メイファの現状
聞けば、メイファは現在報告通り期限切れが近かった配達依頼の任務にギルド員として就いた。
もともとこう言った配達依頼や収集依頼は、ギルドメンバーに成りたてのEランカーが任務に就く事が多く。
そういった駆け出し以外はほぼこう言う任務に就く事は無い。
皆魔物が狩れる様になれば、実入りの少ない上拘束時間が長い小さな依頼は受けたがらない傾向にある。
ギルド側が自ら声を掛け依頼を斡旋する事も有るのだが、そう言った形でも任務を受けてくれるギルドメンバーは多く無かった。
そんなあぶれた依頼を請け負うのが、元ギルドメンバーとしてある程度の経験のあるギルド員である。
大抵がギルド員としては新人の、ギルドメンバーとして活躍した時代が近しい者程選出される傾向に有る為、元Cランカーの確かな実力を持つメイファにそのあぶれた任務を熟す役割が回って来る事は不思議では無かった。
依頼内容も遠地への集荷。
内容を見てみれば依然ケヴィンが初めて受けた配達依頼の場所へ、商品の集荷へ赴くと言う任務だった。
完全にEランク用の任務であり、途中で通る事となる雑木林にも好戦的な魔物は存在せず、退ける事は簡単な魔物ばかりで危険度の低い依頼だ。
元Cランカーのメイファなら難なく熟す事が可能だろう。
ただ問題は常人の足では一週間程行き来に掛かる程の距離の為、1日でこなせる様な任務では無かった事。
整地もされて居ない様な僻地で有り、魔導車の類での進行が不可能な事であった。
そこで更に問題が起きる。
メイファはギルドから支給された馬で現地に向かったのだが、計算では馬での移動ならばどれだけ遅く見積もっても昨日には戻ってこれていた筈だと言う。
いまいち自分の足の速さを加味したり、転移魔法を簡単に扱えるケヴィンにとってその情報はピンと来ない事から、その計算についてはマスターの情報を信じる事しか出来ないのだが。
簡単な依頼の為連絡用魔道具等を持ち出していなかった事から、任務中のメイファとは連絡が取れない状況である。
ギルド員が行方不明ともなれば捜索隊が組まれる事も有るには有るのだが、何分予定日からまだ一日遅れた程度で有りギルド側の動きは遅く、明日以降に成らないとそういった動きは始まらないだろうとのこと。
マスター自身、心配のし過ぎと言う事も有るだろうと言う事は理解しているが、今では孫の様に可愛がっていた自分の支部の部下だと言う事を考えると、正直居ても立ってもいられない様子。
今日、この時ケヴィンがこの支部に訪れたのは彼にとって正に天の助けだと思ったとの事。
依頼を掛けようとも思ったが、捜索依頼となるとやはり拘束時間を嫌うメンバーも居ると言う。
しかも今回は遠地への依頼の道中が捜索対象範囲の為、余計に時間が食う事だろう。
更には元Cランカーが行方不明ともなると、当たり前にCランカーが対処出来ない事象と言う事もあり、依頼を受ける事の出来るランクはBランク以上と言う事になる。
余計に捜索依頼を受ける者等居なくなるだろう。
その上やはり、何も問題なく今日中にでも帰ってくる可能性があるのも懸念されている。
「……Aランクとおなりになった貴方様に、この様な事を頼むのはお角違いと存じますが……どうかメイファを探し出してくれませんか……。依頼金は私が出します……」
言うと、マスターは重量感の有る銭袋をケヴィンの前へと取り出す。
口から除く表面の貨幣を見るだけでも、どれだけマスターが捜索依頼に本気なのか分かる程の金額だ。
ケヴィンはゆっくりと席を立つ。
「わりぃがこの依頼は受けられねぇ」
「……そうですよね……おこがましい事を言ってしまい、申し訳ございません……」
ケヴィンは銭袋をマスターへと投げ返す。
「だから金は要らねぇ。それはあいつが戻ってきた時、何か美味いもんでも食わせる為に使ってやれ」
両手に銭袋を抱えたマスターは、驚きながらケヴィンを見上げる。
「安心しろ、メイファはすぐに連れ戻してやる。俺が探しにいって何事もなかったならそれで良い。だがもし問題が有ったと言うんなら、俺程早く動ける奴はそうはいねぇだろ」
「じゃ……じゃあ!!」
マスターの顔色は一瞬で明るくなる。
自分も焼きが回ったもんだとケヴィンは思う。
誰かの為に自ら行動しようとするのは初めてかもしれない。
レオンやデュランにあてられた……それも事実だろう。
ただ……自分の手の届く範囲で、自分がそうしたいと思う相手なら全力で守ってやる。
そう思える程……ケヴィンの心境は大きく変化していた。
「友人を救うと言う行動の為なら、依頼を通す必要がねぇ」
ケヴィンは転移魔法を発動させた。
――――……。
口元に片手をあて、悲鳴が漏れない様に声を抑える。
発声の一つが『命取り』となるこの現状で、呼吸をする事も慎重になってしまう。
