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魔物農場 ラストシーン 時は流れて


数年が過ぎた。


季節は巡り、寿命の短い魔物は、この世から消えた

ペガサスや、ユニコーン、オークたちを除けば

反乱前の日々を性格に記憶している者はいなくなり


元農場主はアルコール依存症の治療施設で死んだという


そして、キンムーや、トージョーの姿、声なども

皆の心の中から薄れていき

誰も、どんな姿で、どんな声だったか

思い出せなくなっていた。



雌ペガサスは年老いて太り、関節は強張り

体のアチコチが痛むようになった


彼女は二年前に引退とされていた歳を迎えていたが

実のところ農場でちゃんと引退をした魔物は一頭もおらず

引退した魔物のために牧草地の隅に広場を設ける話は

もう長いこと話題にあがっていなかった。


フジワーラは、今や壮年の雄オークになり、


ヒデヨッシーは、肉に埋もれ目が隠れてしまうほど太った


年寄りのユニコーンだけが昔と変わっていなかった

雄ペガサスが反逆者として見せしめ公開処刑されて以来

前にも増して不機嫌で寡黙になっていた。


農場にいる多くの魔物は反乱が昔話になってから産まれていた

また、よそから買われてきた者は農場に来るまで

反乱のことなど聞いたすら無かった。


農場は前よりも豊かになり、組織構造は固まっていた

隣接農場から買った二枚の畑のおかげで広くなり

自前の脱穀機やエレベータ付きの干し草倉庫が設置され

色々な用途の新しい建物が増設されていた。


フジワーラは贅沢や享楽という考えは

魔物主義の精神に反すると主張するようになり


 真の幸福とは懸命に働き、質素に暮らすことの中にある


と農場の魔物達に作業指示をする時に何度も語った。


農場が豊かになったにも関わらず、

客観的に見ると魔物たち自身は豊かには見えなかった……


もちろんオークたちとフェンリルたちは別だった

オークとフェンリルは全て

綺麗な毛並みに血色良い肌艶で多く繁殖していた。


オークも、日々、忙しく働いていた


ヒデヨッシーが飽きることなく説明するところでは、


 農場全体を考えて維持向上していくための管理と

 たくさんの魔物が集まって運営する組織を

 正しい方向へと導くための終わりの無い職務


という事で、その職務の内容は他の作業用魔物たちには

理解できないし、やれと言われても出来ないものだった。


例えば、ヒデヨッシーが語った「労務管理」というものは


 オークたちは毎日、労働作業内容と労働効率に関する要因を

「ファイル」や「報告書」「議事録」や「メモ用紙」

 と呼ばれる不思議な物を用いて報告、相談、連絡し

 毎日、毎月、毎年の農作業の質を向上させるために必須な職務


という事なのだが、それを説明されても他の魔物は

日々の農作業で疲れていて、それについて考える余裕は無かったし

語られる労務管理用の専門用語とやらの内容を

把握できるだけの知識も何も無かった


そして労務管理に関する文字が大量に書かれた膨大な量の紙

それらは文字で埋め尽くされ、

時間が経過し古くなると焼かれていたが


ヒデヨッシーが言うにはそれらは農場を繁栄させる

「労務管理」のために最も重要な物なのだという


それを紙を読むのはオークだけだった。



しかしオークたちもフェンリルたちも

農場で食料を生産する農作業をするわけでは無いが

農場のために働いているという意味では同じと主張していた。


