小型魔法陣
「ふぉっふぉっふぉ……お主の考案は上手くいった様じゃのうケヴィン」
「あぁ、レオンやデュランも手伝ってくれたからな。思ったよりも何倍も速く作る事が出来た」
アトランティス学園の学園長室にてアルベルトと挟んでいる机の上には、厚さ3ミリ程、直径10センチ程の木の板が二枚置かれている。
片方の魔法陣には、先日ケヴィンが発見した『漢字』がマナの力を宿すルーン文字として使われている。
もう片方には殆ど文字としても形成されていない言語の分からない文字が書き込まれていた。
この漢字が使われている魔法陣の真ん中に描かれている魔法名は『転移』。
つまりこの板には転移魔法陣が描かれているのである。
アトランティス語で記載された転移魔法陣を日本語に改良し、小型化に成功したものと言えば分かりやすいか。
正確には『漢字』は日本起源ではないらしいのだが、あくまで日本で使われている文字として捉えておく。
ギルドに設置されている様な直径一メートルだった魔法陣がいきなり10分の1になった事でさえ驚きだが、この転移魔法陣、魔力無しで使えるのだ。
と言うのも転移魔法陣は、定位置の転移先を対象にする事で本来の転移魔法よりも格段に少ない魔力量で発動出来る様にされている。
少ないと言っても、結局は初級魔法を放てる程の魔力消費は起こる為に、もし危機的状況で魔力が底をついてしまうと言った場面に遭遇してしまえば、いくら転移魔法陣を気軽に持ち運べるようになったとしても、転移魔法を発動させる事が出来ない状況となる。
それを打開する為にケヴィンがこの小型化転移魔法陣の素材に用いた物が、あの『デスマウンテン』に生い茂っている『魔草樹』やデスマウンテン産の『鉱物』だった。
魔草樹はその高い魔力保有量から様々な魔道具に使われる。
勿論鉱物にも物によっては同様の効果を期待出来る物も存在している。
ケヴィンの目の前にある魔草樹から加工した板は、これだけのサイズで初級魔法を一発放てる程の魔力を蓄積する事が出来る。
先日メイファに渡した魔力蓄積用魔道具と比べれば大した事は無いが、あちらはそれ専用の宝石を加工した物だからこの差は当然だ。
元々魔力濃度の高い地域で生息していた事から、自然と魔力保有機能を宿しているこの魔草樹。
この機能は当然通常の木材には存在しない物だ。
その魔草樹を携帯できるサイズに加工して魔法陣を刻み、魔力を保有させる機能と保有した魔力を使用する機能、更に魔力を保有していない状況でも直接魔法陣へ魔力を注ぎ込んで転移魔法を発動する機能を持たせた。
冒険に旅立つ際や、この魔法陣を使用した後に魔力を再度充填させておく事で、土壇場であっても転移魔法を起動する事が出来るのだ。
漢字を用いても消費魔力から考えて魔法陣の大きさはこれ程の縮小が限界だったが、その中には大きな技術が確かに詰まっている。
ケヴィンの考案でこの転移魔法陣の作成が大成功し、蒼氷の名でこの転移用魔道具が発売された上、良心的な価格だった事から世界的ヒット商品となったのである。
そもそもケヴィンにはまったくもって必要の無い魔道具なのだが、やはり先日のメイファの危機を懸念した事から発案した技術は、主に一般ギルドメンバーを中心にギルドメンバー必需品の魔道具となり果てた。
しかしどれもこれもケヴィン一人では成し遂げられない事だっただろう。
ケヴィン以外にもこの魔道具作りにかかわった功労者は沢山いる。
ケヴィンがまず最初にこの話を持って行った相手は、細工師メーゼだ。
ケヴィンは彼の事を英雄かもしれないと睨んでいたが、結果的に言えば彼は『半』英雄と言うなんとも微妙な立場の者だった。
ケヴィン自身が自分が蒼氷である事や、紅蓮の翼、滅殺の刃と言うXランカーの素性を知る者だと言う事を説明した事によって、彼の立場を把握する事が出来た。
