第四幕 ラジオ男の最期
私の名前は三重野トオル、今年38歳になる”名”探偵だ。趣味はサボテンの世話、職業は奇術師にして探偵。どんな難解な事件も私の頭脳と奇術にかかれば即解決するとまあ見栄を張っておこうか。助手の佐渡君には「”見栄”野ハルオ」なんて妙ちくりんなあだ名をつけられる始末だが、警察も手を焼く数々の難事件を解決しているの名探偵の看板は下ろさない。
今回の後に「ラジオ男事件」として記録される事件だが今までの事件とはひと味違う奇妙な事件だった。どこがどう奇妙だったかを説明するからまずそこから私の話を聞いて欲しい。
あれは今年の初夏の出来事だった。当時私は網戸の交換に失敗し、私室をガラス戸で閉め切ってしまうという愚を犯してしまった。二階が住居なんだけど午前中は窓を締めないとね、わくわく昆虫ランドになってしまうのだよ。いやはや大自然の中ではないけれども生命の神秘ってヤツは侮れない。そして部屋に備え付けられたクーラーの故障、私と佐渡君は死に瀕していたわけだ。
一階の店のクーラーは無事だったから良かったんだけど電気代が洒落にならない事になる。私と佐渡君は近くのディスカウントショップで中古の扇風機を買ってどうにか命を繋いでいた。大家さんによれば家電量販店から修理が来るのは一週間後だという話だった。
ははは…楽に死ねる期間だったね。
そこで私は前回の痛ましい事件を忘れぬよう資料を編集していたんだ。喫茶店に人は来ないし、来たとしても佐渡君のお友達が避暑地代わりに使う程度だったからね。私は収入として期待できそうにない喫茶店のマスターと探偵業を兼任しながら地獄の猛暑をやり過ごしていた。
氷を食べすぎてお腹を痛くしたのも今となっては良い思い出だ。前の事件”ミノタウロスの供物事件”の報告書が完成した頃、私の店”喫茶トリックスタア”に依頼人が訪れる。
その依頼人とは私の叔母さん、もう一人は同世代のご婦人だった。私は若い頃から叔母に何かとお世話になっているので無料で相談を受ける事になった。それでも叔母さんはお小遣い程度のお金を私と佐渡君に渡してくれた。うん、やっぱりいい人だな。
「トオルちゃん。お忙しいところごめんなさいね。こちらの城田さんが大変な事に巻き込まれてしまってね。
この人、叔母さんの学生時代のお友達なんだけど」
叔母に促されて城田さんも頭を下げてきた。年長者の、それもご婦人に頭を下げさせたままにするなど紳士の矜持が許すはずもなく私はアイスコーヒーをご馳走することにした。…佐渡君には睨まれたけど。
叔母の友人である城田さんのお話によれば”音信不通となった息子ハルアキを探して欲しい”との事だった。この猛暑に人探しは辛いので私は見送らせてもらおうかと思っていたが、依頼人と叔母と奥の席で涼んでいた大家さんから無言の圧力をかけられて渋々と受諾する。
よく考えてみると自分の母親くらいの人間の切実な願いを無下にするのは名探偵の為すべき事ではない。
かくして私は城田さんから拝借した城田ハルアキさんの写真と略歴が書かれたメモ用紙を手に探偵業に勤しんだ。
城田ハルアキの人物像を述べるわけだが、正直関わり合いになりたくない種類の人間だった。学生時代から素行不良で警察に補導された回数も少なくないというか多い。さらに傷害と詐欺と窃盗での逮捕歴も有り。地元の大学を卒業しているが卒業後も問題を起こしては親族に迷惑をかけていたらしい。
放蕩息子のせいで城田さんと旦那さんは親戚から一方的に縁を切られてしまった。そんな人間でも連絡が取れなくなったら不安になるのが人の親という生き物だ。
私は城田ハルアキの足跡を追う為に近所の運送会社を回った。彼は大型トラックの免許を持っていたので日雇いのような形で運送会社と土木建設会社で働いていた事もあった。こんな歯切れの悪い物言いをするのも城田ハルアキは行く先々でトラブルの種となり、最終的には会社を追い出される形で解雇されていたのである。両親は城田が世話になった会社から器物破損と窃盗の賠償金を請求され今も貧困に喘いでいる。
