ケヴィンの意外な弱点
弱点と言うよりはチャームポイントみたいなノリ。
作品に評価下さった方有難うございます。
震えて喜びました。
「退屈だな」
湯気の立つコーヒーを冷ます為に、氷魔法の応用で冷気を放つケヴィン。
彼の唯一の弱点が猫舌であると言う事実は、下手すれば担当ギルド職員であるメイファしか知らないだろう。
そんな彼女にカウンター越しから話しかけるケヴィン。
何時もの様に紺色のローブを羽織り、ギルドメンバー「K」としてそこに存在していた。
「ぜんっぜん退屈じゃありませんよ。私が現在担当しているギルドメンバーは一人だけの筈なのに、何故か今十人ぐらいいる様な規模の仕事をしているんですよ!?」
メイファはせっせと書類整理を行っている。
ケヴィンが一度に受ける依頼の量が多い為に、処理がとても大変なのだ。
その上難易度の高めな依頼ばかり受ける影響で、報酬もそれに見合って多くなる。
力の無いメイファはただそれを持ち運ぶだけでも一苦労だ。
そんな彼女を横目に、ケヴィンは暇だなと言って彼女から反感を買っているのだった。
先日、学園で行われた模擬戦の最終戦闘は、残ったデュランとエマによって行われた。
人間対エルフの決着と言う物は、大抵エルフが先に魔法を発動するか、人間がその前にエルフの元へ辿り着くかで勝敗が決まる。
ケヴィンにとってその結果は大きなため息を吐かせる結果だった。
レオンと違い、二人は完全に『C級』を演じきったのだ。
無駄に詠唱を口にするエマと、わざと循環速度を遅らせるデュラン。
そんな手抜きの模擬戦の結果に、ケヴィンは興味すらも失った。
いつか化けの皮を剥いでやるとケヴィンは思いながら、学生とギルドメンバーの両立を手掛ける日々を送っていたのだった。
ケヴィンのギルドランクは現在『C』、僅か一週間も掛からずそのギルドランクを上げた彼は、紅蓮の翼が持つ史上最速のCランク昇格速度を一瞬にして塗り替えてしまった事になっているらしい。
Kなる人物は本人が知らぬ間に有名に成るも、白牙の老神からの紹介だと知るや否や皆納得の表情を見せる。
英雄達からすればその様な記録に興味等無いと言った者が殆どであり、特に自分の立場に絶対の自信を持っている者は見向きすらしない。
その記録が大して騒ぎ立てられない事自体はケヴィンにとって助かってはいるが、それと同時に英雄達に対するその『油断』に怒りを覚えかけた。
「はい! こちらが今日の報酬!!」
またもやギルドメンバーに対する態度とは思えないメイファのそれに対し、鼻で笑いながらも報酬を受け取るケヴィン。
実の所メイファは見た目程怒ってはいない。
元々やりたくてやっている仕事であるが為に、文句等無いのだ。
「それにしても、この勢いなら本当にKさんは上位ランク入りしそうですよね。もしかして本当は英雄様なんですか?」
メイファは様付けを改め、さん付けにする事にした様子。
立場上それ以上砕けた呼び方をするのも良くない事もあり、ケヴィンもそれに納得を見せている様子だった。
「あんな奴らと俺を一緒にするな」
少しだけ嫌味ったらしく言葉を連ねるケヴィンに、メイファはクスリと笑う。
「やっぱりKさんは不思議だなぁ。普通英雄なんて誰もが羨む立場ですよ? それをあんな奴らぁなんて一蹴してしまうんですから」
「あんただって、普通なら英雄を貶そうものなら説教の一つや二つ出てきそうなもんだが、それが無いのは然程憧れていないからか?」
「そう言う訳じゃ無いんですけどねぇ。なんて言うか、現実味が無いと言うか」
意味深な言葉を連ねるメイファに、ケヴィンは興味を持つ。
「英雄様って結構難しい立場ですし、やっぱり依頼が無ければ動かない人達もいるんですよ。それって結局どうなのかなぁって思ったりする事もあって」
自分の実力に見合った仕事しかしないのは英雄も同じだ。
己の能力に対する評価が報酬と言う形に成るこの世の中で、無償で働こうとする者等殆どいない。
「勿論、英雄様達の中にもとびっきりの正義感を持つ方々もいます。Xランクに属している英雄達の中で、所謂『刀聖一派』と呼ばれている方々はそれにあたりますね。彼らは余裕がある時には、無償で動く時もあるそうです」
「ほぉ」
完全に腐りきった英雄達ばかりだと思っていたケヴィンにとって、その言葉は結構な驚きであった。
「でもやっぱりそんな人達でも、ギルドからの指令には従わなければならなくて、自分の意思よりもそっちが優先される事の方が多い様です。特に英雄クラスが無償で動く事を良しとしない小難しいギルドの決まりも有ったりするので、あくまで非公式で動いていると言う事で、ギルドはそれに関与していないと言う体を保ったりしているらしいですけどね」
それが役職を……位を持つ者の使命だから仕方の無い事だとはケヴィンも思う。
「それに私にとっては現英雄の方達よりも、『蒼氷の朱雀』様の方がよっぽど英雄らしいと思いますけどね」
「ゲホッ!!」
「大丈夫ですかKさん!!?」
まさか彼女の口からその名が出てくるは思わなかったケヴィン。
驚きのあまり飲み込んでいたコーヒーが器官に入り、咽てしまう。
英雄に興味等無い、世間からの評価等全く気にしていないケヴィンでも、自分が『蒼氷の朱雀』と呼ばれている事はさすがに認識している。
「な、何故蒼氷の朱雀なんだ?」
ケヴィンに御絞を出しながら、メイファは彼からの質問に答える。
