たまごのような恋4
夏休みになった。あらゆる場所でバーゲンなので、大勢の人々で賑やかになっていた。暑い日が続いて、クーラーや扇風機などが活躍するとき。
家で夏休みの宿題をやっていて、あと少しで終わりなので、一気にやりきってしまう。兄と支樹はまだ学校があって、夏休みではないらしいが、大学は高校と違って、夏休みが長いので羨ましい。夏休みは友達と一緒に買い物に行く約束をしている。といっても、きちんと日程を決めたわけではない。
「よし、できた」
ほっと息を吐いていると、横から支樹が宿題を見て、口を出してきた。
「嘘を吐くな。いくつか空欄が残っているぞ」
いつものように支樹が家に遊びに来ている。
「だって、わからないから」
「教えてやろうか?」
「本当?」
「ただでとはいわない」
嫌な予感がするのは私の気のせいであっていてほしい。
「俺とどこかに行かない?」
「遊びに?」
「そう」
突然のことで驚いたけれど、一緒に行くことにした。
よかった。もっと嫌な要求をしてくるのだと思っていた。
この会話の後、私は支樹に宿題をみてもらって、無事に終わった。
改めて日程を決めて駅で待っているのだけれど、どこに行くのかわからない。待ち合わせの時間や場所を決めただけ。時計を見てみると、あと五分で待ち合わせの時間になる。あたりをゆっくりと見回した。
「待ったか?」
背後で声をかけるから、思わずビクッとした。それを見て彼は笑っていた。
「悪趣味だよ。私で遊んでばかり」
「仕方ないだろう。反応が面白いから」
溜息を吐いてから、歩き出した。
「どこに向かっているの?」
「このあたりにあるものが何かわかるか?」
このあたりは飲食店やカラオケ店、靴屋などがある。
「カラオケに行くの?」
「残念」
しばらく歩いていると、ショッピングモールが見えてきた。
「ひょっとして、あそこ?」
「正解」
そういって、ポケットに手を入れ、飴を取り出して、渡した。
礼を言ってから、早速食べてみた。甘さが口の中で一気に広がった。
「支樹、大学って楽しい?」
「楽しいぜ。行きたいか?」
「うん。どういうところに行きたいか、まだわからないけどね」
「お前がもう少し早くうまれていたらよかったな」
「何で?」
「そうしたら、同じ大学生だろ」
「そうだね。学校が違っていても、いろいろと情報交換とかできるしね」
大学ってやっぱり楽しいところだとわかって、少しわくわくした。行きたいところにいけるかどうかわからないが、今から頑張ろうという気持ちが強くなった。
「お前、さっさと飴を食べてしまえよ」
手を口元に当てながら、コクコクと頷いた。飴はかなり小さくなっている。よしっと思って、飲み込んだが、すぐに後悔した。喉が痛くなったからだ。喉を押さえていると、苦笑いされてしまった。
「さてと、どこから行く?」
フロアマップを見ると、上の階がさまざまな飲食店が並んでいるので、その下の階から見ていくことにした。昼ご飯は家で食べていた。
物はたくさんあるが、これといって欲しいものは見つからない。
「琴音はあんまりものを買わないな?」
「必要なものしか買わないからね。最近は本を買ったよ」
「どうだった?」
「純愛な恋愛小説でよかったよ」
「へぇ、どんな話?カップルのどっちかが病気で、死ぬまで仲良くなる話とか?」
ベタな小説の読みすぎと思い、笑いながら否定した。それから簡単にあらすじをいった。
いつかステキな人に出会えたらと思う。ちらりと横目で支樹を見て、彼は違うなと思った。ちょっと意地悪な兄って感じだし。
「お腹空いたな」
時計を見ると、二時過ぎになっていた。
「何を食べたいの?」
「うーん、なんでもいい」
「じゃあ、あそこは?」
指さしたところはクレープ屋。種類が多いので、なににしようかと少し迷った。
決めたので、顔を上げると、彼が気づいて、何にするか聞いてから注文した。
クレープをもらって、どこの席に座ろうかと考えていると、いきなり腕をつかまれてズルズルとひきずられた。椅子を引いて座らされた。
「支樹、いきなり引っ張らないで」
「どこにしようかとオロオロしただけでなく、何度か椅子とかにぶつかりそうになっていたな」