私は城田の経歴を思い出す度にうんざりとした気持ちになってしまう。だが名探偵が仕事に私情を挟むわけにも行かず、私は城田の行方を追った。それこそ命を削るような猛暑の中で。
ところが城田ハルアキの情報は安川運送という小さな会社を退社させられてプッツリと途絶えてしまう。気になった私は安川運送の社長と社員に城田の事を聞いたが露骨に嫌な顔をされるのが関の山だった。結局、私は社員たちから城田ハルアキの無法者ぶりを聞かされて身も心もボロボロの状態で追い返されたわけだが収穫ゼロというわけではなかった。
城田ハルアキが安川運送に顔を出せなくなった原因となる事件についての情報を聞き出すことが出来たのである。私はすぐに(警察の)知り合いに頼んで事件を(非公式に)調査に乗り出した。その事件とは城田が安川運送と懇意の関係にあった会社に盗みに入ったというものである。
会社の名前は大沢不動産。近年の不興のせいで倒産してしまった会社だが、大沢不動産はお歳暮などを届ける際には常に安川運送を使っていた。城田は大沢不動産に向った時、社内には大沢本人しかいないを確認してから夜間に盗みに入ったと資料に記載されていた。”その勤勉さは別な方向に生かせば良いものを…”と私は呟く。
城田は無人だと思っていた大沢の会社に入って金目の物を漁り、逃走を試みる。しかし大沢は城田の存在に気がついてビルの警備を請け負っていた業者に警察への連絡と犯人の拘束を依頼していた。警察に連絡したのは甲斐田ビル管理の井出という社員。私は念の為に彼の名前を覚える。そして次の城田を取り押さえた警備会社の社長の名前を見た時に、大沢に同情を禁じ得ない。なぜならばその社長の名前は関東では名の知れた”桜田門の虎”、甲斐田タカトラ氏だった。私は資料の中から懐かしい名前を見つけては苦笑しながらページをめくる。
だが、その先に特に目を引く情報を見つけてしまった。大沢不動産の社長が、城田を告発するといって譲らなかったらしい。その原因とは城田が大沢社長秘蔵の宝を持ち去る際に壊してしまった事だった。
激昂した大沢氏は所轄署内に包丁を持ち込んでいて城田は指と腹を切られて全治二週間の重傷を負う事になる。本来ならば別の傷害事件として大沢社長が逮捕される話だったが警察署内で発生した事件であった為に特別な処分が下された。
城田の窃盗は厳重注意、大沢も事件を口外しないという約束をさせられた後に釈放された。城田は会社を何日か休むと電話を寄越した後に蒸発。大沢社長は会社が入っているビルと解約した後に行方不明となってしまった。
私は城田ハルアキだけではなく大沢ツグオの行方も気になっていたので二人のそれからの行動について調べた。城田は会社の近くにあるビジネスホテルに宿泊していて事件の一週間前後はホテル近辺のパチンコ店に顔を出していた。彼の知人と思われる男性が失踪する前の城田が”近々まとまった金が入る”と自慢していたという話をしてくれた。
一方、大沢が会社を畳んだ後の動向を掴む事は出来なかった。彼は親しい友人はおらず家族とも絶縁に近い状態にあった。親から引き継いだ会社もワンマン経営が原因で潰してしまい、社員たちからも強引な性格が災いして逃げられる始末だったらしい。唯一救いがあるとすれば持ち家に残してきた家族が自分の借金で苦しむ事がないように手を尽くしたという事だろうか。
私はその話を大沢の長男から聞かされた。最後に大沢の長男は大沢家の他の家族に大沢ツグオの話をしないように念を押してきた。私は大沢ツグオの長男に何度も頭を下げて帰途につく。
結局、城田はおろか余計な手間をかけてまで調べた大沢の事は何一つ真実を明かす事なく事件は終わりを迎えてしまった。
