ミリアルドは全く懲りない
チョロイン再び?
「飯だぁぁぁぁああ!!」
ギルドでの出来事から翌日。
その日一日の授業が終わり、それぞれの個人練習も終えた後、ケヴィンは夜食を食べに学食へと向かった。
学食へ入るなり前方で大声を出す金色の髪の男が一人。
レオンである。
彼はまるで疲れ等感じていないかの様な勢いで近くにいるデュランの元へ駆け寄ると、デカい声で話を始める。
「なぁなぁ! 今日の飯は何にするんだ!? かつ丼か? それともかつ丼か!? やっぱりかつ丼か!!?」
「……お前はかつ抜き丼にしろ」
「何だよそれ! そんなのただのたまご丼じゃないか!!」
「貴方にはその程度で十分よ」
レオンとデュランの間に挟まれているエマも、会話に加わる。
「あれ? 何だこれ苛め!? 同級生……しかも親友からの苛め!?」
一人ではしゃいでるレオンに、煩い奴だと冷たい視線を向けるケヴィン。
その為にレオンと視線が合うが、途端に彼は満面の笑みを向けながらこちらへと手を振った。
ケヴィンは不思議そうな表情をしながら……後ろを振り向く。
誰か知り合いでもいたのだろうか、と言う意味合いを込めて。
「いやお前だよお前!!」
と言う華麗なレオンの突っ込みを耳にしながら、ケヴィンは食堂を見回した。
一学年1000人近い生徒数が五学年も在籍しているこの学園の食堂。
大型パーティホールの様な途轍もない広さを誇る空間が、一学年に一フロア毎設けられている。
つまり五階建ての食堂だ。
中でもケヴィンが驚いたのは、約5千人の生徒とそれを応対する教師陣を含めた人数分の食事を用意しているのは、たった二人の初老の女性だったと言う事。
人間の女性が身体強化で途轍もないスピードで料理を盛り付ける。
エルフの女性が自然魔法を駆使し、大量の食糧を調理する。
その見事なコンビネーションは、Xランカー顔負けでは無いかと思う程に卓越されている!
等と、二人の素晴らしい動きに対して変な空想を繰り広げるケヴィンであった。
ケヴィンは注文場所から並ぶ長蛇の列の後方で、注文口の頭上に設けられたメニュー表を見上げる。
どっかの馬鹿に感化されたらしく、かつ丼へと視線を向けたケヴィン。
本日の昼食が決まった瞬間だった。
と、その時である。
突然と腰回りがズシンと重くなる。
まるで誰かに抱きしめられた様な、しがみつかれた様なそんな気分になる。
そしてそれは気のせいでは無かった。
視線を腰の方へ向けると、明らかに一人の女性が自分へと抱きついているのだ。
何処かで見た事のある癖の強い長い黒髪。
同じ赤い学生服に身を包んでいる事から、この学園の生徒である事は分かる。
と言うより、ケヴィンはとっくにその人物の正体に気づいていた。
「……何やってんだ『マリア』」
「ケヴィン様!! お会いしとう御座いました!!」
そう、『マリア・フィリス』その人である。
まさかのまさかであった。
確かに年代的には近しいとは思っていたが、同級生でありかつ同じ学園に入学するとは思いも寄らなかった。
そもそも彼女が魔導騎士育成学園に通う事等予想出来るはずも無い。
ドが付くほどの天然で世間知らずの彼女が、武術を学ぶ為のこの学園に通う事になるとは世も末と言うべきだろうか。
あの日確かにまた会おうとは言ったが、この様な再会は流石に予想していなかったのだ。
しかし彼女がここにいると言う事は、ある程度の武力的実力を持っている事となる為、ケヴィンはマリアに対する認識を少しだけ改めた。
「私、ケヴィン様にもう一度会える日をどれだけ楽しみにしていた事か! 毎日毎日……ケヴィン様にいつ嫁いでも良い様に女を磨いておりましたの!」
「言ってる意味が分からん」
「さぁ! 早く私との婚約の準備を進めましょう!」
「待て待て待て! 一体どう言う思考回路していたらそう言う解釈になる!?」
