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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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028 ラクーンの能力

 依頼書にあった魔物の写真を見たときから、薄々気づいていた。名前はラクーン。前世ではラクーン・ドッグと呼ばれていた動物にそっくりだ。


 炎に焼かれ地面に伏す魔物を見つめる。――タヌキだ。それなら擬態も納得だ。


 森に入ってから、ずっと注視していた。そこで見つけたのは、不自然な樹木。幹は太く、根元に向けて伸びた太い一本の枝。どう見ても怪しかった。


 念のためナツメに確認したが、反応はいまいち。生態が分かっていないと言っていたし、擬態のことも知らないのだろう。


 とにかく試せば分かると思い、魔法を放った。結果は正解。やはりラクーンだった。あの巨大な枝は尻尾。そこだけはうまく隠せなかったようだ。


 ――どれだけタヌキに忠実なんだ。


 大きな尻尾を見ながら、「分福茶釜(ぶんぷくちゃがま)」を思い出した。とはいえ、そんな可愛い生き物ではない。多くの犠牲を出している凶暴な魔物だ。


 擬態すると分かれば、結界を抜け、町中に現れるのも頷ける。機人か冒険者に化けて検問所をすり抜けたのだろう。


 こんなことも分からないなんて、この世界の住民は大丈夫なのか。だが、変身魔法なんて存在しない。想像できないのも仕方なかったと思い直す。


 とにかくラクーンはこの山にいた。繁殖期に身を隠すのも擬態だ。本当に巣穴に籠っているわけじゃない。


 怪しいところはないか周囲を見渡す。さっきの個体が未熟だっただけなのかもしれない。不自然な場所は見当たらない。


 念のために鑑定魔法を施す。


「どぎゃんね」


 その瞬間、視界にさまざまな情報が映し出された。生い茂る木や花の名前や、身を潜める動物や魔物の姿・状態まではっきりと分かる。


 ぐるっと周りを見渡し、そそり立つ岩壁で止まる。直後、全身から冷や汗が噴き出す。気づかれないように機人にそっと触れる。


 金属の冷たさが掌に張り付く。呼吸を整え、指で軽く叩く。ナツメもただならぬ気配を感じたのか、操縦席から通話機を垂らした。


 それを静かに掴み、小声で伝える。


「決して、視線を向けるな。右の岩壁だが、あそこに無数のラクーンが張り付いている。さっきの木と同じで、擬態だ。何体かはこちらを睨んでいる」


 言葉を止め、唾を飲む。緊張で喉が渇き、うまく喋れない。短く息を吸い、続ける。


「撤退するか、戦うか――どうする? 正直、あれほどのラクーンを相手にしたことがない。機人と協力して戦った経験もない。ここは経験のあるナツメに任せる」


 俺は口を閉ざし通話機を耳に当て、ナツメの答えを待つ。沈黙が続く。荒地を初夏の日差しが照らし、陽炎が揺らめく。


 温かな風が漂う中、冷たい汗が背を伝う。あまり猶予はない。ちらりと岩壁に目を向けると、大型のラクーンが飛びかからんと構えている。


 もはや撤退しかないと察したとき、通話機から声が発せられた。


「やろう、ソウガ君。まず、お互いに最大級の魔法をぶつけよう。それで向こうが逃げるかもしれない。それでダメなら撤退だね。私はソウガ君を運ぶから、追いかけてくる奴らを倒してね」


 わずかに声は震えていた。だが、気丈に振る舞うナツメを見直す。俺よりもよほど肝が据わっている。


 あるいは、壁一面に張り付く――優に百体を超え、斑にひしめくラクーンが見えていないからこそ言える言葉かもしれないが。


 けれど、判断は下された。俺は通話機に向かって告げた。


「ナツメ、すぐに詠唱に入れ。お前が発動するタイミングに合わせる。合図は不要だ。俺の魔法に詠唱は必要ない」


 手短に指示を出し、通話機をくいっと引っ張ると、それは操縦席へ戻っていった。

「続きも読もうかな」と思えたらブクマを。

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