もしも救いがあるとすれば、私が城田に関して何も進展が無かったという話を依頼主の城田ハルアキの母親に伝えようと電話を入れた時に彼女が不在だったという事だろうか。
ある夏の日に事件は全く予想もしない方向から変化の兆しを見せる。言うなれば真実の方から私のところにやって来たのだ。そういえばかなり昔に亡くなった恩師が私にこう言っていた。”もしも事件を解決する事が出来なかった時は、今回は縁が無かった程度に考えなさい”と。今回の事件も偶然に助けられる事からして、どうやら私は名探偵の器では無かったらしい。さて今回もボロが出ないよう気をつけながら一世一代のマジックショウを始めなければならない。
それでは皆様、ラジオ男の終幕にご期待ください。
二人の男が部屋の中に入った。そこは少し前に城田という男が消えた部屋だ。
最初に井出という男が口を開いた。その手にはカセットテープが握られている。昔はこれで音声という音声を記録していた、と言っても誰にも信じてもらえないかもしれない。
「これが大沢さんから預かったテエプですよ、中西社長」
井出という男は常に周囲を警戒しながら中西に言伝する。無理もない。井出はここで城田という男が死んでしまったと信じて疑わないのだから。だが中西は城田の事件に対しては楽観的な感想しか持っていなかったので嬉々として返すばかりである。
「はは、君も心配症だな。井出君、そんな事では私のような大人物にはなれないよ。男ならドンと構えなさいよ」
中西はあっけらかんとして井出からカセットテープを受け取った。そして端を摘まんで上下にカランカランと振って見せた。
「ほら、何もありはしない。こんなテエプが一体なんだっていうんだい?中身だってきっと大した話は吹き込まれていないさ。それより今日は私と一緒に飲みに行こうじゃないのさ」
中西はカセットテープのケースをラジカセの前に無造作に置いた。
「後はまあ、探偵さんにコイツを任せておけば事件だって解決するだろ?」
「大丈夫かな」
こうして中西社長と井出は部屋から出て行く。部屋に残ったのは古いラジカセとカセットテープが一つ。このまま夜が明ければ隣町の探偵がやってきてテープに録音されている恐るべき事実を突き止め事件が解決するはずだった。
それから小一時間もすると部屋の扉が開く。突然の侵入者はラジカセとテープを見つけるとまず最初にラジカセの電源が入っている事を確認するとスイッチを入れる。
前回は失敗だったのだ。ラジカセの状態を確認せずに電源を入れてしまった為に作業の途中で機械が火を噴いてしまったのである。知らぬ事とはいえ専用の機械を壊してしまったのは手痛い失敗だった。さらにそれが原因で仲間の一人が逆上して殺さなければならなくなった。
「だから脳筋とは組みたくなかったんだ」
影は故人を貶すような台詞を吐くとボタンを押した。ザザザザ…。例のノイズが流れる。この雑音は大沢の持っていたラジカセが故障していたという事実を物語る。
いつか大沢はあのラジカセは自分の人生において自由の象徴だと言っていた。
「どちらにせよテエプの中身を確認すれば用は無え」
影は黙して大沢の登場をじっと待つ。やがて雑音の中に大沢らしき男の声が聞こえてきた。
(ああ、間違いない。あの忌まわしい大沢ツグオの声だ)
影はあれほど不快だった大沢の登場にどこか安心感を覚える。彼はテエプの中身を確認した後は処分してここを去るつもりだった。今の立場に未練が無いわけではない。そう考えているうちにテエプの中の大沢の告白が始まる。
「私、大沢ツグオはとんでもない過ちをしでかしてしまいました…。どうか罪の告白を聞いてくださった方は迷わずこのテープを持って警察に行ってください。私にはもう耐えられない。成り行きとはいえあのような恐ろしい連中の手伝いをして数多くの人々の××を…」
テエプの中の大沢の声は恐怖で震えていた。影は苛立つあまり床に唾を吐く。