彼は俗に言う『巻き込まれ英雄』と言われる、英雄としてこの世界に呼ばれる筈の存在に『巻き込まれた』形でこの世界に転生した存在だった。
本当ならばこの世界に来る筈が無かった存在である事が影響したのか、身体能力、魔力等は英雄と比べても申し分ない程の力を彼は持っていたのだが、英雄として大事な要素の一つとなる『異能力』が彼には存在していなかったのだ。
その為に彼はオールガイアで活躍している英雄達と同等の期待をされても困ると思い、半英雄である事を隠しながらこの様な僻地で細工師をやっていると言う事だった。
彼の体型は身長こそ低いものの、隆々とした筋肉で横に広い姿をしている。
例えるならおとぎ話に出てくるドワーフだろうか。
髪は短いがくるくると言った表現の合うくせ毛の様な髪質。
目はそこまで大きくないが、鼻と唇が大きく本当にドワーフと言っても遜色の無い見た目をしている。
メーゼ本人、ドワーフ界ではイケメンだ等と冗談を交える程だった。
当の彼を巻き込んでしまった英雄と言う存在は、どうやら英雄界隈の中でもかなりの大物らしい。
オールガイアランキングの上位に名を連ねる人物で、トップランカーになった現在でもメーゼの事を良くしてくれているとの事。
異世界でもその人物とは親友で、巻き込んでしまった負い目が有るのか世話焼きなのか、半英雄の力を自分が持っている事を知っているにも関わらず身を案じてくれているらしい。
その話を聞いて、自分の立場に奢らず出来た英雄だなとその人物に対してケヴィンは感想を漏らした。
オールガイアランキングで上位となれば、やはりXランカーの誰かだろう。
しかし詮索するつもりは無い為、その人物の正体は知らずじまいだ。
ケヴィンが彼の技術で注目したのは、やはりその手先の器用さである。
細工技術もそうだが、魔法陣を描く為の指先の器用さは目を見張るものがあるのだ。
彼に今回の魔法陣の改良について話を持って行った所、全て自分で作るには限界がある為、一つの試作品を作った後は、それを技術提供すると言う形で話がつく。
彼が直接手がけた試作品と比べれば、やはり今の量産された小型転移魔法陣は必要魔力用や大きさがやや増えてしまうが、それでも確実に効果を発揮する物となった。
ケヴィンのこの後の動きは技術者と提携出来た為、次は素材の入手経路の確保だ。
これは簡単である。
素材の当てとしては、ケヴィンは最初からデスマウンテンに目を付けていた。
一応表向きにはアトランティス王国が有する土地の為、その土地を国から買い取る算段を付ける。
デュランに相談した結果、蒼氷の立場でデスマウンテンエリアをケヴィンの管轄エリアにしてしまえば良いと言うアドバイスを受け、これを基にアルベルトに頼み込む事でアルベルトが国王へと直談判。
蒼氷はとても気分屋な為判断は早い方が良いとアルベルトが煽りを掛けた所、国王であるフェルナンド・カルミン・アトランティスはいとも簡単に首を縦に振った。
煽りの影響か、様々な手続きを強引にねじ伏せ、ほぼその日の内にデスマウンテンはケヴィンの物となったのだ。
これは、デスマウンテンに生息する魔物の全てをケヴィンが請け負う事で、国がデスマウンテンから受けるリスクを極限まで減らせる事が出来る事から、国にとってはほぼメリットしか残らないからである。
討伐依頼を出さずとも、蒼氷が勝手に始末してくれる。
こんなうれしい事はないだろう。
問題は既にデスマウンテンには殆ど凶悪な魔物が居ない事が挙げられるが、これについてたは先に討伐するか後に討伐するかだけの違いであり、どちらにせよケヴィンの手柄である事は間違いでは無いので詐欺ではない。
と、デュランが言っていた。
ちょっとご都合主義?




