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月下無限天~最強の在り方~  作者:
蒼氷の朱雀編
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魔物の異常発生の一端

最初の戦闘はスライムの方が良かったかも

ケヴィンは特に警戒する事無く、真っすぐスノーウルフの集団へと向かう。


ケヴィンの存在に気付いたであろうスノーウルフが、耳を起こし鼻を効かせ、ケヴィンの方へ視線を向けてくる。


薄い青色の体毛に覆われたスノーウルフの全長は凡そ150センチ程である。


尾を合わせての体躯だが、初級の魔物にしては大きめな生物である。


大きな牙を剥き出しにし、伏せていたスノーウルフ達が一斉に立ち上がる。


その様子を見て、ケヴィンは一呼吸終えた後身構えた。


まるで久方ぶりの餌を見つけたかの様に、大量の涎を流しながら駆け出し始めるスノーウルフ。


その数、二十二体。


ケヴィンは一体一体全ての位置を確認しながら全体を把握する。


ウルフ種の習性は、確かに群れでの行動が基本だ。


リーダーとなるウルフが存在し、群れで行動する場合にリーダー1体につき合計3体から5体で集団を作る。


それ以上の数となると、知能の低いウルフ種では統率が取れなくなる為に、大抵その程度の数で纏まる習性があると言われている。


しかし、今ケヴィンの目の前には単純計算で、そのグループ達が最低でも5つ程集まっている事となっている。


大抵、群れで一つの縄張りから離れる事は無く、群れ同士が合流する習性も無い。


群れ同士が接触すれば、同族だろうとも縄張り争いが起こる事が原因だとされている。


だが、統率こそ取れている様には見えないが、前方に迫るスノーウルフは互いに争う事無く一つの標的である此方へ一斉に向かってきている。


常識が崩れたのか、魔物達も進化しているのか。


多くの魔物を倒してきたケヴィンですら、このスノーウルフ達の行動は記憶に無い為異常事態だと認識するが、一度その思考を投げ捨てスノーウルフ達へ対処を始める。


距離にして200メートル程、スノーウルフなら10秒もしない内に駆け抜けて来るだろう。


中々に早い速度ではあるが、しかしその早さでは魔導騎士団に所属している人間の一般的な速度よりも『遅い』。


そして十分にエルフの魔法詠唱が間に合う程の速度でもある。


スノーウルフと言えど、名前の由来は極寒の地の森林を好んで生息している事から付いた名前であり、特別氷魔法等に耐性がある訳でも無い。


中々硬い体毛には覆われているが、身体強化した人間の斬撃に耐える程の物では無い。


魔物の討伐経験がある者であれば基本的には負ける事が無い程度の強さの為、初級へのランク分けを施されている魔物なのだ。


ケヴィンは地面に左手を付いた。


魔力を体外へ放出し、地面を伝って前方約50メートル前後の位置へ魔力を送る。


先頭を走るスノーウルフがその地点に辿り着いた瞬間、ケヴィンは魔法を発動した。


「アースグレイブ」


言葉にする必要は無い、それはただの気分で呟いただけである。


刹那、大開脚していたスノーウルフの胴体を、土から盛り上がった鋭利な岩が貫く。


そしてそれを切っ掛けに、後方から続いていた全てのスノーウルフにも、同じ自然魔法が襲い掛かる。


全てのウルフが岩の針に貫かれ、まるでその魔法の名の通り、その場一帯がスノーウルフの墓場に変わる。


地属性の派生魔法、『岩』属性の中級魔法だ。


地属性よりも繊細な属性構成が求められるが、それ自体は地魔法を好んで扱うエルフならば比較的簡単に操れる属性でもある。


ケヴィンは、その魔法をただあたり周辺に我武者羅に放った訳では無く、一体一体確実にしとめる様にスノーウルフと同じ数、本数にして二十二本の岩の針を出現させた。


その方が広範囲へ適当に魔法を放出するより、魔力消費量が少なくて済む為だ。


ケヴィンは既に絶命したスノーウルフへ近づき、討伐証明品で有る牙を左右一本ずつの5セットを入手する。


それ以上は必要無い為採取は行わないが、あまりにもその光景が残酷に見える事から、アースグレイブの解除を行う。


『アースグレイブ(大地の墓)』とはよく言った物であると、己の魔法を見ながらしみじみと思った。


その後ケヴィンは地面に横たわる形となったスノーウルフを、全て炎魔法で消し炭にする。


死体を放置しておいた場合、それを啄む為により強い魔物がここらを彷徨う事になるかもしれない。


この様な寒い環境では、魔物の肉が長い間腐らずに放置される事となる為、念の為だ。


「さて、戻るか」


独り言の様に呟くケヴィン。


しかし転移魔法を発動しようとした瞬間に、比較的『大きな生物』の存在が付近にいる事を探知した為それを中断する。


明らかにこっちへ『近づいて来ている』それに対して、ケヴィンはゆっくりと視線を送った。


のそりと、全長5メートル程の獣が、森林の隙間からケヴィンの方へ向かってきていた。


黒い獅子。


体毛の全てを黒に染められたライオンの様な生物が、ケヴィンを見据えている。


「……成程、テメェがスノーウルフの異常行動の原因か」


通称、ファントムリーオン。


上級に位置するが限りなく中級に近い分類とされるその魔物。


幻影魔法と呼ばれる類の魔法を得意とし、それを用いる事で人を含めた獲物へと襲い掛かる。


ファントムリーオンが使う幻影魔法は、分身するかの様に己と全く同じ姿をした幻を何体も作り出す物だ。


個体としては体が大きいだけでそこまで能力は高くない生物ではあるが、実体を見つけ出す術を持たない者、もしくは幻影ごと纏めて一掃できる力を持たない者にはかなり驚異となる魔物とも言える。


しかしこの魔物は、本来フォレスガイア地方には殆ど生息していない筈の魔物である。


グランガイアと比べて気温の低いフォレスガイア、その中でも極寒の地とされているミローティアは特に、炎魔法や光魔法の扱いが難しいのだ。


エルフや魔法を扱う魔物は、基本的に周囲に存在する自然エネルギーを利用する。


炎魔法なら熱エネルギーを、光魔法なら光エネルギーを。


ファントムリーオンの魔法は、幻影魔法等と特殊魔法ぶった言い方をされているが、その正体は光魔法の応用だ。


気温が低い、つまりその分太陽の位置がグランガイアよりも遠くに有る為に、相応に光エネルギーが減少する。


その差は微々たる物なのだが、意外にもその微々たるエネルギーの変化が、自然魔法を扱う際に重要に成る時がある。


それを知ってか知らずか、ファントムリーオンは本能的にアースガイアに多く生息し、フォレスガイアには滅多に住み着かないと言った生態系を持っていた。


ファントムリーオン程の個体となると、スノーウルフが何体群れを形成しようと、決して敵わぬ存在となるだろう。


結果、餌場を奪われたスノーウルフは、森の周囲でお零れを頂く事しか出来なくなった、と言う事となる。


何故この様な所にファントムリーオンが?


一番の疑問はそこであるが、初心者のギルドメンバーが依頼で赴く様なこの場所に、これ程の魔物が存在すれば確実に被害が出る。


正直そんな事知った事では無いと思うケヴィンだが、流石に己が放置した魔物で死人が出るのは何となくやるせない。


よって、ケヴィンはファントムリーオンを始末する事に決める。

お次はファントムリーオンの駆逐です。

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