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ライアンラヴァー  作者: TUBOT
闇の深い仕事
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ステナの仕事

「屯所に文句を言いに行こうか」

 何があっても、あの少年の態度はいただけないはずだ。クリーヴァーの屯所に文句を言えばクリーヴァーの経歴にキズが付く。いい嫌がらせになる。

 私は屯所の方に向かっていった。

 屯所はクリーヴァーの仕事の管理をしているところだ。仕事をしても、ミスをしても、まずここに話が行く。成績により仕事の依頼や報酬にかなりの違いが出てくる。

 窓口に行くと事務のおばちゃんが受付をしていた。気の弱そうな人である。強気に出ていっても問題ないだろう。

「ちょっと、クリーヴァーの苦情の受け付けはここ?」

 背筋を正すおばちゃん。

「暴漢から助けてもらったのはいいんだけどね。ちょっとお礼を言おうとしたらいきなり私をクズとか言い出したのよ。あの十五歳くらいの子供だったけど」

「は、はい。詳しく時間と場所をおっしゃってください」

 それから事務手続きらしきものをした。どこであった事かとか、詳細はどうかとかを詳しく聞かれ、それに全部答えていく。

 ここまで詳しく言えば逃げられまい。あのクリーヴァーも少しは懲りる事だろう。

「こんなんじゃ、他のクリーヴァーも信用できなくなるわよ」

「該当のクリーヴァーには指導をいたします」

「指導? 何を甘い事言っているの! あんな奴クビよ! クビ!」

 これくらい言ってもいいだろう。あれはクリーヴァーにあるまじき発言だったのだから。


 クリーヴァーとは民間から集められた自警市民の事だ。

 ユーフォーは限られた人間にしか扱うことはできない。

 頭のインカムを使って脳波を使って操作をするのだが、インカムを動かすには特殊な脳波が必要であり、十人に一人しか扱う事ができないと言われている。

 その十人に一人とは『幸せな人間』であるというのが一番有力な説だ。

 幸福を感じている人間から発せられる特殊な脳波のみが、インカムを操ることができるのではないかと言われている。

「あのガキが幸せとかね。言いたいこと言いまくってりゃ幸せでしょうけど」

 世の中不公平なことばかりであると感じる話だ。

 私の仕事は一応探偵というものである。キナ臭い仕事ばかりを請け負う専門の人間だ。

 仕事がやってくるのはいつもの酒場だ。依頼人も私に顔を見られたくないらしく、口の堅い酒場の店主に話をまずもっていく。

「ステナ。仕事があるぞ」

 店に入ると店主はにこやかに笑った。私に優しくしてくれる数少ない人間だ。

「有名ホステスの浮気を調べてくれって」

「浮気も何もないでしょ」

 こういう仕事ばかりだ。ホステスの仕事に浮気も何もあったものではない。何人ものお客をかかえていて当然。この街はそういう事もわかっていないアホな男ばかりである。

「大仕事になるわね」

 探れば探るほど男がネズミ算式に増えていくのは想像に難しくない。

「お前もこんな仕事から早く足を洗うべきだぞ。こんな事ばかりやっていると恨みばかり買っていくだろう?」

「辞めてどうするのよ。私にはこの方法しかないの」

 店主はいままでも何度も私にそう言った。この仕事は恨みを買う仕事で、いきなり人が消える事なんて珍しいことじゃないのは知っている。

 私のような十代中盤の非力な子供であれば危険であるのは当然だ。

「普通だったらとうの昔に潮時なんだぜ」

「そんな事分かっているわよ」

 店主には感謝しているが、いじめに近い言葉だ。この酒場で働くようにも言われたが、嫌われ者の私が接客なんてこの店の邪魔になるだけだろう。

「そんなの言い訳だろう? みんないつか足を洗わないといけないときが来るんだ」

「仕事にいってきます」

 店主の言葉はもう聞きたくない。ホステスを追って男と会う所を撮ってくればいいだけだ。楽な仕事である。


 私は問題のホステスが働いている店の向かいの建物に潜伏した。

 問題のホステスは店の前にまでやってきて客を見送るという。つまり、入口の前に張ってお客と一緒に出てくるところを撮ればいいのだ。

 早速ホステスが客の男と一緒にでてきた。

 カメラをスタンバイさせる。パソコンにカメラからの映像が映る。腕時計からホログラムを浮かびあがらせるのは今となっては当然の機能であるが、そうすると目立つので片メガネ型のディスプレイを使って送られてくる映像を見た。

 耳に固定するタイプのパソコンのスイッチを押してカメラの映像をメモリーに納める。

 カメラも虫と変わらない形をして操作によって動くものがある。

 高いものは本物のハエと変わらない姿で、自動で前足をこするし、水に沈めても壊れない。

 壊れないのはそれで問題になることもある。

 ただのハエが水に入れられたら、当然死ぬのでカメラであるとバレバレになってしまう。

 そんな高いものは買えない私だが、それでもちょっと大きいかなって思うくらいのムカデ型だ。ムカデなんて普通気にしないし、拾って確かめようとする人間なんて皆無だ。

 店の壁にへばりついて、ホステスが客を見送って客にハグをする映像や、キスをする映像なんかを送ってくる。

 金もってそうなおじさまはキスで、明らかにあなたに会うために金をかき集めてきましたって感じの若い男はハグと、ホステスもなかなか計算高くてエグいものだ。

「そこまでするから稼げるのよね。年収聞いてみたいわ」

 さぞかし稼いでいる事だろう。

 こういう稼いでいる奴だし少しくらい仕事が少なくなっても文句はないだろうから、構う事ない。

 ぱしゃぱしゃと写真に納め、どんどんと証拠を重ねていく。

 これで終わりではない。これを突きつけて、ただの客と言われてしまえばそれまでだ。それ以上の仲になっている客がいる事も確認してから、この仕事は終わりになる。

「店が終わるまでちょっと寝るか」

 自動で映像が保存をされるように設定をした後、私は座った姿勢で仮眠をとった。

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