笑いながらそう言ったので、頬を膨らませた。痛いところばかりついてくる。仕方ないじゃない。引っ張られたせいで、前が見えなかったのだから。
「いつまでも怒るなよ、食べようぜ」
そういって、支樹はクレープを食べ始めた。おいしそうに食べている。
目を閉じて息を吐いてから、食べ始めた。生クリームにチョコレートソースがかかっているのがたまらない。少しの間はお互い何も喋らないで食べていた。
ふと、窓の外を見ると、少し暗くて、曇っていた。
「雨、降るのかな?」
「天気予報では晴れだってさ」
「大丈夫かな」
周りにいる人々を見ると、傘を持っている人はいない。これで大雨だったら最悪だな。
「折り畳み傘なら持っているぜ」
かばんのチャックを開けると、紺色の折り畳み傘が入っていた。
「用意がいいね」
「だろ?」
満足気に笑ったあと、チャックを閉めた。
「最近、よく出かけるね」
「嫌か?」
「まさか、そんなわけないじゃない」
嫌というよりむしろ嬉しい。ただ、昔はそんなに一緒にでかけていなかったので、疑問に思っていた。
「そりゃそうだよな。琴音は俺に夢中だしな」
どこまで自分に自信があるのだろう。
「昔さ、いろいろな女の子とデートしていたでしょ?」
「いや、真面目に勉強していた」
「そんな嘘に騙されないよ」
「本当だって。それにな・・・・・・」
何を言い出すのだろうと彼を見ると、じっとこっちを見ていた。いつものからかうときの表情とは違って、真剣な眼差し。
「琴音がいるから退屈なんてしない。他の女なんて興味がない」
低い声で言われたのと私から少しも視線を外さなかった。しばらく見つめ合ったあと、彼が笑い出した。
「な、何?」
「真っ赤になって。飽きないな」
もっと面白くしてくるように要求してきた。
「そうやってどれだけの人を怒らせてきたの?」
「琴音だけだよ。こんなことをするのは」
「嬉しくないよ」
「俺は楽しい」
話を続けようとしたが、人が増えてきたので、別のところへ移動しようと席を立った。私も支樹も特に見たいものはなかったので、お喋りしながら見て回った。 少し先にアクセサリーや可愛らしい小物などを置いている店があったので、そこへ入った。ネックレスのところを見ると、上品な感じの雫型のネックレスが置いてあった。手にとって見てみると、気に入ったので、買おうかと思ったが、値段が高かったので、仕方なく諦めようと同じところへ戻した。
「どうした?買わないのか?」
「うん、ちょっと高いから」
横からすっと手を伸ばしてきて、さっき置いたネックレスを取って、さっさとレジへ向かった。びっくりして、慌てて追いかけた。
「ちょっと、お金は私が払うよ」
「俺が買ってやるから、あっちで待っていろ」
そう言いながら、財布からお金を出して、支払いをした。会計を済ませた彼がこっちに来て、手渡してくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「なんかお返しをするから。なにがいい?」
「家においで。いっぱいからかって遊んでやるから」
あまりにも楽しそうに話すので、少し怖くなった。そんな私を見て、謝りながら、頭を撫でた。
そういえば、私は支樹の家に行ったことがない。
家ってどんな家だろう。部屋はどんな感じなのかな。意外と綺麗にしているのかなど、一人で勝手に想像をしていた。
「お前、さっきから何考えている?」
いきなり現実に引き戻された。何も聞いていなかったからさっぱりだ。
「ちょっと、考え事・・・・・・」
「じゃあ、罰としてなんかしてもらおうかな」
黙って後ろへ下がると、彼は追いつめるように前へ近づいてきた。壁にぶつかってしまい、前を見ると、彼の顔が間近にあった。顔が赤くなっていくのがわかる。横に逃げようとしたが、顔の横に両手をついてきたので、それができなくなってしまった。ぎゅっと目を瞑っていると、額に痛みが走った。
「まったく、話をちゃんと聞いていろよ」
「痛いな・・・・・・」
「デコピンしたから当然だ」
あんなに顔を近づけてきたからかなりドキドキした。
彼はスタスタと歩いていった。いつまでも立ち止まっていたら駄目だ。