「単純に……もっともらしいからですよ」
「もっともらしい?」
「神出鬼没で正体不明、利益も求めずただ上級モンスターを討伐して行く。被害が起きてからでは無く、被害が起きる前にその要因を葬って行くなんて格好良すぎじゃないですか?」
神出鬼没で利益も求めないのは、それが単純に自分が気まぐれで行動しているからなだけである。
正体不明なのは誰もいない事を確認してから、魔物の異常発生によって生態系に影響が有りそうな魔物を選別して倒しているからだろう。
その結果が被害が起こる前にその要因を葬っている形になっているだけだ。
「それに……私一度蒼氷様を見ているんですよね」
「……見間違いじゃなくてか?」
「正直言うと確信は無いんですけど、私がソロ活動を始めた時期に、運悪く任務の最中……昨今の魔物の異常発生の影響だと思うんですが、居る筈の無い場所に上級モンスターが現れた事が有りました」
ここ数年で魔物の異常行動は目立つ。
生息地で無い場所に現れる上級モンスター、統率された様に動く集団のモンスター等様々な異常な動き。
メイファはその代表的なパターンに運悪く遭遇してしまったのだろう。
「私は息を潜め木陰に隠れていた所、不意に現れた蒼氷様らしき人が瞬く間にその上級モンスターを討伐していました。後ろ姿しか見てませんが、肩まで伸びた茶色い髪と、腰に下げられていた長剣が印象的でしたね」
いつの事を指しているのか記憶はハッキリしないが、確かにそれだけの風貌が自分とマッチしているとなると、その行為は自分が行ったかもしれないなと思うケヴィン。
警戒を弱めていた訳では無いが、確かにそこまで注意深く周囲を確認していた訳では無かった過去の自分を反省した。
「あの時私、蒼氷様が落としたと思われるアクセサリーを見つけて、今でもそれを大事に身に着けてるんですよね。馬鹿だとか言わないで下さいよ?」
ケヴィンはそれに対し首を傾げる。
彼女は今胸元を抑えながらそう発言していたが、ケヴィンは首飾りの類であるアクセサリー類を身に着けた覚えは無い。
さすがにそれは勘違いだろうと思うが皆まで言う必要は無いと思い、彼女の中での大切な思い出に茶々は入れなかった。
「しかもですよ! 最近蒼氷様の行動範囲はどんどん広がってまして、Kさんの行く先々でも蒼氷様の影が見え隠れしてるんですよ? 任務先で出会ったりとかしてないんですか?」
ケヴィンは、何故か依頼で訪れた先々で上級モンスターの異常発生に巻き込まれる節が有る。
先日のファントムリーオンなど正に典型的な一例だが、上級の魔物と出会ったのはあの日だけでは無い。
それ以降もC級に上がるまでの間、何度も異常発生の一部だと思われる魔物と出会っている。
どれもDからC級依頼で訪れる場所ばかりであり、放置すれば必ず被害が出ると思い、氷漬けにして後の処理を他人に任せると言った行為を繰り返していた。
成る程、確かに氷漬けは蒼氷の専売特許、自分が行く先々で影が見え隠れするのも当たり前だとケヴィンは納得する。
何せ本人であるのだから当然すぎるのだが。
「あぁ……まぁ確かに氷漬けのモンスターは何度か目にしたが、面倒な事はほっとこうと思って放置していた。まさかあれが蒼氷の仕業だったとはな……」
と、ものすごく適当な誤魔化しを言い放つ。
「もう!! 何でそこで放置しちゃうんですか! ギルドメンバーは上級モンスターが現れる筈ない場所でそれを見つけたら、例え死骸でも報告する義務が有るんですよ!?」
「……だから面倒だったんだって」
「全く、これだからKさんは」
上級モンスターを討伐する度に報告していれば、流石にKと蒼氷が繋がってしまう。
それを避ける為に放置と言った行動を取っているのだが、むしろメイファがKと蒼氷を繋げないのが不思議でたまらなかった。
「そんな事どうでも良いから早くBランク昇格の試験を手配しろよ」
「そんな事って……まぁ良いですよ、Kさん程の自由人に何言ったって無駄でしょうから」
メイファは半ば諦めた様に溜息を付く。
ここ数日、毎日の様にこのギルド支部へ通い詰めたケヴィンと彼女は、もうすっかり馴染みになっている。
「Kさんなら相手はすぐに見つかると思いますよ、明日か明後日にでもまた来てください。相応の方をピックアップしときますので」
「あぁ助かる。こいつはチップだ、受け取っとけ」
と言いながら、ケヴィンは席を立ちあがると共に報酬袋を投げ渡す。
「ちょっと! Kさん!? こんなに受け取れませんって!」
「持って帰るのが怠いから素直に受け取っとけ」
「ちょっとま――」
メイファの言葉を聞き終える前にケヴィンはギルド支部を後にする。
一般人がざっと三か月は働かなくて済む程の報酬だった為に、結構な大金である。
お金に困ってる訳では無く、ほぼ趣味でギルド活動をしているケヴィンにとってその程度の金額等どうでも良かったのだった。
「そろそろ……蒼氷としての立ち振る舞いも考えて行かなくちゃな」
そんな事を呟きながら、日の暮れた街並みを眺めると、転移魔法で学生寮の自室へと戻って行くのだった。
――――……。
最後までお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字等有りましたら報告いただければ助かります。
ブクマ登録等もよろしくお願いいたします!




