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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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新たな技術

「もう大丈夫だな」


「何から何までお世話になりまして……」


背筋を伸ばしたまま腰を曲げるDOLLSマスターの姿が見える。


ケヴィンはあの後、メイファをギルド支部DOLLSへと無事連れ帰った。


DOLLSマスターの指示により、メイファをそのまま月下無限天直営の総合病院へと担ぎ込んだ。


しかし、メイファを発見して直ぐ気絶した彼女へ施したケヴィンの治癒魔法の効果により、彼女が負った傷は傷跡一つ残さず完治状態となっている。


診察を担当した医者も、後は体力が回復すれば自然と目を覚ますだろうと言う判断を下した。


「気にすんな、また美味いコーヒー淹れてくれりゃそれでいい」


「美味しくて『ぬるい』コーヒーですね? いつでもご用意してお待ちしておりますよ」


頼んだぜ、とケヴィンが伝えると、DOLLSマスターは業務の為にギルド支部へと戻っていった。


「ん……んー」


タイミングが良いのか悪いのか、マスターが戻っていった直後にメイファからの反応が見られる。


彼女の方へ振り向くと、メイファがうっすらと目を開けている。


ゆっくりと辺りを見回す彼女、ベッドの脇に座っているケヴィンと目が合い、ゆっくりと体を起こす。


「起きたか、寝坊助」


言う程気絶してからそんなに時間は経っていない。


「Kさん……」


まだ万全な状態では無い為、弱々しい声だが彼女の表情はとても柔らかい。


「Kはもうこの世に居ねぇぞ、今はもうこんな立場だからな」


言いながら、ケヴィンは黒ローブのフードをかぶって見せる。


二つ名持ちのギルドメンバーである事を証明するそれは、偽名のKと言う名が無くなったと言う事実に繋がる。


元々偽名でギルド登録をした者に限るが、二つ名を手に入れた時から偽名は消滅し、それ以降は二つ名で呼ばれる事となる。


「蒼氷さん……で良いんですか?」


メイファは尋ねる様にケヴィンへと問う。


メイファはAランクになったケヴィンに今日初めて出会った。


Kが蒼氷だと言う確定事項を、彼女はまだ知り得てる筈が無い為の発言だろう。


「あぁ、隠してて悪かったな。俺が蒼氷の朱雀って呼ばれてた奴の正体だ。どうやらお前にはバレてたみてぇだな」


「予想の域を出ませんでしたけどね。なんとなく、そうだったら良いなと思ってました」


ケヴィンはフードを下す。


「だけど俺自身、その二つ名はなんとなくしっくりこねぇ。これからお前は契約通り俺の専属ギルド員に成る事だし、必要な時以外はこっちの名前で呼んでくれ」


ケヴィンは大袋から、通常時に使う時用のBランクギルドカードを差し出す。


「ケヴィン・ベンティスカ……これが本名なんですか?」


「まぁ、そう言う事だ」


「ケヴィンさん……いい名前ですね」


柔らかい笑みを此方へ向ける彼女に、ケヴィンも自然と笑みが零れる。


冷静を装っては居たが、実際に彼女の救済に間に合って本当に良かったと、この笑顔を失わなくて本当に良かったと、そう思っている。


「あ……そう言えば……」


彼女は周囲を見回す、ベッドの枕元の脇へ置かれている小さい箱を見つけると、安心した様にそれを抱える。


「大事なもんか? お前気絶してる間にもそれを手放さなかったぞ?」


「はい、大事な物です。なので、これケヴィンさんにあげますね!」


「あ? 大事なもんなんだろ? 何で俺に」


「元々、その為の物ですから。Bランク……えっとAランクですか? とにかく昇級おめでとうございます」


小さな箱を両手に乗せながらケヴィンへそれを差し出すメイファ。


彼女の言葉を受け止め、そう言う事かと箱を受け取る。


「開けてください」


「あぁ、なら言葉に甘えて」


包装を傷つけない様、丁寧にそれを開けたケヴィン。


中を覗くと、青い宝石を中心に、白銀の細い糸の様な装飾が何本も宝石を纏っている。


まるで氷と冷気をデザインしている様な、そんな雰囲気を持つペンダントだった。


「……綺麗だな……」


「気に入りました?」


「……あぁ」


ケヴィンはその宝石に見入っている。


綺麗なデザインであることも目を奪う要素の一つだが、ケヴィンはもっと奥深くに有るとある秘密に気づいた。


