たまごのような恋3
学校帰りに書店に寄っていた。何か面白い小説はないだろうかとさがしていたが、特になさそうなので、料理の本が置いてあるところに行こうとしたら、ある本が気になった。
可愛らしいイラストが描かれていて、純愛小説だとわかるように説明が書かれていた。
その場に立ち止まって、パラパラとページをめくって、読んでいく。この本は面白い。
少し時間をかけて読んでから買うことを決めたので、レジに並んだ。本を渡して、お金を払い、カバーをかけてもらって店を出た。
まっすぐ歩いて、右に曲がろうとしたら、人にぶつかってしまった。
「すいません」
「いえ、ん?」
顔を上げると、そこには支樹がいた。
「なんでここにいるの?」
「お前の家に行くところだから」
急に黙ったと思ったら、じっと本の袋を見ていたことに気がついた。
「珍しいな。いい本があったのか」
「うん、少し読んで面白かったから買ったよ」
「よかったな。いい物が見つかって」
「ほんとに。じゃあ、行こうか」
歩き進もうとすると、手を握られた。
「喉が渇いた」
「もう少し歩いたら家に着くよ」
「コーヒーを買う」
そう言って彼の視線の先を追っていくと、公園だった。
彼は手を握ったまま、公園に向かった。すぐそばにある自動販売機にお金を入れてコーヒーを買った。再びそこにお金を入れてこっちをチラッと見た。
買ってくれることに気づいてボタンを押した。公園の中のベンチに座って、ゆっくりと飲んでいた。
「今日は来ないかと思っていた」
「何で?」
「だって、授業が遅くまであるでしょ」
「今日は先生が用事で休講になった」
納得してから、買ってもらったものを飲んだ。
「今日は休みでよかった」
「嫌いな授業だったから?」
「いや、違う」
真剣な表情になって、じっと見ている。
「琴音に早く会えたから」
思わず顔を赤くしてしまった。それを隠すように俯いたが、その様子が面白かったのか、支樹は笑っていた。
「またからかって・・・・・・」
「からかいがいがあるからだよ」
まだ肩を震わせて笑っている。
「そういえば、飲み物を学校に持って行かなかったの?」
「いや、持って行ったけど、すぐに飲んでしまった」
「そうなんだ」
この公園は広くて春になると、桜が満開になる。また来年も来よう。そう思いながら頷いていると、支樹が不思議そうにしているので、教えると、弁当よろしくといわれた。
「あのさ、好きなやつとかいないの?」
また唐突な質問をしてきた。
「いないよ、支樹は?」
「いるよ。琴音」
さっきの熱が再びよみがえった。冷静にならなくてはいけない。
「もうからかいは通用しないから」
ちょっと素っ気なく言ってやった。彼は不満そうな顔でこう言った。
「信用してくれないのか?」
「そりゃあね。普段からからかうから」
この人の趣味は人をからかうことだと、自分の頭の中にメモをするくらいだから。
「信用できない」
そういって、ゴミ箱にすでに飲みきったお茶の缶を捨てた。
「お前、まだ作るなよ」
「学校に好きな人がいないから大丈夫だよ」
もともと男の子と話したりしないしね。
「支樹って、保護者みたい」
笑っていると、彼は黙って歩いていく。鞄を持って追いかける。
「待って」
しばらくの間、支樹は無言で歩いていた。
いつもだったら、もう少しお喋りするのに、様子がおかしい。
目を閉じていたせいで段差に気づかず、転びそうになっていた。地面に激突しかけたところをいつの間にか支樹に助けてもらっていた。
「あ、ありがと」
「世話を焼かすな」
また歩き出すが、ふと気がつく。支樹に肩に手を回されている。思わず彼の顔を見た。
「また転ぶかもしれないだろう。昔よく転んでいたから」
「お兄ちゃんが話したの?」
「そうだよ」
小さいときはよくあちこちで転んで、いろいろな所で手当てをしてもらっていたなぁ。
懐かしく思っていると、支樹が笑いをかき消すように咳き込んだ。
「よほど転んでいたみたいだな。想像つく」
自然と早歩きになって、あっという間に家に着いていた。
居間へ行って、読書をすることにした。支樹はジュースを飲んでいる。
「お兄ちゃんは?どこかに行っているの?」
「課題をやるから学校に残っているぜ」
「支樹は終わったの?」
「あぁ。今日提出した」
「課題、難しかった?」
「いや、しんどかった。量が多かったから」
読んでいた本をいったん閉じて、彼を見た。すると目が合ったので、思わず目をそらそうとしたが、顎を掴まれてできなかった。
「どうした?構ってほしい?」
「ぜんぜん、構ってほしくない」
力強く否定をしてみたが、スルーされた。今もじっと見ている。目を瞑ってしまえばいいのだけれど、なぜかそれができない。どうすることもできずにいると、支樹は私の髪を撫でていた。撫でられる度にほっと安心する。
しばらくしてから玄関のあたりで物音がしたので、行ってみると、兄が帰っていた。
「ただいま。支樹が来ているだろ、何していた?」
黙ったままも怪しいので、のんびりしたことにした。
「兄ちゃん、おかえり」
部屋から顔を出して言った。それを見て少し苦笑いしていた。
「俺はいつからお前の兄になった?」
そう言いながら部屋に入って、鞄を置いた。今日は兄のバイトがない日なので、ひたすらいろいろなことを話した。学校や恋愛や、食べ物、ニュースのことなど。
「前にね、インターネットで見たら、とても美味しそうだったの。お兄ちゃん、バイトがない日に連れて行って」
「そこ知っている。俺も行きたい」
「お前ら・・・・・・」
飲食店のサイトを見ていたら、家からそんなに遠くなくて、見た目もよく、評判がよいところだ。
「いつか連れて行ってやる。琴音だけ」
「俺だけ仲間外れ?」
「兄妹で仲良く行くから」
不満そうな表情から何かを思いついたような表情に変わった。
「じゃあ、兄ちゃん抜きでどこかに行くことにしよう」
「おい、人の妹を口説くな。知らない人についていくなよ」
「こらこら、知っているだろう。失礼なことを言うな」
「失礼じゃない」
数分間やり取りが続いて、ジュースを片手にそれを見ながら楽しんだ。
「面白い」
二人のグラスが空なので、ジュースをそこに注いだ。
「これでよし」
二人に手渡し、一時休戦となった。
支樹と仲良くなるのにそれほど時間はかからなかった。気がつけば、支樹のペースにはまっていて、そこから抜け出せなくなっている。
だからといって、決して嫌ではない。からかわれたらその仕返しに何かしようと考えることができて、面白い。
まさか大学生とここまで接するとははじめて会ったときには思ってもみなかった。
支樹は私にとって、兄のような存在となっていった。
「誠一、勝負するぞ」
支樹の声にはっとして見てみると、ゲームを取り出していた。
「望むところ」
「それ、何の勝負なの?」
「さっきの店、どちらが奢るか」
「当然負けた奴が奢るに決まっている」
二人の表情はまさに真剣そのものだった。
結果、兄が負けて、支樹が勝者となり、私達はお腹が満たされたので、とても満足だった。
「美味しかったな!」
「うん!ご馳走様」
「よかった。連れてきた甲斐があった」
「琴音、今度はどこに食べに行きたい?」
「えっと、またインターネットで検索してみる」
「ということでまた頼む」
「おい、お前らいい加減にしろよ」
ゲームで負けた上におごらされた上に、また奢らされる。