他の農作業用魔物達は地道な同じ事の繰り返しな日常を生きていた


いつも腹をすかし、溜め池から水を飲み、畑で働いて、藁の上で眠る

冬には寒さに悩まされ、夏にはハエに悩まされていた。


ときどき彼らの中でも年をとっている者はかすかに残る記憶を探り、

今に比べて革命後の頃、良かったのか悪かったのか思い出そうしたが

思い出すことはできなかったし、今と比較できるものは何もなかった。


農場の今昔を比較できるのはヒデヨッシーが作成した

「年次報告書」だけだったが、その紙には、


 農場の全ては、昔に比べて今の方が素晴らしい


というような事が書かれていた。



魔物たちは解決不可能な問題に捕らわれていた。


ひたすら何も考えずに農場で働く事だけに専念する時間だけが日常を支配し

自分たちの現状について理解するための時間は全く無かったために

魔物たちは色んな事に無関心で無思考でいるのが当たり前になっていた。


年寄りのユニコーンだけは

自分の長い生涯を克明に記憶していると公言していて


「我等の日常は、境遇は、良くも悪くもなってない

 これからも変わらないし、誰も変えられないだろう


 何度も何度も何かを変えたいと願うが願いは叶わない


 たとえ、少し叶って変えられたとしても


 次の願いが心に浮かび

 その願いが現実のものとなるかに一喜一憂する


 しょせんは、その繰り返し、それだけだ。」


相変わらず。笑った顔が想像すらできないような表情で、

いつものように、何かの格言を他の魔物に語った。



そんな日々であったが


魔物農場の魔物たちは、未来への希望を失わなかった

魔物農場の一員であるという誇りと名誉も失わなかった


自分達は魔物によって所有され運営されている

たった一つの農場に所属している。


数十マイル先の農場から売られてきた魔物でも、

オーガに隷属する作業用奴隷では無い魔物が存在し

自立して自営していることに感動しない者は

一頭たりともいなかった


キンムーが語った魔物による魔物のための思想は

ある意味で一部は具現化し、魔物達の心に刻み込まれていた。


キンムーが予言したオーガ王国打倒と魔物共和国設立

全ての魔物が平等に生きる世界は、いつの日にか必ず実現する

だが、すぐには実現しないだろう

現在生きている魔物の生きているうちに

実現を見る事は無いかもしれない

だが、いつかは、必ず実現するのだ。


そう信じられていた。そして魔物農場の魔物達は


日々の食事は質素なもので、農作業用の魔物小屋は粗末でも

自分たちは他農場の魔物たちとは違うと想っていた


 横暴な鬼人に搾取されるだけの存在ではない

 他の農場の作業用奴隷魔物とは違うのだ

 たとえ過酷な労働であろうとも自分たちのための労働なのだ

 「ご主人様」と呼ぶオーガはいない。全ての魔物は平等だ。


そんなキンムー主義の言葉が心に刻まれていた。



ある春の午後、たくさんの人を乗せた魔物車が農場にやってきた

近隣農場の代表が視察のために招かれたのだ

彼らは農場中を見て回り、大きな賞賛の声をあげた。


魔物たちは地面から顔を上げることなく勤勉に働いていて

オークたちと鬼人の訪問者が交流する光景を受け入れていた。


その晩、笑い声と歌声が農場のオーガ屋敷から聞こえてきた

突然聞こえてきた魔物と鬼人の話し声は

農場の魔物たちに好奇心を持たせた。


 あそこで何が起きているのだろう?


 もしかして魔物と鬼人が対等な立場となり

 一緒に生きていくための会合が開かれているのだろうか? 