『メイファ』は悲痛に叫びたくなる思いを堪えながら、折れてしまった『両足』に視線を向ける。
あらぬ方向に折れ曲がった両足は、少しでも動かそうとすれば激痛が走る。
大木に背を預けながら、己の不幸を呪う。
メイファは今週の頭から、とある任務についていた。
期限切れが近くなったあぶれ依頼。
『メーゼ・モンターニュ』と呼ばれる細工師の元に、商品の集荷へと伺う任務だった。
何故か細工師のメーゼは、人目を避け僻地に暮らしている。
交通の便が非常に悪く、人の足では一番近い転移魔法陣からでも片道三日は掛かる程の距離だ。
そんな人里離れた場所で、彼は細工師として生活をしている。
だがこれが中々の名工であり、巷では貴族を中心に相当な人気を出している。
本来細工師は自然魔法を操り、鉱物を大地魔法で変化させアクセサリーを作り上げるのが主たる技術なのだが、このメーゼは『人間』なのだ。
にも拘わらず、このオールガイアでは誰も用いない方法で鉱物を加工し、繊細なデザインのアクセサリーを作り上げる事が人気の秘訣であった。
日々注文が殺到し、どんなに早くても商品は二週間待ちが当たり前な程人気だ。
全部手作りをしているにも関わらず、アクセサリー自体を作り上げる速度はかなりの物で、複雑な形状の物でも一月以内には必ず作り上げる事も人気の理由だった。
メイファは、小さな長方形の箱を片手で大事そうに抱える。
それが今回の依頼で受け取った商品だ。
何もそれを持ち帰る事が任務だから大事にしている訳では無い。
実はその商品をメーゼに発注し、ギルドに集荷の依頼を掛けたのは他でも無いメイファ自身なのだ。
中身は青いペンダント。
氷をモチーフにしたペンダントの作成をメーゼに発注していたメイファは、集荷の依頼を誰も受けてくれなかった為自らギルド員として自らその依頼を受諾。
商品を無事受け取り、現在帰路の最中だったのだ。
そのペンダントは自分用では無い。
……『K』用である。
恐らくほぼ確実に彼は剣聖とのBランク昇格試験で、合格をもぎ取って来るだろう。
そうなればかつての自分のランクを超える一流のギルドメンバーへの仲間入りだ。
そんな彼を祝おうと、以前彼が置いていった依頼達成金を投資して作って貰ったのが、このペンダントだ。
最初はなんとも胡散臭い人物だと思った。
ボロボロのローブでふらっと現れた人物。
風魔法で声を変えていたが、恐らく雰囲気から男性だと思い応対。
聞けばギルドメンバーに成りたいと言い出し、招待状まで携えて来た。
そこに書かれていた名前に、心臓が止まるかと思う程に驚いた。
ギルド月下無限天の中でその名を知らない人は居ない程の有名人、白牙の老神と呼ばれているアルベルト・ワイズマン直筆の紹介状だ。
英雄を覗けば、今でも間違いなく世界最強の人物。
アトランティス学園で校長をやっていると聞いた時は、メイファも入学を考えた程には憧れのある人物だ。
そんな人物からの紹介とあらば、余程権力の有る人物かと思い露骨に態度を急変させてしまった自分が、今では少し恥ずかしい思い出と成っている。
しかし蓋を開けて見れば、何の変哲もない少し面倒くさがりの普通の同年代ぐらいの人物。
ギルドの事なんて全く知らず、英雄にも殆ど興味を示さない。
お金に興味があるのかと思えば、大金をチップだと言って投げ渡してくる。
一瞬で怪しさなんて消え去り、逆に親しみやすさの有る人。
名前を『K』と言う偽名で、初めて自分の担当ギルドメンバーとなった人物。
心底、最初の担当メンバーがこの人で良かったと何度も思った。
だけどKは普通では無かった。
普通とは何なのか、強さとはなんなのか。
その基準の正常な判断が出来なくなるほど、Kは凄すぎた。
涼しい顔で無詠唱での転移魔法の発動。
驚異的な速さでのランク昇格。
それぞれのランク帯での難しい依頼をいくつも同時に受け、たった一日でその全てを達成して戻って来る。
そして彼のBランク昇格が迫った時、彼の審査役に名乗り出たのは、あのオールガイアランキング5位の剣聖、滅殺の刃だった。
今では白牙の老神を超える程のそのビッグネームの登場に、興奮交じりに自分はKへとその事を報告した。
しかし彼はその時も全く態度を変えずに、試験はいつだ? と呑気な事を聞いてくる始末。
この人はどこまでも不思議な人だ。
メイファはその時に改めてKの事をそう思った。
だけど彼は必ず、また再び難なくBランク昇格試験に合格してくる事だろう。
剣聖の判断によっては、一気にAランクやSランクだって目じゃないとメイファは思っている。
それどころか確信している。
気づいているのだ。
メイファはKの『正体』に気付いている。
ほぼ、間違い無く彼はあの人物であると。
『蒼氷の朱雀』その人だと。




