200 ソウガの実家(4)
ソウガの実家の話はここまです<(_ _)>
ブクマと評価ありがとうございます!
組み手を終えたあとも、俺と父さんは稽古を続けた。やがて疲労は限界に達し、地面に座り込む。
王国でも北に位置するシースイ領だが、真夏はやはり暑い。まだ太陽は高くないが、その陽光は鋭く、容赦なく照りつけていた。
それでも、俺と父さんはその場から動くことができない。じっと座っていると、次第に乱れた呼吸は整い、多少は疲れも取れてきた。
ただ、汗だけは引く気配がない。だらだらと全身から流れ続けている。
「父さん、兄さん、お疲れ様です! 二人とも、本当にすごかったです。勉強になりました」
地面に座り込む俺たちへ、イルガが笑顔で駆け寄ってくる。そんな弟に笑顔を向けると、その先にリュウゾウ先生とカジコさんの姿が見えた。
二人は大きなクスノキの木陰から、俺たちの稽古を見学していたらしい。
起き上がり、イルガの頭をぽんと叩くと、リュウゾウ先生たちのもとへ歩き出す。だが、一足先にナツメとハナが二人と合流する。
足を止めた。
そして、何事もなかったかのようにくるりと背を向け、父さんのもとへ戻ることにした。
そのとき――
「おーい、青年。婚約者二人が待っているぞ。逃げるなんて薄情だぞー」
背中にカジコさんの声が届く。正直、今は稽古で疲れていて、ナツメとハナの相手をする余裕はない。
しかし、カジコさんの言葉を無視することもできなかった。俺は彼女たちに見つからないよう、大きく息を吐き出す。
そして、疲れた顔を無理やり笑顔で覆い、カジコさんたちのもとへ向かった。
「お疲れ様、ソウガ。なんで逃げようとしたの?」
みんなのもとに着くや否や、ナツメが笑顔で尋ねてきた。理由なんて分かっているだろうに、相変わらずいい性格をしている。
「格好良かったよ、ソウガ。それで、どうして逃げたのか、私も知りたいな」
首を傾げ、こちらを見るハナ。
俺が『ハナ』と呼び始めた昨夜から、彼女の言葉遣いは、まるで時計の針が巻き戻ったかのように昔のそれへと戻っていた。
妹のナナエが俺から離れて寂しかったが、代わりに年の近い妹ができたようで、少しだけ嬉しかった。
ただ、その内容は全然嬉しくなかったが――。
何と答えようか、眉を曇らせそうになる。そのとき、リュウゾウ先生が口を開いた。
「まあ、お前たちも色々とあるようだが、それより今は、さっきの稽古だ。すごいな、ライガさんは。さすが、若くしてソロでA級冒険者になっただけはある。これで機人の操縦も卓越しているのだから、驚きだ」
先生は顎に手を当て、イルガと組み手をする父さんに目を細める。
「そうだな。ライガさんとソウガ君の組み手は見応えがあった。金を払ってもいいと思えるほどだったよ」
カジコさんがパイプを口から離し、紫煙を吐き出しながら同意する。尊敬する二人が父さんを褒めてくれたことに、自然と笑みが零れた。
その隣では、ハナとナツメが俺から答えがなく、不服そうに睨んでいるが、気づかないふりをする。
そのうち、時間が解決してくれるだろう。俺は気を取り直して、リュウゾウ先生に尋ねた。
「そういえば、ちゃんと聞いていませんでしたが、こちらには保養に来たんですよね?」
「ああ、まあ、それもあるが、実は武蔵零式の五大機能<水>を解放するキーワードが見つかった。そのことを知らせ、できれば機能を確かめたいと思ってな」
先生は満面の笑みで答えた。
どうやら保養はついでで、五大機能<水>の解除と、その仕様を確認するのが目的だったらしい。
相変わらず機人のことになると、見境がなくなる。
そんな先生に笑みを浮かべていると、カジコさんが紫煙と一緒に、ため息を吐き出した。
「ふぅ……本当にこいつは昔から変わらんな。人肌よりも鉄の肌を好むとは、とんだ変人だ」
その言葉に思わず吹き出してしまった。だが、リュウゾウ先生は言われ慣れているのか、気にする様子はなかった。
「それで、稽古で疲れているところ悪いが、武蔵零式を出してくれないか?」
「いや、リュウゾウ。今さっき到着したばかりだろ。少しはゆっくりするぞ。せっかくシースイに来たんだ。本場の『緑茶』や『トンカツ』を食べに行くぞ」
そう言って、カジコさんはリュウゾウ先生の襟首を掴むと、強引に歩き出した。先生が名残惜しそうにこちらを見るが、俺は小さく手を振り、見送った。
どう考えても、カジコさんのほうが正しい。
普段は生徒想いで、堂々としている先生だが、彼女の前ではどこか子供っぽいところを見せる。よほど信頼し、厚い友情で結ばれているのだろう。
屋敷から出て行く二人を見送ると、俺は両手を思い切り突き上げ、背筋を伸ばして振り返る。
そこには、じっとこちらを見るハナとナツメがいた。
二人とも笑顔を向けているが、その目は笑っていない。どうやら時間が解決するには、まだ足りなかったようだ。
二人に笑顔を返し、そっと距離を取ろうとすると、ナツメとハナはすっと近づき、俺の両脇に手を滑り込ませた。
それは愛情表現と呼ぶには、少し力が強かった。がっつりと両腕を組まれた俺は、二人に引っ張られ、屋敷の中へ連れて行かれる。
視線の先では、いまだに父さんとイルガが稽古に励んでいた。
俺は少しだけ二人が羨ましいと思ったが、もちろん顔に出すことはなく、黙って彼女たちに連行されるのだった。
貴重な時間の中、読んでくださり感謝です(//Д//)
ブクマや★で応援いただけると励みになります!