農場の魔物は一緒にオーガ屋敷の庭園に忍び込んだ

魔物たちは門をくぐり、雌ペガサスを先頭に進んでいった

屋敷まで静かに歩いて行き、台所の窓から中を覗き込んだ。


そこでは長いテーブルの周りの半分に十二人のオーガ農場主が、

もう半分には十二頭の地位の高いオークが席に着き、

テーブル先頭の主人席にはフジワーラが座っていた。


カードゲームに興じた後、今は乾杯のための小休止をしていた

酒ビンが回され、空いたジョッキにビールが注がれていった

誰も窓からのぞいた魔物たちの驚いている顔には気がつかない。



東農場主オーガがジョッキを片手に立ち上がり、


「農場主として生きる

 我等の新しい交流を祝い、皆で乾杯をしよう。


 長い間の不信と誤解が今、終わりを告げたことを

 我々は非常にうれしく感じます


 長い間、魔物農場の尊敬すべき経営者たちは

 差別主義者である強硬派鬼人街などに住む鬼人などから

 疑念の目で見られていました。


 もちろん私やここに集まった農場主オーガは

 そのような馬鹿な鬼人とは違い

 そんな疑念を持たなかったですがね


 想えば不幸な事件により、誤った考えが広まりました


  オークによって所有され経営されている農場の存在は

  なんとも異常であり間違っている


 などと言う考えを持つ人も

 存在していたことは間違いありません


 他の魔物を理解しようとしないオーガ民族主義の農場主は


  そんな農場では無法と無規律が横行しているだろう


 と思い込み、言い張ってました。


 彼らは自分たちの農場で管理する魔物への影響、

 いや、それだけではなく自分たちを中心にした現状への

 悪しき影響などを心配していたのです。


 しかし今やそんな疑いは

 ここにいるオーク農場主の皆様の努力により

 全て晴れました。


 本日、魔物平等主義者である

 穏健派オークでもある我等が魔物農場を訪ね、

 目にしたものは何でしょうか? 


 素晴らしい最新の技術、規律と秩序です


 全ての農場主が手本とすべきものです


 魔物農場の農作業用魔物たちは、

 この国のどの魔物よりも少ない食べ物で

 どの魔物よりも働いています。


 自分達が自分達の意志によって働いている

 決して、言われて農作業をしているだけではない


 そういった心の中にあるプライドが意欲を産み

 労働効率を向上させているのです。


 間違いなく、農場主である我等は

 自分の所有するオーガ農場でも魔物達が働くための制度として

 今すぐに取り入れるべき多くのことを理解しました。


 今やオークとオーガの間には利益上の衝突は何もありません

 衝突する必要などは無いのです。


 我々の努力すべきことと立ち向かうべき難問は一つです


  農産物の生産効率問題


 それは どの農場でも同じではないでしょうか?


 ふふっ。


 失礼、我ながら、面白いジョークが心に浮かび

 自分で笑い出してしまって言葉を言えなくなりそうでした



 オークの皆さま方に管理すべき下層魔物がいるとしたら、


 オーガの我々には管理すべき下層階級オーガがいる!



 農場管理者として生産効率を向上させるために

 さらに素晴らしい管理方式を一緒に考えていきましょう!」



この言葉にテーブルを囲む農場主達は大いに沸きたった。


東農場主は、オーガ国の保守支配階級である

自分達が魔物農場で眼にした

少ない配給、長時間労働、低福祉での効率的な農場経営を賞讃し、

それを可能にしているオークたちの管理能力への賛美を述べた後

同席者にジョッキを満たして掲げるよう頼んだ。



「紳士諸君。魔物農場の素晴らしき未来に乾杯!」



歓声が挙がり、足が踏み鳴らされた。


フジワーラは、たいそう満足げで、ジョッキを空ける前に

オーガ農場主と乾杯をするためにテーブルを回った後

自分も語ることがあると立ちあがり演説を始めた。


「我々も長い間の誤解が解けてうれしい


 長い間、我等は


 破壊的で過激な思想な魔物と噂されていた……


 我等は悪質な敵がこれを流したのだと考えている


 我々は近隣の農場の魔物たちに対して

 革命を扇動しようとしていると信じられてきた


 これほど真実からかけはなれた話はない! 