(何を今さら。報酬はくれてやったはずだ)
影は頭を無造作にひっかくとテエプを止める。紛れもなく消失したはずの大沢のテエプだった。
数十分後、影は最後までテエプの内容を聞かずにボタンを押してカセットテープを取り出す。そしてプラグを引き抜いて電源を落とした。
部屋を出る際に照明を切って退出する。
カツカツカツ…。
影はいつも通りフロアの巡廻をすませると最後に自分の勤め先に戻る。そしてマスターキーを社長室に戻すと仕上げに例の場所に移動した。
文字通り、これが決め手となった。
影はビルの裏手に移動してダストシュートの行き着く先に到着する。金網に覆われたゴミ捨て場の扉をスペアキーで開けた。時間にして一週間以上が経過していた。多少の悪臭は覚悟していたが、意外にも普段の臭いとそれほど変わりは無い。要点だけ言えば臭くはなかった。
そして携帯電話のライトを頼りに例のビニール袋を探す。井出アキラが気を利かせてダストシュートに投げ込んだゴミ袋だった。
影はしゃがみ込んでゴミ袋の結び目を解く。ゴミ袋の中身は…不要になった書類が入っていた。影は慌ててゴミ袋の中身を漁ったが目当ての物が見つかる事は無かった。
「お探し物は見つかりましたか?…田中さん」
影はすぐに後ろを振り向いた。白いシャツに襟を弄りながらこちらを見ている。昼間に会社を尋ねてきた怪しい男だった。名前は確か…。
「奇術師にして名探偵、三重野トオルと申します。またお会いしましたね、田中ミノルさん…」
男は端正な口元を皮肉っぽく歪めた。
「信じたくはねえが、お前が主犯だったんだな。田中さんよ」
相手は一人では無かった。中西ビルに警備員を出向させている元警察官の警備会社の社長、甲斐田タカトラもいた。失念していた。いざという時は中西を使って甲斐田の行動を封じる事を考えていたので最初から出て来ないと読んでいたのである。
「あの、三重野さんに甲斐田社長。どういう用件か、お話が見えないのですが…」
「野郎…」
甲斐田が袖をまくって前に出て生きそうなので三重野は先んじてタネ明かしをする事にした。
「それほど難しい話ではありませんよ。貴男がお探しの上岸ダイゴ君の持っていたスマートフォンの記録媒体は私が既に警察署に提出しました」
田中はゴミ捨て場を覆う金網を殴りつけた。女性と見紛うばかりの美貌が憤怒に形相に変わる。
「あのガキ…善人ぶりやがって殺して正解だったぜ。自分の弟が小遣い稼ぎに何をやっていたかも知らなかったくせによ」
田中は歯を深く噛み締める。ダイゴの弟、上岸ケイジは最初から田中のグループに出入りをしていたチンピラの一人だった。軽薄を絵に描いたような性格で自己顕示欲を満たす為に、よりによって組織の犯罪行為を有料動画としてネットに流して副収入を得るようになっていたのだ。
田中と城田は手下を使って上岸と仲間たちを殺した後に残忍な方法で処分した。
今考えてみると、そこから組織の結束は破綻する一方だった。
ダイゴはケイジと違って真人間でありビル内を調査した後に弟の死に気がついた様子だった。田中はダイゴを放置しておくように城田に指示したが、粗暴な城田はダイゴの説得に失敗したばかりか彼を殺害してしまう。
さらに城田はダイゴの携帯を破壊してメモリーカードを抜き出した。田中は城田を家に帰した後、ダイゴの死体を別の仕事仲間に渡して処分させた。
その時に田中は城田を、いや城田ハルアキを名乗る男も殺害するつもりだった。
「小遣い稼ぎとはまた詭弁を弄される。殺人と死体損壊、死体隠匿は重度の犯罪ですよ、田中さん…」
三重野の顔つきがやや厳しい物に変わる。三重野は城田ハルアキと名乗る人物の死を確信した時から、今回の犯罪の背景にはプロの犯罪者集団が関わっていることを考えていた。
「この世には他人から必要とされる人間とそうではない人間が存在する。探偵さん、俺たちは必要ない人間を効率良く処分する事で他人から必要とされる側になる事さ」