「ケヴィン様あの時言ってくれたではありませんか……また会おうと。そして結婚しようと」
「前半は確かに言った。だが後半は全く言った覚えは無い」
「例え言って無くとも、その言葉にはそう言った意味合いが含まれてると私の友達が言っておりましたわ!!」
「一体どんな友達だそれは」
全く見当違いな意味合いを吹き込んでくれた物だとケヴィンは思う。
良い意味で純粋な彼女の事である。
世間知らずも相まってその友達の言葉を鵜呑みにしたのだろう。
「さぁケヴィン様! 誓いの抱擁を……」
引きはがした筈の彼女が、再び両手を広げて此方を抱きしめようとしてくる。
耐性の無い男性ならば、何も考える事が出来ず為すがままにされる事だろう。
しかしケヴィンは別の意味で耐性が無く、別の意味で全く怯む事が無かった。
「何の誓いだ何の」
「あぅ」
おでこに手を当て、マリアを顔ごと強引に遠ざける。
と言うよりも誓いの行為が抱擁だなんて聞いた事すらない。
「そんな……ケヴィン様、私ではダメなのですか?」
「ダメとかそう言う話じゃねぇ、意味が分からねぇって言ってるんだ」
「そう言う事なら全て私に任せてください! 何でも、男女の間できせいじじつと言う物を作れば、ケヴィン様はもう私だけの人になるって友達が言ってましたの! ですから今からそのきせいじじつとやら作りに行きましょう!」
「お前は既成事実の意味が分かってんのか……? て言うかちょっとその友達連れてこい。拳骨食らわしてやる」
マリアと下らないやり取りをしている中、既に二人の後方にも長蛇の列が作成され始めていた。
二人のやり取りを羨ましそうに見つめる者、赤面して鼻血を出しながら興奮している者、憎しみを込めている者と多数の観客がいた。
別段羞恥心と言う物の無いケヴィンは、ただただマリアの言動に乗せられない様に対処していた時であった。
「愚民ども、さっさと退くが良い」
そこへ、何やら聞き覚えのある下品な声色が鳴り響く。
途端に生徒一同へ緊張が走った様子が伺えた。
食堂の入り口付近居た生徒達が、次々と『誰か』に道を譲る様に通路の端へと移動する。
真っ二つに割れた生徒達の間からのっそりとやって来た三人組の男、その中で一際横幅の目立つ貴族風の男がふんぞり返りながらケヴィンの前へと姿を現す。
「全く、我が声を掛けんでも自ら退けんか無能共が」
辺りへと眼力を飛ばしながらやって来た彼は、ケヴィンの目の前に辿り着くと見上げる様に視線を上げ、その時になって漸く此方の存在に気づいた様だ。
「な! ……お前は」
途端にその表情が苦い表情へと変わる。
「よぉミリ……糞豚」
「わざわざ言い直してまで豚呼ばわりするでは無い!」
全く恐れを知らないケヴィンの言葉に、生徒達は青褪める。
一般人からすれば、傍若無人な王太子に対してとても失礼な言動をした一般生徒、としか思えないからだ。
「よもや貴様がこの学園に入学するとはな……劣悪種の分際でよく試験が通ったものだ。裏金でも使ったのだろう?」
「二足歩行の珍しい豚が入学出来る様な学園だ、混血種の俺が居たって何も可笑しくねぇだろ」
「貴様!! 無礼だぞ!!?」
ミリアルドの両脇を占める取り巻きの一人が、ケヴィンの言動へ牙を向く。
「俺は別にこいつの事を名指しした訳じゃねぇんだが……何だ? お前らにもやっぱりこいつは豚に見えるのか?」
「ぐ……」
大失言である。
ケヴィンは暴言の対象は明示していない。
にも関わらず、ケヴィンの言葉の対象がミリアルドであると勝手に判断した取り巻きの言動は、豚と呼ばれる可能性のある存在がミリアルドであると認めている様なものである。
それに気づいたミリアルドは、取り巻きの一人をこれでもかと睨みつける。
それだけで、その人物は完全に委縮してしまった。
気付いたらブックマークが付いてました……一人で叫んで喜んでました。
ありがとうございます。
これからも頑張ります!




