟があった。
「続きも読もうかな」と思えたらブクマを。
一言の★評価も、よければポチッとお願いします<(_ _)>