たくさんの店を見て回ったので、外へ向かった。いきなり彼が立ち止まったので、私はぶつかってしまった。その理由はすぐにわかった。空は黒い雲に覆われていて、激しい雨に加えて、雷まで鳴っている。
「駅までそんなに遠くないから行こうか」
鞄から傘を取り出して差したが、二人で入るには少し小さかった。私たちはできるだけ濡れないようにそばによって、駅まで歩いた。駅が近かったのは本当によかった。ほっとして彼を見ると、結構濡れていることに気づいた。
「ごめん。私のせいで・・・・・・」
いそいで鞄からハンカチを出して、彼の髪の毛や肩などを拭いた。拭き終わると同時に、抱きしめられた。ぴたりと動けなくなってしまった。
「寒いな」
「びっくりした。は、離れてよ」
そういってはがそうとするが、やはり男と女の力の差は大きい。そうわかっていても、何とか離れようとしたら、すぐに離れたが、頭を左右に振ったので、水が飛んできた。
おかしいよ、いつもより接近している。今、考えていることが顔に出ませんように。
「まだ時間があるな・・・・・・」
駅の時計を見て、彼が独り言のように呟いた。
「もう少しどこかへ行くか」
切符を買う必要はない。私も彼も定期券を持っているから。彼は黙ったまま、景色を眺めていた。ただ、いつもと違うことがあった。それは私の手に彼の手を重ね合わせているということ。兄の手と少し違う。
「どこに行くの?」
「お楽しみは後にとっておくのがいいからな」
「食事のときもそうだね」
「食事?」
「うん。支樹はいつも好きなものをあとから食べている」
「降りるぞ」
電車の両側のドアが開いて、左から降りた。
小さい頃に何度か訪れたことがあるので、知っている駅ではある。彼についていくと、どうやら地下に向かっているようだ。人通りが多くて、人ごみに飲まれてしまいそうになったが、なんとか前に進むことができた。あれ?支樹、どこ?左右も前後も見たが、彼の姿はなかった。彼の名前を呼ぼうと、息を吸い込むと同時に、手を引っ張られた。
「迷子、発見」
「支樹!どこへ行っていたの?」
彼は質問を無視した。手を握ったまま口を開いた。
「ここは迷子センターなんてないからな。後ろを見たら、半泣き状態の琴音が見えたから」
「誰も半泣きになんてなってない」
ひたすらまっすぐに進んでいる。どこを見ても、飲食店だ。
「お腹が空くの、早いね」
時計を確認すると、まだ夕飯の時間まで少しある。たくさん歩いたし、仕方ないか。
「外食はしない。夕飯は家で食べるぜ。ここを左に曲がると・・・・・・」
飲食店ではなかった。可愛らしい店で、動物のグッズがたくさんあった。客は女性が多かった。中にはかごの中にたくさん商品を入れている人もいた。
「ちょっと見てくるね」
早く行こうとしていると、支樹は私の肩に手を置いて、やんわりと止めた。
「待っていてもつまらないから、一緒に行く」
棚にはメモ帳やお菓子、ペンなど、他にも多くの商品が置いてある。
袋に入った動物の形をしたクッキーがあったので、少し悩んでから買うことに決めた。他には何かいい物はないかなと歩き出した。
「それ、後で俺にくれるのだろう?」
「あげません」
きっぱりと言ってやった。これは私のもの。いや、兄には少し分けるかな。
わざとらしく落ち込んだ支樹にかまわず、買い物を済ませた。足をゆっくりと回した。長時間外にいたから、さすがに疲れた。
「満足したか?」
「うん。連れて行ってもらえて楽しかった」
「今度はさ・・・・・・」
「ん?」
「お前がどこへ行くか決めろよ」
頷いた私から離れて、家へ向かった。
帰るときは支樹が私の顔を見て、疲れたことを察したのだろう。おんぶをしようとしてきたので、即答で拒否した。もし、彼の趣味は何かときかれたら、人をからかって遊ぶことといえばいいのだ。
そういえば、電車に乗っているときに思い出したのだが、兄は昔からつきあっている女の子がいて、今もその関係は続いている。それぞれ違う学校だけど、会おうと思えば会えるので、時間があるときはデートをしているらしい。良い関係が長く続くなんて羨ましい。そっと支樹を見てみる。
そう言い聞かせても、彼のことを考えることが多くなった。




