たまごのような恋9
文化祭の日、クラスメイトの話によると、とても楽しそうに会話をしていたらしい。遠くにいたため、詳しい内容は知らないとのこと。
「なんでこんな気持ちになるのかな」
恋って何?そもそも私たちはそんな関係じゃない。こんな気持ちに押しつぶされそうになるなんて。嫌になってくる。
天井を眺めることが多くなった。こんなことをしても何にもならないのに。
「幽霊でもいるのか?」
「きゃあ!」
「俺を見て悲鳴を上げるとは失礼な」
「ごめん」
「どうした?」
「ど、どうもしないよ」
慌てて目をそらす。支樹のせいでこんな状態になっているのだから。
いっそのこと、問いただそうかな。どうしよう・・・・・・。
「何か言いたげだな」
「支樹、文化祭の日に初美と何の話をしていたの?」
「誰かが教えたのか」
支樹は一瞬笑ったが、すぐに口元を引き締めた。
「俺達はまだ恋人じゃないだろ?兄妹みたいな関係をあとどのくらい続ける?」
「急に何を・・・・・・」
「俺が琴音を好きなのはわかっているだろう?返事をもらってもいいよな」
「そ、それは・・・・・・」
「前に嫌いって言っていたけど、俺が欲しいのはそんな言葉なんかじゃない」
「恋が何かもわからないのに・・・・・・」
「少し過去に遡ってみようか」
「過去?」
「そう。前に姉貴といたときも今と同じ顔をしていた。しょんぼりとしてな」
話を遮る気はないので、黙ったままでいた。
「しばらくここに来なかったときもあったよな。誠一がメールでお前がいつもより元気がないということを何度か送ってきた。二人きりで出掛けるし、抱きしめたりキスしたりしても、本気で嫌がらなかった。ここまで言ったら、わかると思うよ」
「わ、私は・・・・・・」
「俺は一人の女の子として好きだよ。本音をぶつけるとしたら、もっと頻繁に会いたい。ここに来るのも楽しいけど、二人だけでもっといろいろなところへ行きたい。ほかにもやりたいことがあるしな」
「支樹」
「難しく考える必要なんてない。要はこれからも俺と一緒にいたいのかどうかってこと」
深呼吸して支樹をまっすぐ見た。
「一緒にいたい」
ようやく支樹の強張った顔が緩み始めた。
「俺の恋人になって。琴音」
照れて下を向きかけたが、なんとか我慢した。
「はい」
「やっとだ」
「どれくらい待っていたの?」
「長い間」
「私のどこを好きになったの?」
「教えない」
「なんで?」
「本当に長い間待たされたから。何年も」
驚いた。支樹がそんな前から私のことを想ってくれていたなんて。
支樹の手の上に自分の手を重ねると、驚いていたが、すぐに嬉しそうに微笑み、肩に頭をのせてきた。
「あ、まだお前の不安を一つとっていなかったな。いつも一緒にいる友達のこと」
動揺して、手を少し震わせると、大丈夫と指先で撫でて、ゆっくりと話し始めた。
「初美ちゃん、話をしよう」
「琴音の何を知りたいのですか?」
「学校でどんなことをしている?」
「えっと、そうですね。一緒に小説を読んだり、お菓子を分け合ったり、あと支樹さんの話をよくします」
「俺の?どんな?」
「えっと、いたずらされたって、愚痴を言っていますね。あとはここへ出掛けたとか」
「あいつ、誠一にも同じことを話しているな」
頭が痛くなってきた。
「俺に対する気持ちとかは?」
「仕返しに成功したときはたまにあるからそれが嬉しくてたまらないと」
俺は琴音のことを知ることに夢中になった。考えるのもいいが、何かを実行することも悪くない。
「簡単に言えば、こんな感じだな」
「こそこそと・・・・・・」
「そういうが、お前はあまり学校のことを話さないだろう。俺はただ、知らないことを知りたかっただけ」
「情報はたくさんもらえた?」
「少し警戒されていたけど、向こうも琴音の話題だから楽しくなったのか、いくつか笑える話は聞かせてもらえた」
「それが何かは話してくれないのね」
「そりゃあな。なぜかはわかるだろう?」
「わかるよ、もちろん」
