Xランカーと呼ばれる存在
話がややこしかったら申し訳ないです。
「炎帝と言ったら……『紅蓮の翼』か」
炎帝、彼につけられた二つ名は紅蓮の翼。
その人物の噂自体は、ケヴィンも耳にした事があった。
Xランカー総勢14名は、それぞれ人間とエルフの英雄に七枠ずつその位が与えられている。
エルフの現Xランカーは炎帝、氷帝、雷帝、地帝、風帝、光帝、闇帝。
そして人間の現Xランカー、槍聖、剣聖、刀聖、拳聖、棍聖、弓聖、刃聖。
エルフの場合、それぞれの属性魔法で最強と呼ばれる七人がその位に付くのだが、人間の場合は少し条件が異なる。
エルフの七席が属性通り用意された七席であるのに対し、人間側はオールガイア中に存在する幾重もの武器の中で、最強の七人がそれぞれ得意とする武具がそのままXランカーとしての位になる。
つまり現人間側のXランカーがそれぞれ得意とする武器、槍、剣、刀、拳、棍、弓、斧の七つの武器種以外を得意とする者が居て、更にその人物が何れかの人間の英雄よりも強ければ、新たに別の位として聖の名が与えられる事になる。
爪を扱う事が得意な英雄が棍聖よりも強ければ棍聖と入れ替わり、棍聖と言う位が無くなって新たに爪聖の位が生まれるという事だ。
これはエルフの位である帝にも言える事なのだが、必ずしもXランカー14人が世界最強のトップ14人と言う訳では無い。
参考までに、現刃聖である『魔壁の巨神』はオールガイアランキング15位に属している。
しかし、『元』剣聖である現Sランカー『真空の鎌鼬』はオールガイアランキング14位。
真空の鎌鼬が扱う武器は双剣である為、彼が担当出来る『聖』の位は『剣聖』の位置である。
しかし、現剣聖である『滅殺の刃』はオールガイアランキング5位。
真空の鎌鼬は、現剣聖に『剣術』で勝る事が出来ない為にSランクへと落ちているが、事実現Xランカーの刃聖より実力は上とされている。
この様に己が得意とする武器や属性で最強を名乗れない場合Xランカー入りする事は出来ないが、その実力が決してXランカーに劣って居る訳では無い英雄はSランカーに何人も存在している。
「なんでも、新炎帝様は瞬く間に功績を挙げて、オールガイア中の人々から途轍もない支持を受けている様です。それを踏まえて『槍聖をよく知る人物』が推薦し、オールガイアランキングが塗り替わる形となった様です」
「つまり実力的にも、その槍聖をよく知る人物とか言う奴が槍聖を超えたと認めた訳か?」
「そうなりますね」
しかし、ケヴィンは納得行かない様に首を傾げる。
多分に思い出補正と言う物があるが、かつての槍聖を超えれる人物等金輪際現れないとケヴィンは思っていたからだ。
ただオールガイアランキングの指標も、全てが強さだけで決まる訳では無いとの情報もある。
強さと人気を兼ね備えなければ上位に名を連ねる事は出来ないとも言われているのだ。
だがそうだとしても、史上最強の英雄と名高い槍聖を超える存在がいるとは到底思えない。
それ程に現英雄達は『堕落』していると言う認識がケヴィンの中で強かったのだ。
「なる程……炎帝か」
「興味有るんですか? Xランクに」
「そう言う訳ではねぇな、いち早く高ランクになりたいと言う意味合いでは……奴らの行動も参考にしなけりゃならないと思ってな」
「必要ないとか言われるかもですけど、ランク昇格の条件を教えましょうか?」
メイファは少し前のめりだ、ケヴィンの実力からして確かに説明等必要無いかも知れないが、ギルドのルールと言う意味合いでは彼は初心者だ。
どう見ても教えたいオーラ全開のメイファを目にして、フッと笑いながらケヴィンは彼女に伝える。
「そうだな……宜しく頼む」
「任せてください!」
途端に胸を張るメイファ。
