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生まれてすぐ捨てられた王子の僕ですが、水神様に拾われたので結果的に幸せです。  作者: 日之影ソラ


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24.神の鉄槌

 黒い刀身に赤い血が流れる。

 僕の両脚は未だ地面から離れない。

 咄嗟に身を捻り、ギリギリで回避したことで刃は脇腹を掠める。


「っつ」

「よく躱しましたね」


 シャドウが僕に手を伸ばす。

 触れられそうになった直前に術式を発動。

 僕を中心に水の柱を生成する。

 足が地面から離れないなら、水の力で無理やり動かせばいい。

 僕は水圧に押されて空に跳びあがり、湖に着地した。

 互いの位置を入れ替えた状態で、再び目を合わせる。


「影の中に潜るなんてふざけた技だね」

「ええ、我ながらそう思いますよ。ただ……影潜りを初見で躱したのは貴方が初めてだ。影踏みで動きを止めていたんですがね」


 影踏み……足が動かなくなった技のことか。

 名前からして、相手に影を踏まれると自分の足が影から離れられなくなるみたいな。

 おそらくそういう技だ。

 僕は斬られた脇腹を手で押さえ、療水で治療する。


「躱せてないよ」

「腹部を貫通させるつもりでしたので。その程度は当たったとは言いませんよ」

「言うじゃないですか。なら次はかすませもしませんよ」

「それは不可能のでしょう。一度や二度見た程度では、私の術式からは逃れられない」


 シャドウは再び影の中に潜る。

 また同じように背後に現れるのか。

 依然として大きな雲に覆われ、地面には影が広がっている。

 どこにも出てくることは可能だろう。

 ならば今度は、出て来たタイミングに合わせてカウンターで攻撃するだけだ。

 

 そして彼は姿を見せる。

 僕の考えをあざ笑うかのように、一人ではなく複数人の彼が影の中から飛び出した。


「なっ」

「影真似です。見破れますか?」


 数は二十一。

 うち一つを除き、他全ては幻影。

 だがまやかしでも影を媒体にしている以上、全てに実体がある。

 シャドウが剣を振りかざし、一斉に襲い掛かってくる。


 しかし僕は動じない。


「見破るまでもないよ」


 両手を組んで術式を発動。

 空から天気雨が降り注ぎ、迫る影の幻を貫いていく。


「水天は常時発動中なんだ。全部貫けば関係ない」


 後は本体だけが残る。

 そこを一気に攻撃して畳みかけるつもりだった。

 

 どこだ?


 幻影の半数は消え、残り半数も消える寸前。

 しかし彼の本体は現れない。

 まさか全てが幻影かと気づき、注意を地面の影に向けた。

 目に見えている全てが幻影なら、本体は影の中に潜んでいて、僕の隙を狙っていると。


「正解です。ただし惜しい」


 彼の言葉通り、僕の考えは正しかった。

 しかし見ていた場所が違う。

 声が聞こえた影は地面ではなく、降り注ぐ降槍の一本から聞こえた。

 降槍に出来ていた小さな影から、彼の本体が飛び出し剣を振るう。

 咄嗟に後ろに跳び避けて、刃は鼻と目の間を掠める。


「そんな小さな影から出られるのか」

「ええ。私の影の中に広さの概念はありませんので。しかしこれも躱しますか」


 躱しきれてはいない。

 腹の立つことに、彼の攻撃に翻弄されている。

 術式の格は同等、魔力量にも差はない。

 差が出ているとすれば純粋に練度の差だ。

 だからこそ悔しい。


「水刃!」


 距離をとった僕は水の刃でシャドウを攻撃する。

 シャドウは影縫いを発動して、容易く水の刃を弾いた。


「無駄な攻撃ですね。それとも試験の時と同じ流れを狙っているのですか?」

「……」

「気づいていますよ。この水は他者にとって有害、浴び続ければ効果を発揮する。しかし神の器である私には通じない。どれだけ浴びようと、私を乱すことなどできないのです!」


 彼は再び影に潜る。

 続けて現れたのは先ほどの倍の幻影。

 次はどこが正解なのか。

 どこから攻撃をしてくるのか。

 情報が増えたことで思考が鈍る。


「考えても無駄ですよ! すでに貴方は私の術中だ!」

「――いや」


 今回はそうでもない。

 本体が幻影の一体に隠れていることに、僕は早々に気付いた。

 水天から降槍を降らし、幻影を消していく。

 その最中に降り注ぐ降槍の一本を掴み、本体へと投擲した。


「なっ……」

「外したか」


 降槍は彼の頬を掠めていった。

 驚愕するシャドウは僕に問いかける。


「なぜ……わかったのですか?」

「貴方がさっき自分で言っていた僕の水の効果ですよ」

「な、に……」

「僕の水は他者にとって有害です。浸潤の効果で魔力の流れを乱し、術式発動や効果発揮を阻害する。ただし相手の魔力量、魔力操作の練度によっては、効果の発揮までに時間がかかるんです」


 試験で戦った彼ら程度なら数秒から十数秒で効果を発揮する。

 しかしシャドウの場合は、動揺の効果を発揮するまでには、その何倍も時間と量が必要だった。

 

「それでも効果は出ているんです。ゆっくりと、本人にも気づかないレベルで」

「ま、まさか」

「そう。貴方の動きは気づかない範囲で遅れていた。術式効果と貴方の動きは、ごくわずかにずれていたんです」


 美しい連携をする数人の中に、ズレている一人がいれば目立つだろう。

 だから彼は目立っていた。

 幻影の中で、自分が本体だと教えるように。


「ついでに言うと、足元にも気を付けた方がいいですよ」

「足元……っ!」


 彼の両脚には水の手が絡みついている。

 動きを封じられるのは彼だけだけではない。


「くそっ」


 振り解こうとする彼に僕は言う。


「そういえばさっき、貴方は言っていましたね? 神の器である自分には、水の効果は通じないと……それが通じたということは、貴方も人だということです」


 水霊濡法――


「今度こそ、神の鉄槌だ」


 剛拳を発動。

 巨大な水の拳が、動けない彼を吹き飛ばす。

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