田中は悪びれた様子も無く語った。
「物は言い様ですね。最初から説明させてもらえば、まず本物の城田さんが大沢社長の社屋に空き巣に入った時に貴方たちの正体を知ってしまった。おそらく彼はあなた方を脅迫しようとして逆に殺されてしまった、違いますか?」
「…さてどうだったかな?劉…いや城田に適当な戸籍が無かったから都合が良いとは思っていたよ。俺の田中ミノルって名前だって元は他人の名前だし。ああ、それと性別が女ってのは面接の時に中西社長が勝手に勘違いしただけだからな…」
当時を思い出してか田中ミノルは含み笑いをもらす。
彼はまだ名乗ってもいないのに中西によって女性秘書にされてしまったのだ。
「だが大沢社長は見逃がしてあげるべきだったでしょうに…。彼はあなた方を警察に売るつもりは無かった。どうして殺してしまったんですか‼」
「カセットテープを寄越さなかったからだよ。しかもあんな古臭いラジカセに録音しやがって…」
そこで田中の顔から表情が消えてしまった。ビルの正面側から警察の車が次々と到着していることに気がついたのだ。
「畜生め。大した探偵さんだよ。井出と中西社長の嘘会話に始まって、最後の推理ショー…全部俺をビルに引き止める為のトリックだったんだな?」
そして地面に座り込んでしまう。程無くしてゴミ捨て場の金網の前に警察官たちが到着した。
甲斐田と三重野は警察官たちと入れ替わりになってビルの入り口に戻る。そこでは憔悴しきった表情の井出と中西が立っていた。
「犯人は田中さんだったんだ…」
井出は肩を落として項垂れる。苦手な人種だったが、殺人を犯すようには見えなかったのだ。
「悪いのは井出さんでも中西社長でもありませんよ。結局は自ら進んで犯罪に関わる人間が悪いんですから」
「しかし、この辺の私有地に片っ端から死体を埋めるなんてねえ。タタリとか恐くないのかなあ」
中西社長は手錠をかけられた田中がパトカーに入って行くところを見ながら言った。何も無い様子を装っていたが精神的なダメージは受けているだろう。
「殺人という物は、そもそもが呪いや祟りのような物ですからね。どれほど罪深い行為かを知っていればタタリ同様に関わろうとは思いませんよ」
三重野は中西と井出の様子を気にしながら笑ってみせる。どんな感動的な奇術も観客がいなければ成立しないのだ。中西と井出は互いを慰めるように声をかけながら歩いている。この後、ビルの関係者として二人も三重野同様に警察に行かなければならない。
三重野はポケットから帽子を取り出して甲斐田を見る。
「ところで三重野、お前の手品もサマになってきたじゃねえか。さっきのテープの中身、迫真の演技だったぜ?」
「はて一体何の事でしょうか」
「とぼけるなよ。アレは腹話術ってヤツだろ?一体どこで大沢社長の声真似なんて覚えたんだか知らねえけどよ」
「え…⁉」
三重野は立ち止まり頭を帽子を落とす。
彼がやった事はあくまで空のカセットテープとラジカセを用意した事であってカセットテープの録音内容には一切手を加えていないのだ。実際に大沢社長のエルカセットは見つからなかったし、それを再生する機械も見つからなかったのだから。
「おい、待て。三重野、じゃあ一体会議室にあったラジカセは誰がよ用意したんだよ‼」
三重野は無言で甲斐田を指さした。しかし甲斐田は首を豪快に振る。そして少なくとも中西と井出はこの話に関してはノータッチだったのだ。
「じゃあ一体誰が…」
三重野と甲斐田は黙り込んでしまった…。
誰もいなくなった部屋で大沢ツグオは自分のラジオカセットを手に取った。彼の父親は厳しく、彼が友人を作る事さえ許さなかったのだ。死んだ身になっても彼にとってはラジオカセットだけは友人だったのだ。彼はラジオカセットを片手に会議室を去る。
この夏の最後の夜を境にラジオ男はこの世を去ったのだ。