忍従(鴨宮のドサ回り日記12)
商都で同じ週に上演する劇団の
忍者村物語を見学
なんか、自分達が演じるのは
一切、変えずに同じ事の繰り返しなので
たまたま同じ時に同じ場所で公演する
劇団を見て勉強しているような感じがする。
・・・
最初は、ナレーション
誰もいない漁村風景なセットが置いてある舞台に
舞台背景に関する説明が流れる
「ここは海辺にある忍者村、
村人は普段、漁師として過ごし
任務が発生した時だけ、武家ではあるものの
忍者家格の家な一族の当主が村長、
その一族の分家が村三役として君臨していた。
村で生まれると物心つくかつかないかの内に
家の長男は子供組での忍者としての修行と
漁村での毎年、四季毎の作業を仕込まれる
次男坊以下は、ある程度、大きくなったら
各地へ普請人足、今で言う出稼ぎ土木作業員などで
潜伏して藩へと種々の報告をする密偵
女は、ある程度、大きくなったら飯炊き女として
都合が悪くなったら、いつでも毒殺できるように
目ぼしい藩内の家へと潜り込まされる
そんな感じで村が運営されていた。
今日も干物行商人として隣接する藩へと出かけて行く
密偵の下忍を前に
村三役である上忍の1人が演説をする」
「よいか 皆の者、人というものはな、
誰か人間が存在していて
その人間の作為によって何かが動いていると思うと
その人間に何かを言えば変えられるかもしれない
そう判断する、そして 揉め事が起きる
だが しかしだ。神や仏が巻き起こした
人知の及ばぬ自然現象によって
何かが動いたのだと思える事は
自分たちにほ どうにもできないと判断する
揉め事も起きる事は無い
誰のせいにも出来ないからだ
そして巻き込まれた人々は運命だったと判断し
誰もが発生した結果だけを語りして受け入れる
そういうものなのだ。
我等の使命は、実際には 御上の采配により
与えられた使命により発生させた事件であっても
人知の及ばぬ自然現象によって巻き起こされた
事故であったかのように魅せられるか
先ほど発生した事件について
自然災害による事故であった事を広める
それも今回の我等の使命である。
いつものように
干物行商という表の顔で、出かけた先で
指示された通りに
”我等の都合で発生した不幸な事件”を
同じ事の繰り返しで下衆な噂や悪評などなら
鬱憤晴らしに、どんな事でも言いふらす町人が
好みそうな世間話の種を言いやすい
刺激の強い言葉で広めるのだ」
下忍の皆の衆を前に更に語る上忍
「何度も同じ事を言うようだが
まだ、わかっていない見習い下忍も
いるかもしれないので念を押しておく
我等が ”群れの中で形成された意思”
というものを動かすのに大事なのは目立たぬ事だ
変に目立ち 誰かの作為と知れれば
”群れの中で形成された意思”は拒絶反応を起こす
どんなに普段は色んな事に無関心な人間でも、
よくわからない誰かに動かされていると感じれば
動かされた結果 どういう事になるかが わからない
という不安感に囚われ、疑心暗鬼に陥り
動かしていると想える誰かに不安や疑念をぶつけだす
目立たずに ”群れの中で形成された意思”が
雄大なる自然を司る神仏によるものである
と感じるようにすれば誰も何も言わない
”神仏の意思による事について
自分などが誰かに何かを言っても何かをしても
何も変わらない”
という諦めのような心境になるからだ
特に子供組から抜ける年齢となり
始めての御役目を与えられし おぬしらは
妙に自分だけが目立ちたいとかいう見栄とか
自分だけが 綺麗な遊女と遊びたい
などといった御役目を果たすには
不都合な己の欲を抱えておるように見える
代々忍びとして生きてきた我等の中には
そのような欲が原因で目立ち、
その存在を知られ闇に葬られる事となった者がおる
最初の御役目の前に 何故、己の欲や 見栄によって
目立った者が哀れな結末を迎えたかを聞かせる」
・・・・
「というような悲惨な結末を迎えた者どものように
ならぬようにするのだぞ?よいな?
既に何年も御役目を受け持っているものも心してかかれ よいな!」
その掛け声までを聞き彼等は御役目のために各地へと出かけていった
出かけて行くのを見送った後、その仕込み役である三役は
子供組の”生徒”を前に ”寺子屋”の中で仕込みをする。
「自分の思い通りにならない兄弟や
同じ村の者を、意のままに操ることができたら
と誰もが一度は考えたことがあるものであろう?
特別な話術などがなくても、ある要領を身につければ
誰にでも暗示をかけて操ることができるものなのだ。
暗示とは、言葉や合図などにより、
他者の思考、感覚、行動を操作・誘導する術のこと
言い換えると、自分の意にそぐわない相手を、
誘導するための術である。
例えば、何も知らない子供が
”山や川で遊んでみたい”と、最初に思うのは何故か?
自分の周りにいる少し年齢を重ねた者が、遊んでいるのを見て、
そうするのが当たり前だと暗示をかけられているからだ
暗示の力により誰かの頭の中で、
その行動などが当たり前となる事は、実は多く存在しておる。
つまり優れた忍者を見て、知ってか知らずか暗示にかかって
自分達も ああ成りたいと思っていくのだ
では、任務で、この暗示を使いこなすには どうしたらいいのか?