若干不機嫌になっている私と違って、支樹は真逆の表情だった。
「こんなにイライラさせることができるのは支樹だけだよ」
「褒め言葉をありがとう」
「褒めてない!」
「もう心配事はないよな?だったら、そろそろ仲良くしよう」
こうしてせっかく恋人同士になったから。
「仲良くするって、どうすればいいの?」
「目を瞑って」
ドクンと心臓が脈打った。何をするのかな?わかっているけど、どうしよう。
「あれ?嫌なの?だったら、帰ろうかな」
立ち上がって、躊躇いなく帰ろうとする支樹の服の裾を引っ張った。
「服が伸びるからやめろ」
本当に怒らしてしまったみたい。冷たく見下ろす支樹に一瞬恐怖を感じたが、このまま帰ってほしくない。
「嫌じゃない。ちゃんとするから・・・・・・」
お願いだから帰らないで。
支樹がこちらを向いたので、私は目を閉じた。
上から下へ指を滑らすようにし、そのまま挟み込んで頬に手を添え、口付けを交わした。
キスをしたまま、背中に手を回され、距離がさらに縮んだ。
唇が離れたと思ったら、額に軽く押し付けられた。
「何蕩けた顔をしている?そんなによかった?」
素直に肯定してしまいそうになって、グッと押さえたが、それを見逃すほど、支樹は甘くはなかった。
その後もお望み通りにというようにキスをされた。
私はただそれを恍惚とした表情で受け入れることしかできなかった。
その後はゆっくりと息を整えていた。
「何で何でもない顔をしているの?」
こっちはこんなに息が荒くなっているのに。
「降参するか?」
「しない!」
思わず拒否をしたけれど、そのせいで自分の状況を追い込んでしまった。
「質問に答えて」
「琴音みたいに変に息を止めていないから」
「口を塞がれているからどうしようもないもの」
「それは大変だな」
そんなことをほんの少しも思っていないくせに!
「お兄ちゃんに言うから。支樹に無理やりキスされたって」
「ご自由にどうぞ。痛くも痒くもない」
「その余裕が腹立つ」
「なんか甘いものでも食べる?落ち着くよ」
「何もいらない」
「そっか。さっき俺としたから、もうおなかがいっぱいって訳か」
一気に顔が紅潮していく。支樹はおなかを抱えながら笑っていた。
「これから恋人として好きなことをするように琴音もたくさんしていいからな」
俺は何をしてもらおうと考え始め、私はひたすら狼狽するだけだった。
「誠一に邪魔をされないように、これからは琴音が俺の家に遊びに来たらいい」
「い、家に?」
「そう。必要なら、合鍵を作って渡すから」
「あの、いきなりすぎて・・・・・・」
「まだそこまで追いつけない?」
「うん」
恋人になったからといって、支樹の思うように動くことは私にとって、とてもじゃないけど簡単なことではなかった。
「だったら仕方がない」
都合に合わせてもらって、申し訳ない気持ちになった。
「そんな顔をしなくていいから」
「だって・・・・・・」
「ま、気長に待つから」
「はい」
「ふふっ、いつも家に来て料理をご馳走になったりしているのに、逆になると、抵抗するのか」
「だって、お兄ちゃんもいるから」
「そうだな。琴音にとって安心だよな」
「でも、支樹とこうして一緒にいることだって決して嫌じゃないからね」
「キスも平気?」
「うん」
「じゃあして」
はい?なんていいました?
「もう一回言って」
「琴音、キスして」
「パ、パス!」
「トランプじゃないのだから。ほら、早く!」
支樹は目を閉じてしまった。
私はゆっくりと近づいてそっと触れた。ドキドキしてすぐにやめた。
「短すぎる」
そんな不満げに言われても困る・・・・・・。
「今はこれが精一杯!」
ただでさえ、心臓がうるさいのに!
「ま、いいか。今日のところは」
恋って、たまごと似ている。最初は殻で覆われていたものが少しずつ割れてひびが入っていく事によって、新しい姿が見られる。
恋について理解しきったわけではないけれど、少しずつわかっていきたい。
そう強く願うようになった。