宝石の奥に、小さな魔法陣が刻まれているのだ。


円の中に文字列が刻まれたそれ、しかし世界共通語でマナの力を使う為の語源となっているアトランティス語では無く、和を感じさせる象形文字の様な文字列が刻まれている。


そしてケヴィンはその文字を読む事が出来た。


文字列の中心に、この魔法陣に込められた魔法の名はこう書かれている。


『細氷』


そしてそれが意味する魔法は『ダイヤモンドダスト』……ケヴィンが得意とする氷の上級魔法だ。


ケヴィンは不意に立ち上がり、メイファの病室の窓を開ける。


「ケヴィンさん?」


彼の行動に疑問を持つメイファだが、ケヴィンは気にせずペンダントを掲げる。


そしてゆっくりとペンダントへと魔力を流し込んだ。


その瞬間、ペンダントの正面に雪がチラつき始め、小さな小さな氷の粒がゆっくりと出現し、やがてすさまじい速度で何億個もの氷の粒が窓の外へと放たれた。


「ダイヤモンドダスト?」


その現象を見て、メイファは極一般的なダイヤモンドダストの効果だと見抜いたのだろう。


彼女の言う通りペンダントに刻まれた魔法陣から発現された魔法は、ケヴィンの使う高出力のそれとは異なる、一般的なダイヤモンドダストその物だった。


しかしケヴィンの体感として、そのダイヤモンドダストの威力から想定されるよりも遥かに消費魔力は多く、大人のエルフがやっとの事で一発使えるかどうかの消費量だった。


だが……こんな『小さな魔法陣』で、等身大のダイヤモンドダストが放てる。


この事実は、明らかに魔法陣の歴史が変わる程の代物だ。


本来これ程までに小さい魔法陣でダイヤモンドダストを扱おう物なら、それこそ英雄クラスの魔力所有量が居る事となるだろう。


それが一般人でもギリギリ打てる範囲の魔力消費量に抑えられている。


正に革命的だ。


それを可能にしたのがこの魔法陣に刻まれている文字列と、ダイヤモンドダストを意味する文字の『細氷』だ。


これらは『この世界』の文字では無い。


レオンやデュランの方が恐らくこの文字には詳しいだろう。


かつての英雄が文献として残した書物の中から、ケヴィンはその文字を学んだ事があった。


所謂、異世界にある『日本』と呼ばれる国で使われている『漢字』と言う名の文字だ。


アトランティス語でダイヤモンドダストと書く場合、多くの子音と母音を組み合わせて作り出され、魔法陣に文字を刻もうとしても20文字近くの羅列を刻まなければならない。


しかし、それと比べ今この魔法陣に刻まれている日本語は細氷と言うたった二文字の羅列でダイヤモンドダストを表しているのだ。


この文字数の差が、魔法陣の大きさにはとても大きく影響する。


まさか異世界の文字であるこの漢字が、アトランティス語と同じくマナの力を保有している等と誰が考えるだろうか。


日本語に魔法を扱えるマナの力が宿っていると分かれば、世界中の魔法陣の大きさが変わる。


これ程小型化された魔法陣の中に、ダイヤモンドダストの効果効能威力、様々な魔法を放つ為に必要な文字を刻み込む技術は、これを作った人物が途轍もなく器用だと言う事も理由だが、同じことをアトランティス語でやろうと思えば、魔法陣の大きさは直径1メートルに達した事だろう。


それを僅か『1センチ』程の魔法陣の中に収める等、正に魔法陣作りの革命だ。


「これは……一体誰が作ったんだ?」


「ペンダントですか? ケヴィンさんもEランクの時に僻地へ配達依頼を受けた時に会ってると思いますが、メーゼ・モンターニュと言う方です」


ケヴィンは考え込む。


あのメーゼと言う細工師がこのペンダントの全てを作ったと言うのなら、十中八九この魔法陣もそのメーゼが刻んだものだろう。


となるとメーゼと言う人物は日本語を知っていると言う事になる。


ケヴィンと同じ様に勉強したのだろうか。


いや、とケヴィンはその考えを否定する。


自分の様なもの好き等早々いる筈が無いと自虐的に考えを消す。


となれば考えられる事は一つ。


魔法陣を『人間』であるにも関わらずこれ程細かく刻む事が出来る尋常じゃない器用さを考え、メーゼと言う人物は『異世界人』……つまり『英雄』の一人では無いかとあたりを付ける。


兎に角だ。


英雄だろうがなんだろうが、この魔法陣の技術はすぐにでも吸収すべきだ。


今回のメイファに陥った窮地の事を考えると、いくら自分や英雄達がオールガイア中を自由に飛び回れたとしても、どんな相手にも負けない程の技術を持っていたとしても、体は当たり前に一つしかない為に、その全てを救う事は出来ないだろう。