小さくは無いだろう女性のそれを思いっきり強調しているのはわざとかそれとも偶然か。
そんな事ケヴィンに興味は無かった。
「K様は既にDランクですので、その昇格条件は割愛します。と言ってもCランク昇格も基本はDランク昇格と流れは一緒です。任務を熟して昇格条件に達したら、Cランク昇格試験を受ける事になります。内容はCランクとして受けられる依頼の何れかの達成ですね」
「Cランクの依頼には複数メンバーでの中級モンスター討伐等もあった筈だが?」
「勿論、昇格希望のDランカー同士で組んで試験に挑むと言った場合もありますよ。規則では無いので、そう言った試験方法もあると言うだけです。でもK様の場合は……」
「一人で問題ない」
「ですよね」
呆れ顔を見せる事無く、ほぼ無表情でケヴィンへ突っ込みを入れたメイファ。
そのまま続ける。
「Bランク昇格から少し内容が変わります。Bランク昇格には条件達成後、昇格試験に臨むのは変わりませんが、その昇格試験にBランク以上の冒険者の『付添』が必要になります」
「見届け人、あるいは査定員が同席する訳だな?」
「そうです、勿論その査定員も戦闘には参加します。その査定員の強さを含めた依頼難易度選択がBランク昇格に求められる条件にもなりますね」
「査定員が見つからない場合も有るんじゃないか? 直ぐにでもBランクになりてぇのに、いつまでも担当が見つからないって可能性が有る」
「査定員の募集はギルドからの依頼と言う形に成るので、無償じゃないので比較的立候補される方は多いです。その上Bランクの方がAランクに昇格する為の条件の一つに、Bランク昇格査定員の実施と言う項目が有るので、逆に有能なBランク昇格希望者なら応募者が殺到しますよ」
「成る程、良く出来てるな。それなら滅多に人員が枯渇する事は無いか」
「続いてAランクなんですが、ここから難易度が跳ね上がります。何せ『二つ名』を所持する事になるのですから」
二つ名には二通りの付けられ方がある。
ギルドから直接送られる二つ名もあれば、その戦い方やその人物の特徴から付けられる事もある。
後者に至っては人々が勝手に付けた物を流用する事が多くあり、炎帝の紅蓮の翼や、刀聖の紫炎の一閃等はその類に当てはまる。
二つ名は上位ランカーの正体を隠す事が本来の目的だ。
かつては公開されていた上位ランカーの正体だが、それによって上位ランカーが集中して魔族からの集中砲火を受ける事件が起こった。
魔族側も有能な戦士は早い内に討っておこうと言う考えだったのだろう。
その為上位ランカーが満足に私生活を送れない恐れから、こう言った二つ名を与えられると共にもう一つのアイテムが手渡される事となる。
「二つ名と『黒ローブ』はギルドメンバー皆の憧れです。あの袖に腕を通す事が出来る事自体を夢としている人だっています」
「そんなに良いもんか? 正体隠すだけだったら今のこのローブで十分だろ」
ケヴィンは自らが羽織っているローブを手で掴み揺らす。
「そんな貧乏くさいローブとは全然違いますよ!!」
「言ってくれるじゃねぇか」
口調には怒りが籠っている様にも見えるが、ケヴィンの口元は笑っていた。
「ギルドカードも本名から二つ名が当てられたギルドカードに変わります、でも大抵の人達がもう一枚偽装カードを持つ事になりますね」
「本人としてのBランク『以下』のギルドカードか?」
「そうです、何処から情報が漏れるとも分かりません。Xランカーの刃聖、クラフト・ドルチェ様の様に自ら正体を公開している人物もいますが、殆どの上位ランカーはギルドの思想に乗っ取り、色々な形で正体を隠してますね」
正体を明かすのはよっぽどの自信家かそれともただの馬鹿か。
自分はここにいると言う事を他に知らしめ、敵からワザと標的とされる様に仕向ける者だっている。