 我々の願いは過去も現在も一つだけ


 平和に隣人たちと平等な取引関係を結ぶことだ


 私が管理者として統括する農場は魔物共生農場であり

 農場に関する全て権利は我々が共同所有しているものなのだ


 過去にオーガの皆さんが心に抱えた疑念が

 完全に晴れたものと信じている、


 しかし我々に対する信頼を確かなものにするために

 近々、農場の活動にいくつか変更を加えるつもりである。


 これまで農場の魔物たちは他の者を「同志」

 と呼ぶ非常に馬鹿げた習慣を持っていたが禁止するつもりである。


 また由来は良くわからないが

 庭にある柱に釘で打ち付けられた雄オークの頭蓋骨の前で

 毎週、日曜日に集会をおこなうという非常に奇妙な習慣もある。

 これも禁止するし、その頭蓋骨はすでに埋めてしまった。


 東農場主様の友好的で素晴らしい演説に一つだけ反論がある。


 彼は魔物農場という名前で、この地を呼んだ。

 これはここで初めて発表されることなので

 もちろん彼が知らなかったのも無理はないが


 魔物農場という名前を廃止される事に決まった。


 この瞬間からこの農場の名前はオーガ農場101とする


 このオーガ王国の由緒正しい伝統的な名前に

 戻す事は正解であると私は信じている。


 先ほどのように乾杯しよう。ただし少し違うやり方でだ。

 グラスを満たしてくれ。


 オーガ農場101に乾杯!」


先ほどと同じように歓声が起き、ジョッキが空けられていった。


しかし外の魔物たちがその光景を覗き込んでいると、

奇妙な変化が起きているように見えた。

オークたちの顔が何か変化しているように見えた。


雌ペガサスは老いてかすんだ目を顔から顔へと移していった。

ある顔は五重に見え、ある顔は四重、あるいは三重に見えた。

何かに融合するかのように混ざり合うかのように

化学変化を発生させているかのように観えた。 


ちょうどその時、歓声がやんで列席者がカードを取り上げて

中断していたポーカーゲームを再開したので


農場の魔物たちは静かにその場を立ち去ろうとした。


しかし、すぐに彼らは立ち止まった。

屋敷から叫び声が聞こえてきたのだ。

彼らは駆け戻って再び窓を覗き込んだ。


そこでは猛烈な口論が始まっていた。


叫び声、ポ-カーテーブルを叩く音、疑いのまなざし、猛烈な罵声。


騒動の原因はフジワーラと東農場主が

同時にスペードのエースを出したことにより


どちらも相手がイカサマをしたと言い張り


 私は正しい。お前が悪い。ルール違反で御前の負けだ。


と言い出した事を発端にした口論のようだった。


オーガの叫びとも、オークの鳴き声にも聴こえる怒号が鳴り響き、

どれも同じように怒りを大声で表現している叫びに聞こえた。


今、オーガもオークも同じような怒りの表情を浮かべていた


元より、まるで何かのユニフォームを着るかのように

同じような紳士服に身を包んでいる恰幅の良い体形な彼等は

遠目に見たら同じようなシルエットを浮かべていた


保守支配者層としての立ち居振る舞いは

国内共通のものがマナーとして統一されており

それに従っているために

纏う存在感や空気感も同じようなものに感じられた


オークとオーガが同じように罵り合いながら

屋敷の部屋の中で交錯していく。


雌ペガサスの老いて視力の堕ちた目では

どれがオーガ農場主で、どれがオークなのかが

判別できなかったし、どう違うのか見分けがつかなかった


そして、オーガ屋敷の外にいる農場の魔物達には

室内にいる全ての魔物は

何かに憑りつかれ、不気味な鳴き声で鳴き喚く

怪物のような存在にしか見えなかった。


・・・


「最後の、オークと、オーガの罵り合いシーンって


 どう舞台上で表現するかが細かく書かれてないけど?


 どうするんです? こういうイメージでとか

 具体的な演出プランみたいなのって


 まとまってます? 演出 兼 出演の役者様?」



『えーと、だな、それは・・・


 外で見ていた魔物達が

 室内の化け物のような魔物について

 あれこれと錯乱しながらセリフを叫ぶ事で

 表現しよっかなー


 と思っているんだけど・・・どうだろね?』



「どうだろねって演出様が決めて下さいよ

 ポスターに演出として名前が書かれるんですから


 どこまで朗読劇のように

 座長のナレーションによる表現力で表現するのか


 どこから魔物達の錯乱セリフで表現するのか」



『そーだな、まずは、ちょっとスカスカ感が凄いだろけど


 この書いてあるセリフと、ナレーションでリハしてみて


 そのナレーションにあわせたパントマイムとかも

 まずは各自が感じた通りに通してみて


 群像会話劇として、どうかを見てから

 こうしようとか思い浮かぶと思うんで


 まずは、リハーサルをしてみようか?』



「そーですね、では! 次は!

 いつもリハーサルで利用させてもらっている店で

 日曜深夜から月曜朝まで通しリハしましょう!」


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