メイファ・インベル、拗ねる
大体ケヴィンが悪い
ケヴィンは本人が言った通り、30分キッチリで依頼を熟し、今現在再びギルド支部DOLLSでDランク昇格依頼の選別をして貰っている所だ。
後で確認したのだが、マジックハーブは育っている地方によってその魔力保有量が大きく変わるらしい。
このギルド支部DOLLSが存在するアトランティス国の属国である『ロレンシア国』の城下町周辺にも普通にマジックハーブは生えているのだが、一帯の魔力濃度が低い為大した魔力保有量は認められない。
要するにマジックハーブ自体もダイヤモンドウッドらと同じ『魔草樹』系統に分類される品であると言う事。
今回は魔力濃度が高い地域を特別指定された為に、その場所に赴いて採取して来たのだが、魔力保有量だけで考えれば『デスマウンテン』で採取する方が何倍も価値が有るマジックハーブが取れた事だろう。
「何拗ねてんだよ」
「別にー、拗ねてませんけどー」
戻ってきてからメイファのテンションはずっとこんな形である。
少しだけ頬を膨らましながらそれでもキッチリと事務作業を熟してくれている。
怒らせる様な事をしたつもりは無いが、もしかすると新人だと思っていたケヴィンが、実は上級魔法をいとも容易く使うベテランの魔導士であった事に拗ねたのかも知れない。
今思えば、彼女は初めてメンバー登録を行った相手がケヴィンだと言っていた。
きっと夢だってあっただろう、自分の経験を活かして、初心者ギルドメンバーに手取り足取り順序を教える夢が。
あくまでただの予想ではあるが、大方その辺りではないかとケヴィンは思う。
「はい、これがDランク昇格試験の内容です!!」
とても棘のある声色だ。
完全にご機嫌斜めだろう。
客に対してこんな態度どうなんだと思われるだろうが、ケヴィンは大して気にしない。
昇格試験の内容を見ると、初級モンスターの討伐依頼が掛かれていた。
Dランクに昇格すれば、ギルドで受けられる依頼は初級モンスターの討伐も含まれる様になる。
つまりこの試験は、Dランクでもやっていけるかどうかの判断をする為の依頼を熟すのが目的であった。
学園の生徒達、その中でもケヴィンのAクラスの同級生達は皆最低でもDランクを保持する者達ばかりであった。
成る程、学園に通い始めた事でやっとギルド登録を出来る様になった生徒達が多い中で、既に魔物討伐を経験した者ばかりで構成されるAクラスはやはり特待生らしいと言える状況だ。
ケヴィンは納得しつつ、再び依頼内容へ目を落とす。
依頼内容はスノーウルフ五体の討伐と記載されている。
討伐証明はスノーウルフの牙だ。
大抵、討伐証明となるモンスターの部位は、そのモンスターの『脅威』となる部位が多い。
その為スノーウルフの討伐証明部位は、その鋭利さを誇る牙。
岩をも砕くその牙からして、脅威度は明らかである。
牙を失えばスノーウルフ等ただ極寒地方でも生き残れる程度の狼と変わらない。
脅威度は極端に下がり、幼児等で無ければ討伐出来るレベルまで下がる。
牙の無いスノーウルフは討伐対象にはならない事から、牙持ちを倒す事が依頼内容となっており、牙を持ち帰る事が依頼達成の条件となっている訳だ。
最悪討伐出来ていなくとも二対の牙さえ持ち帰れば、討伐は達成した事にされる場合もあるらしい。
他の生物で討伐証明を上げれば、クロウラビットなら鋭い爪、ビッグラットなら大きな前歯等と、やはりそれらの種族の代名詞の様な部位が多い。
しかし、スライムやゴブリン……極端な話をすれば上級に属する龍種の様な存在自体が脅威と成る可能性のある魔物は、コアや心臓、『魔石』等と言った確実に息の根を止めた証明が必要となる場合もある。
「それじゃ行って来る」
しっかりと内容を確認した後、ケヴィンはさっさと出かける準備を開始する。
「お気をつけて!!」
いつまでも拗ねているメイファに生返事をすると、ケヴィンは再び転移魔法を発動した。
訪れたのはスノーウルフが生息して居ると思われるフォレスガイア大陸のミローティア地方。
グランガイア大陸のアトランティス国から海を北上すると、丁度フォレスガイア大陸のミロ―ティア北東森林へとたどり着く。
オールガイアの最北部に位置する地方の為、ほぼ年中雪景色な地方である。
だだっ広い大雪原がケヴィンの視界に映る。
幸いにも雪は降っておらず視界は良好だ。
その為、雪原の向こう側に目的の森林がある事が確認できた。
更には、その森林近辺に件のスノーウルフが数十匹、うろついているのを発見する。
スノーウルフとは『フォレストウルフ』の亜種である為に、生息する地方は違えども生態系はあまり変わらない。
その為フォレストウルフの特徴である『森林の中に潜む』と言う生態系は、亜種であるスノーウルフも同じである。
しかしケヴィンの目には森の中とは言えない、森の浅い地点にスノーウルフが映っている状況だ。
昇級試験に指定される依頼は、元から昇級用に用意された試験では無く、一般的に出回ってる依頼の一部が丁度いい難易度であった場合に、昇級試験用の依頼へと変わる。
ある意味で体のいい使いっぱしりみたいなものだ。
昇格試験と言う名の下で依頼を与えられている為、この依頼を完遂しても報酬は出ないのだ。
昇格自体が報酬だとも言えるが、なんとも現金な話である。
仮にケヴィンがこの日に昇級試験を行わなかった場合、未だ依頼ボードの片隅にスノーウルフ討伐依頼が残っていた事になっただろう。
依頼が存在すると言う事は、このスノーウルフ対して誰かが困っていると言う事実がある。
スノーウルフの生態系として森林の中に潜むと言う特徴に反して、ほぼほぼ森の外に出てきている魔物達。
ここまで出てきているのならば、さぞかし近隣の村であるミローティアの村は被害を被る事になるだろう。
フォレスガイア大陸の村々は作物を育てている地方がとても多い。
年中雪景色の地方なら、その作物らが豊作となる事は少ないだろう。
そんな状況で魔物に田畑を荒らされてしまえば、ミローティアの村人達の食糧が無くなってしまう。
なにもミローティアの住民が農作物だけで生活している訳は無いだろうが、それでも食糧事情への被害は大きい筈だ。
今回のスノーウルフ討伐依頼は、そのミローティアの村人達からの依頼でもあるのだ。
スノーウルフが森林の外でいつまでも彷徨っている行動自体、完全な異常行動である。
この状況も恐らく近年世界中で起きている魔物の異常発生の一部と言えるのかもしれない。
少なくとも何かしらの関わりはあるだろう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次の投稿をお待ちいただきます様、お願い申し上げます。