クラフトと言う者にケヴィンは興味が無い為、それ以上の探りを入れる事はしない。
彼が正体を明かしているのは何かしら理由があった筈だが、今は関係ないだろう。
「Aランクに上がる為の条件の一つは、先も言ったBランク昇格査定員を担わなければ成りません。そして条件をクリアした後の試験は、上級モンスターの討伐です」
「一人でか?」
「はい、だからとても難易度が高いんです。そもそもBランクの時点で上級モンスターの討伐資格が与えられる形になるので、当然と言えば当然ですね。あくまで複数人で依頼を受ける事が絶対条件ですけど」
Cランク昇格には中級モンスターのグループ討伐、Bランク昇格にはそれの単体討伐。
この流れから行けば、Aランクは複数での上級討伐の筈だが、それを通り越しての単体討伐。
成る程、Aランクから別格と言うあからさまな格差を付ける為にそう言った手段を取ったのだろう。
「そして数多くの英雄も在籍してる伝説のSランク。多大な功績を収めて真の信頼を得た者だけが辿りつけるランク、条件はシンプルにその二つだけです。英雄以外にも数人の一般出身の方が在籍しています。ここまで来ると、依頼の報酬は跳ね上がり、一日で大きな財を築く事が可能になりますね」
詳細な情報を面倒くさからずニコニコとしながら伝えるメイファ。
その笑顔が持って生まれた童顔とも相まって、とても愛嬌の良さを感じる。
ケヴィンは不思議とその光景に、心が晴れる気分を感じていた。
「そして最後に、一つの武力で、一つの自然魔法で頂点を極めた者だけが辿り着けるたった14人の席のXランク。ここに所属する為には、兎に角強くなければなりません。その上でSランク昇格時よりも更に絶対的な信頼を得る事が大きな条件となりますね。功績だけで無く、人柄も重要になってきます」
「俺には縁の無い話だな」
自虐するケヴィン。
「間違いないです。あ、強さじゃなくて後半の方です」
それをメイファは全く否定しなかった。
「確認する様に言わなくて良い」
メイファからランクの話を聞いた後、ケヴィンは情報を吟味する。
Aランクを取ればそれなりに自由に依頼を受ける事が出来る分、何かしらの制限が掛かり動きづらくなる可能性もある。
しかし自分の目的と合っているのが今の所Aランクに近いと言うのもある。
Sランクを目指すつもりも無ければ、Xランクなんて興味の欠片もない。
そもそもさっきも言った通り、他人からの評価が強く影響するのであれば、ケヴィンには本当に関係の無い話である。
誰かに評価される為にギルドメンバーになった訳では無く、自分が今後生きていく事に対して楽な選択肢の一つとしかギルドの価値を捉えていない。
ケヴィンはそう言った自分の考えと情報を組み合わせ、ギルドでの動きに対してある程度の目標を立てた。
「確かに参考になった、早急にCランクに上がれる良い依頼が有れば俺に回してくれ。今更言っても遅いが、依頼の場所までの距離は――」
「もう気にしませんよ」
理解が早くて助かると呟きながら、その日はお暇しようとケヴィンは席を立つ。
とっくに冷めているコーヒーを喉に流し込むと、一言告げる。
「邪魔したな」
「K様」
「あ? どうした?」
「私は貴方の担当ギルド員ですから、これから連絡を取る事が多くなると思います。かと言ってこのギルド支部でしか依頼は受けられないと言う訳では無いので、わざわざこんな地方の支部まで足を運ぶ必要は無いかも知れませんけど」
そこでメイファは笑顔になる。
「また来て下さいね?」
その言葉に、ケヴィンも笑顔で答えた。
「お前がその妙な『様』付けを辞めたらな」
――――……。
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