暗示と聞くと、まるで妖怪が術を使い村人を惑わしたり、
神隠しで消したりするような光景を思い浮かべる者もおるだろうが、
実は暗示をかけるのは、妖怪変化になるほどに難しいことをやるわけではない。
要は我等が与えられた任務において、
“我等が望む状態”は素晴らしいものだと、
相手に繰り返し伝えれば よいのだ。わかるか?
暗示を効果的にかけるにあたり、ここで1つ気をつけて欲しい点は
それは暗示をかける際、できるだけ欲望を満たす言葉を使うこと。
年貢を払わせたい農村の百姓の場合は、
農村の内輪で賛美される存在となりたいという欲望を
利用するといった具合だ
欲望を刺激する言葉を繰り返すことができれば、
暗示の効果は大きなものとなる。」
「今日は、人を動かすための暗示について説明したが、
これは他人だけではなく、自分にも有効である。
”自己暗示”という言葉がある通り、
自分の思い込みは良くも悪くも行動に大きく影響を与える。
自己暗示で潜在意識に働きかけ
恐怖心や苦手意識を克服して様々な任務を遂行できる。
”失敗したらどうしよう”という恐怖を克服し、
適切な行動をとることさえできれば、物事は自ずと上手く行く。
成功を信じて、成功するまで諦めなければ必ず成功できる。
けれども、人間は強気と弱気の間を往復したりするもの。
”どうせ自分には無理”、”きっとうまくいかない”
弱気な言葉が心をよぎる時もある
意識のどこかに弱気な気持ちがあると、
やる気が無くなったり、途中で中断してしまったりして
任務を成功させる事が できない事もある。
そこで、慎重になるための弱気は保持しても、
任務の実行に邪魔になるほどの弱気を排除するためなどに
我等は様々な ”自己暗示”を編み出した。」
「任務で城下町へと潜入し、町の中で敵に出くわして忍びと見破られた時
その城下町の敵の声や 町の風景などが、
”命を脅かす失敗体験”として脳裏に刻まれる。
その警戒を忘れないためのものが「恐怖心」。これは、動物にすら備わっておる。
犬や猫でさえ、一回でも怖い思いをしたことは二度とやりたがらないものだ。
”恐怖”という感情には、実体が無い。
たとえば、”銭が無くなったらどうしよう”と、
まだ銭があるのに心配してしまう。心配し始める額は、人それぞれ。
では、どうしたら恐怖心を克服できるのか?
それは潜在意識を書き換える自己暗示を利用すればよい
恐怖は、過去の出来事から、
または、まだ来ていない未来を想い浮かべる事から発生する。
恐怖を感じている時、心は過去や未来に飛んでしまい
心、ここにあらず、目の前の現在に存在しなくなってしまう。
”今、この瞬間”に意識を集中してみると、実は何も起こっていないのに
心の中の弱気が 過去の出来事が再現する恐怖を発生させ
無力な状態に陥ってしまうものなのだ。
そんな事が、あっては成らぬ。わかるか? まだ、わからぬか?」
「では、そこの者、今までに遭遇した恐怖には何がある?」
「村境で 頭のおかしいヨソ者に遭遇して
わけの わからない事を叫ぶ そのヨソ者に追い回された事です」
「まず お前の心にある村境、村境の外は何だ!」
「外界です。同じ村の仲間がいない世界です。」
「もし、その村境を出たら お前は何になる?」
「ヨソ者です」
「もし、お前が村の掟を破って村から追放されたら どうする。
その頭のおかしいヨソ者のように、
村にいる人間を追い回して脅かすか?」
「私は頭のおかしいヨソ者になりたくないから
村の掟を破らないので、わかりません
一生を、この村のために捧げたいと想っています」
「自分は違う、絶対に頭のおかしいヨソ者とは違うというのだな?」
「はい」
「その違うものへの警戒心が恐怖を呼んでいるとは思わぬか?
それに そのヨソ者は本当に気がふれておったのか?」
「本当に気がふれておったか否かは、わかりませんでした。
確かに わからない者への恐怖があったと思います。」
「お前は恐怖を感じた。
では、そのヨソ者が何を感じたのか予想できるか?」
「予想できません」
「であろうの。よいか、ヨソ者が村の者に、
いや村の者でも力なき弱き子供を見かけ何を考えると思う
村に戻って親が出て来て自分が追い払われる恐怖。
ヨソ者と差別される恐怖。
今まで、昔いた村を追放されてから味わった仕打ちによる
多くの恐怖や怒りや憎しみに囚われておるのだ
その恐怖や怒りや憎しみを取り除き、暗示をかければ、
どうとでも操れる下僕として使う事すらできる
ワシが もし、そのヨソ者を下僕として操れるように
暗示をかけろと命じたら、どうする?」
「わかりません。
どうすれば、そんな野山にいる獣のように暮らしている者に
暗示をかけられるのでしょうか?」
「”潜在意識を書き換える自己暗示”についてワシは語ったが
潜在意識を抱えているのは誰も同じ、
相手が抱えている潜在意識を書き換える暗示をかければ
どうとでも支配できるものなのだ
そのために揺さぶりをかけるのに使えるのが
恐怖や不安感なのだ。わかるか?」
・・・
忍者学校の先生と生徒シーンの途中で
座長に打合せに呼ばれ席を外した
「たぶん、この後は、
昼間の目立たない干物行商人扮装から
時代劇で御馴染みの黒子のような
夜の忍者衣装を来てのチャンバラ・シーンの
繰り返しになるだけだから
なんの参考にも、ならないから見なくてもいい」
まだ、見ていたい自分に座長が言う
そして、昼の部で上演した自分達の反省会。




