表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/9

たまごのような恋6

 数日後に支樹の風邪は治って、すっかり元気になった。

 今日は用事があって、家に来ない。家には私だけなので、つまらないから外へ出かけることにした。歩きながらどこへ行こうかと考えた。映画館は前に行ったし、本屋もつい最近行った。とりあえず電車に乗って、普段あまり行かないところで降りてみよう。

支樹、今頃何をしているのだろう。この時間なら昼食を食べているだろうな。

 電車から降りて、改札口を出てから少し歩いていくと、いろいろな店があったので、ほっとする。今日は単独行動だけれど、次は誰かと一緒がいいな。今日は平日だからか人がとても少ない。喫茶店でのんびりとお茶をしている人たちがいれば、写真を撮影している人もいる。

 ふと、空を見上げると、猫の形をした雲を発見し、思わず笑った。


「何笑っているの?」


 いきなり声をかけられたので、びっくりした。


「ごめんなさい。驚かせてしまって・・・・・・」


 私の目の前にいる知らない女の子。私より少し年上で、頭の中で容姿端麗という四字熟語が思い浮かんだ。


「ねぇ、聞いている?」

「あ!すみません。雲の形が猫みたいだったから」

「どれ?」

「えっと、あの雲です」


 指差す方向を追って、彼女は納得したように首を縦に振った。


「本当ね」


 そう言って、ふんわりと微笑んだ。

 男子がこれを見たら、見惚れて何も言えなくなるだろうな。あれ。そういえば何でこの人は私にいきなり声をかけてきたのだろう。


「ここから一時間くらいよね。高校まで行く時間」

「はい。そうです・・・・・・」

「その高校の生徒でしょ?」

「はい」

「前に見たことがあるの。そのときは友達とカラオケに行っていたよね」

「そうですね」


 夏休み入る前のことで、この人に見られていた。


「あの、あなたも歌を?」

「違うわ。今日みたいに散歩をしていたの。またこうして会えると思っていなかったから会えてよかった」


 どう言っていいのかわからず、黙り込んでしまった。


「今日は買い物?」

「まぁ、そんなところです」

「気になったのだけど、私も高校生よ」

「そうなのですか?来年から大学へ行かれるのですか?」


 彼女はくすくすと笑い始めた。


「高校一年生よ」


 これには驚かされた。大人っぽくて、落ち着きのある雰囲気だからてっきり自分より年上だと、ばかり思い込んでいた。


「だからね、わざわざ敬語を使う必要はないの」


 彼女はシンプルで可愛らしい腕時計で時間を確認した。もう帰るのかな。そう考えていると、すっとこっちに目を向けた。


「さてと、そろそろ時間だから行くわね。今度はもう少し長く一緒にいようね」

「う、うん。そうだね」


 そういえば、名前を言っていなかった。


「あの、私の名・・・・・・」


 言葉を続けようとしたが、彼女が口を開いてこう言った。


「またね。琴音」

「何で知って・・・・・・」


 もうすでにエレベーターに乗っており、ドアが閉まってしまった。

 どこか掴み所のない人だった。会えると確信しているような言い方だった。

 それから私はまわりにどのようなものがあるのかを知るために、同じところを何度か回ってみた。数時間たってから、家へ帰った。

 夕飯のときに今日の出来事を兄と支樹に話した。


「その女の子、お前の学校の生徒じゃないのか?」

「ううん、違うよ。違うクラスの友達も数人いるし、あんな綺麗な女の子がいたら、誰かがうるさく騒いでいるだろうしね」

「またねっていったから、どこかで会えると確信しているよな」

「かもね。正直、少し気になるしね」


 それから夏休みが終わり、再び学校が始まった。


「いつもこんなに騒がしかったかな」


 普段と少し教室の雰囲気が違っていたことに不思議に思った。


「このクラスに転校生が来るからだよ」


 どうやら独り言が聞こえたらしく、後ろに座っている友達が教えてくれた。


「女の子?男の子?」

「男子があんなにはしゃいでいるから女子だよ」

「そうなんだ」


 会話を続けたかったが、先生と転校生が教室に入ってきた。


「あ!」


 相手が気づいて、手を振ってきた。


「あれ?知り合い?」

「う、うん」


 彼女の名前は桐野初美きりのはつみ。可愛らしい名前だなと思っていたら、彼女がこちらに向かって歩いていて、ニコッと笑った後、後ろの席に着いた。


「良かった。同じクラスになれて。これからよろしく」

「こちらこそよろしく」


 その後すぐに先生は教科書を開くように指示した。ノートに目をやり、出された宿題があっているか、確認をした。

 今日の授業が終わってから、私はみんなの分のノートを職員室までもっていこうとしていたとき、背後から声をかけられた。


「手伝うよ」


 そう言って、ノートを半分、ひょいと持ち上げた。


「桐野さん」

「初美って呼んで。私も琴音って呼ぶから。あぁ、前から呼んでいたよね」


 ニコニコと笑っている顔を見続けていたら、ゆっくりと歩き始めた。私は後を追うようについていった。ノートを持って行った後、教室へ戻って、家に帰ろうとしたら、手を引っ張られた。