それが他人ならば、ケヴィンは正直な所『知ったこっちゃ無い』等と突き放した考えをする事もあるが、窮地に陥った人物がメイファの様に『友人』だったのならば、なんとしても救いたいと思うだろう。


そんな時、簡単に携帯出来る上級魔法の放てる魔法陣が有れば……例え手が届かない位置に誰かが居たとしても、その人個人で窮地を脱する事が出来るかもしれない。


「メイファ、とても良いものをくれたな。感謝だ」


どれもこれもメイファのお陰だ。


彼女が自分の為に拵えてくれたこのペンダントのお陰で、新しい発見が出来た。


悲しい事にプレゼントを用意してくれたと言うメイファの気持ちが嬉しいと思える程の感覚は、ケヴィンにはまだ無いのだが……。


「気に入って貰えてよかったです! あ……それと、これお返ししますね?」


言うと、メイファは首から掛けていたチェーンを持ち上げる。


胸元から現れたペンダントの装飾は、黒く四角い形の宝石だった。


以前メイファが蒼氷を見た時に拾ったと言うアクセサリーなのだろう。


当時ケヴィンはそのアクセサリーがペンダントだと思っていた事からそれは自分の物では無いと思っていたが、実際には元々『ピアス』だった物をメイファはチェーンを付けてネックレスにしていただけだった様だ。


そして思い出した。


確かにそのアクセサリーは自分の物だと。


ケヴィンは大袋に手を入れ、メイファの持つ宝石と同じ形の装飾の付いたピアスの片割れを取り出す。


「なんだ、無くしたと思ったらお前が持ってたのか」


ケヴィンはメイファからそれを受け取ると、ピアスをペンダントへと近づける。


ピアスの耳に付ける金具を大地魔法で変化させると、ペンダントに取りついている宝石の下に連なる様に、ピアスをくっ付けた。


「これは元々二つで一つの魔道具だったんだ。この宝石に魔力を予め込めておけば、いざ自分の魔力が減った時に補給できる物だ。まだ俺が力が無かった頃に重宝してた物だな」


言いながら、ケヴィンはそのペンダントに己の魔力を込める。


所謂魔力蓄積器としての効果を持つ魔導具である。


ケヴィンは魔力を込めたそれをメイファへと差し出す。


「へ?」


「やるよ、ペンダントのお礼だ。そうだな、普通のダイヤモンドダストなら10発は軽く撃てる程の魔力が入ってる。といってもこの宝石の大きさなら魔力を圧縮してそれが限界なんだがな」


「あの……魔力を入れ込む事が出来る魔道具が有るのは知ってますけど……上級魔法が10発は軽く放てると言うのがよく分からないんですけど……」


「だからこの大きさではそれが限界なんだよ。なんだ? 不満か?」


「いえ、じゃなくてですね……この世界に存在してる一番大きな魔力蓄積用魔道具でやっと上級魔法10発が限界なんですよ!?」


「だから魔力を圧縮したって言ってんじゃねぇか。仮にその一番でけぇやつに同じことしたら上級魔法を100発は打てるぞ?」


「なんですかその英雄が保有してそうな魔力量は!? ていうか魔力を圧縮とか訳わかんないんですけど!!」


「は、それはお前が修行不足なだけだろ」


「はぁ……これだからケヴィンさんは……」


呆れた表情を見せながらメイファはペンダントを受け取る。


しかしそれを首から掛けた瞬間何やらニヤニヤしだした。


「ケヴィンさんからのプレゼント……」


何がそんなに嬉しいんだかと言いながら、その光景を見ながら彼女が無事で良かったと改めてケヴィンは思う。


「さっさと元気になってギルドの仕事に戻れよ? 専属ギルド員さん」


「分かってますよーだ。あぁ……考えても見れば二つ名持ちの専属ギルド員になったら楽が出来るかもとか思ったけど……その相手がケヴィンさんなら依頼達成率が半端なさ過ぎて逆に忙しくなるのかも……」


「安心しろ、程々にしておいてやるよ」


「約束ですよ?」


「お前なぁ、依頼を斡旋する立場の奴がそんな事言っていいのかよ」


二人は一斉に笑い出す。


「DOLLSのマスターも心配してたからな、早く元気な笑顔見せてやれ。後なんか美味いもん強請れ、約束しておいてやったから」


「はい! 是非とも!」


またな、とケヴィンは病室を後にする。


メイファから受け取ったペンダントを見つめながら、魔法陣に関する一つの秘策を思いつき目的の場所へと転移をする。


思い立ったが吉日と言うべきか、考え付いた手段を試そうと行動を始めたのであった。



――――……。

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