プロローグ
ここは宇宙移民が始まり出来上がった町である。
宇宙の地球以外の惑星には手つかずの資源に未知の動植物があり、それらを家畜化したり栽培したりして、大成功を収める人間が跡を絶たなかった。
未知のエネルギー鉱物が次々発見され、石油王のような大富豪が次々現れる。
この街も、新種の鉱物が発見されたという噂が立って人が集まって生まれた。
だがそれは、ここに小さな店を建てた男の流したデマだった。
人が集まり十分に稼いだその男は雲隠れして、鉱物の収入を目当てにして家を建ててこの街に居着くことに決めてしまった、嘘に騙されたマヌケ達のみがこの街に残った。
一人の男の嘘から始まって作られたこの街は、今でも嘘つきとそれに騙されるマヌケ達の街である。
周囲の星たちからの評判はその通りだ。
アインステナと言う名の私はこの街に昔から身寄りもなく一人で住んでいる。
「ようねぇちゃん。俺と一緒に来いよ」
こういう誘いを受けるのはこれで十を超える。
「この街で女一人で生きていくのは難しいだろ? 人は寄り添い合わないと生きていけねぇんだ」
とまあ、甘いささやきのようにも聞こえる嘘まみれの言葉を聞くのも、これで十なんて軽く超える。
だがこの嘘に『そんな言葉嘘に決まっているでしょう』と返すのは厳禁だ。
少なくとも今の彼は本気でそう思っているのだ。
しかし受けたところで、なんだかんだで一緒になっても少ししたら冷めてきて、自分の事を邪魔者扱いし始めるのが常である。
こういう男は善意で話を持ち掛けているつもりなのがタチが悪いのだ
そう考えているところに、ふとユーフォーが周囲に現れた。
「なんだテメェ! 今いいとこなのに!」
どこがいいところなのだというのか?
勝手な事を言う男の動向を見守る。ユーフォーが来たからにはもう安心していい。
ユーフォーとは昔地球で見かけられた未確認飛行物体が語源の機械だ。
握りこぶし大くらいのサイズの下部にある、空気の噴射口の力によって、空中に浮かぶことができる。
重力を弱める電磁波が発見され、その力を使う事によって、小さな噴射口からの空気のみで、自由に空中を飛び回る事ができるようになった。
これは警備ユーフォー。クリーヴァー達の使う治安維持用の個体だ。
「警告。速やかに女性を解放しなさい」
マイクから声が聞こえる。この声は機械の音声ではなく。クリーヴァー本人の声を無線で届けている。
「待て待て。ちょっと口説いていただけだろう? これで強要とか言われたら……」
「警告に従わず。実力行使に移る。どう見てもちょっと口説いていたなんてもんじゃない。結婚の強要までしていただろ」
ユーフォーからペイント弾が放たれる。それから、ユーフォーから放たれたカプセルが手錠の形になって男の両手を拘束した。
カプセルほどの大きさのものから大きな手錠が出てくるなんて、昔から不思議に思っていた。
気泡性カーボンといい、発泡スチロールのほうに中身がスカスカの物質だ。
これは、空気を抜くと縮み、空気に触れると元に戻る性質がある。
ピコチップというマイクロチップよりもさらに小さい人工知能で、正確に犯人の両腕を捕まえて拘束する。
そして、元に戻ったときの強度もチタンと同じという、非の打ちどころのない物質だ。
「警官の到着を待て」
そう言ってからスプレーを吹きかける。
このスプレーは人体には無害な放射線を放ち、それが犯罪を犯した者の目印になる。
その目印によって警官はいつでも位置をつかむことができ、スプレーを噴射されては、逃げのびることは不可能だ。
「まったく。この星にはロクな男がいないわね」
呆然とした男を後にした私はとりあえず遠くまで逃げる。
いままで一人で生きてきた私だが、ああいう手合いをあしらう方法はいまだにわからない。
遠くにクリーヴァーのインカムを付けた少年がいた。十五歳の私と同い年くらいだろうかと思われる。
その子は妹と思われる女の子と一緒になって歩いているところだった。やたら仲がよさそうで、妹は兄にベッタリだ。
「お兄様。お仕事お見事です」
妹の方がそう言っているのが聞こえた。
自分の事をお兄様とか呼ばせてんのか。最悪な男だ。だが、お礼くらい言っておくか。
「あのー。さっきのクリーヴァーさんですよね?」
愛想笑いを浮かべた私はその少年に向けて言う。その少年は不機嫌そうな顔をしていた。
「うちの子に近づかないでくれるか? ステナだろう? あんた」
私の事を知っていたか。お礼なんて言っても無駄だな。この相手の態度でお礼を言う気も失せたし。
私は無言で振り返り、まっすぐ歩いて行く。
「あの人になんて態度を……」
「あいつは有名なクズだ」
クリーヴァーの心無い言葉に私は奥歯を噛んだ。私の事を何も知らない人間がこぞって私を悪く言う。
あの事件がなければ私はこんな事にならなかっただろう。すべてはあの事件でせいだ。
ある事件のせいで、この嘘つきだらけの星で、その筆頭の一人として数えられることになってしまった。
悔しいという気持ちは麻痺して忘れてしまった。
もう怖いだけだ。
人から蔑まれたり、クズと言われるのが怖い。
だから私を知っている人には近づかない。知っていない人には精一杯明るく振舞って、私の本当の姿を見てほしいと思う。
悔しさを忘れ恐怖も麻痺しかけている私は、無言でこの嘘つきたちの街を歩いて行った。