「もう帰るの?何か用事があるの?」


 初美だった。彼女はこうして人を驚かすのが好きなのかな。私が驚いて無言のままでいると、彼女が口を開いた。


「良かったら、どこかに行かない?」 


 今日は支樹が家に来る。少し悩んだけれど、一時間までならいいよと伝えた。


「一時間以上になると、どうなるの?」

「えっと、お兄ちゃんの友達が来ているから、夕食の支度をするの」

「料理を作っているの?すごいね」

「そんなことないよ」


 たまに失敗してしまうことだってあるから。


「あのね、学校の近くにいくつか店があるでしょ。買い物に付き合って」

「いいよ。何を買うの?」


 初美は顎に指を添えて、少し考えていた。


「うーん、いろいろね」


 学校を出て、店に向かった。歩きながらお互いのことについて話をした。

 休日に何をしているのかとか、好きなもの、嫌いなもの、恋愛についてなど。


「家によく来るその人のことが好きなの?」

「す、好き?えっと・・・・・・」


 嫌いではないことだけを伝えた。


「さっき、琴音が教えてくれたタイプの人とは離れているけど、気になっていない?」

「なっていない。いつも人をからかって遊ぶから、その仕返しを考えているだけだから」

「仕返しね。今はどんなことを考えているの?」

「内緒だけど、成功したら、教えてあげるね」

「頑張ってね。楽しみにしているから」


 話をやめて、雑貨屋に入っていった。何を買うのかなと見ていたら、小さなスケジュール帳を手にとって、パラパラとページを捲ったあと、レジに行った。


「おまたせ」

「それだけでいいの?」

「うん。じゃあ、次の店に行こう」


 気がついたら手を握られていて、そのまままっすぐに歩いていった。バランスを崩しかけたが、前を向いてついて行った。

 一緒にいた時間が短かったせいか、あっという間に感じた。


「今日の報告は以上だよ」


 家で今日の出来事を話した。あ、大事なことを忘れるところだった。


「支樹」

「ん?どうした?」

「あのさ、どんな女性がタイプ?」

「うーん、琴音の理想のタイプを教えてくれたら、俺も教える」

「私から先?」


 彼は頷いてから、じっと見た。目を閉じて深呼吸してから、彼を見つめ返した。


「私のタイプはいつもからかって遊ばないで、人をペット扱いしなくて、髪を染めていなくて、人のものを勝手に読まなくて、きちんと相手のことを考えて行動する人だよ!」


 早口で話したから、少し呼吸が乱れてしまった。それまで何の反応も示さなかった支樹が頭を下げて、肩を震わせて笑い始めた。


「あはは、あっはっはっはっは!お前、やっぱり面白いな」

「な!」


 驚くことを期待していたのに、それが大きくはずれた。私ががっくりとうなだれていると、支樹は頭を撫でてきた。


「わかった」

「私のタイプを言ったのだから、支樹も教えて」

「俺のタイプは・・・・・・教えてあげない」


 ニヤニヤと笑っているその表情がとても憎たらしく、すぐに怒りをあらわにした。


「こ、この嘘つき!騙すなんて・・・・・・」


 言葉を続けようとしたが、人差し指で口を押さえられた。


「あのな、騙される奴が悪いからな」


 自分の中で何かが壊れていく音がした。いつの間にか指が頬に移動していて、顎をくすぐられていた。すぐに体をよじって、逃げようとしたけれど、支樹は遠慮なく、追いかけてきた。


「いい加減にして!怒るからね!」

「もう怒っているだろう」

「誰かさんが悪いからね」


 支樹から視線を外していると、両手を壁に押し付けられ、動けなくなってしまった。一瞬、何が起こったのかわからず、再び支樹を見た。すると、支樹の顔がゆっくりと近づいている事に気づき、頭の中で混乱している。


「強く握っているから血管が浮き出ているよ」

「そんなこと知らない」

「前にもこういうことをしたけどさ、俺たちまだキスをしていないよね」

「だ、だから?」

「キスしようか」


 じんわりと体温が上がった。どうしよう、何かを言わなくてはいけない。


「前に・・・・・・された」


 だんだん声が小さくなっていった。それがおかしかったのか、少し笑い声が漏れた。


「あのときは頬だっただろう。今度はこっち」


 こんなときはどうすればいいの。


「こういうことはお互いが好きでないとしちゃ駄目なの」

「俺は琴音が好きだよ」


 ドクンと心臓が大きく跳ねた。


「琴音は?俺のこと、好き?」

「き、嫌い・・・・・・」


 目を閉じて必死で声を絞り出した。


「どうして?」

「嫌いなものは・・・・・・」


 続けて言いたかったが、支樹に邪魔をされた。


「そうじゃない。どうして嘘をつくの?」

「支樹だって・・・・・・。どうせいつものからかいでしょ?」

「違う」


 すぐには信用できなかった。からかいがいのある女の子だからなのかとかと思い悩んでしまう。頭を抱えて唸っていると、頭上から溜息が聞こえた。


「なんでそんなに鈍いのかな」


 声を出そうとしたが、先を越された。


「もし、本当に嫌いならいつも俺の分までご飯を作らないよね。一緒に出かけようって言っても断るだろう」

「そ、それは・・・・・・」


 今も抵抗をやめようとしない私を見て、往生際が悪いと言いたげに手に力を込めた。


「琴音」


 名前を呼ばれて目を開くと、支樹が先程より近くなった。キスしているとわかって、目を閉じようとするが、支樹がそれを許さないとばかりにみつめてきた。逃れられない。そう思っていると、ゆっくりと離れていった。


「くくっ、顔真っ赤」


 首を振って否定したが、それも面白そうに目を細めた。


「これからもしような」

「!」


 言い返したいのにできない。このときただ全身の力が抜けてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