ガラスの靴と、王子の暴走
夜、早めに寝床に入ったシンデレラは、明日の早朝からの段取りを、順序よく、進めるための、脳内シミュレーションをやっていた。
こうすると、自然と眠りにつくのだが、何故だろう。
街ですれ違った、王族の馬車と、舞踏会での王子様を思い出すのは⋯。
屋根裏部屋の窓から照らす月夜と星星が、あの日の事を思い出させるのか。
(殿下とのダンスは、ただ楽しかった)
疲れていたはずなのに、何故だか、このままの時間が、永遠に続けば良いのに、とさえ思ってしまった。
仮面を剥いだ王子様の、蠱惑的に笑む美しさに、目を奪われた。
額に汗が滲み、前髪が少し、張り付く姿でさえ、美しさの中に、ゾクリとする色気すら漂っていた。
後から聞くと、王子様は、“妖精王子”というあだ名が付いているらしい。
なるほど、たしかにこの世のものとは思えぬ美しさだった。
(殿下は、今日、見初めた女性を迎えたのだろうか⋯)
走り去っていく馬車は、見初めた女性を迎えに行くため、と街の人が噂をしていた。
王子様が、そのために色々支援していたと。
(何故だろう⋯、胸が苦しい)
シンデレラは、瞳を閉じた。
一方お城の王子様の私室では、
「誰だ……あの女は……! 気になって、仕事が手につかぬ……!」
王子様は、布団の中でギリギリと歯ぎしりを立てていた。
王子様の号令は、突然だった。
『この、ガラスの靴に合う女性を、私の花嫁にする!』
御触書も出され、国民達は驚いた。
「貧民街の娘を、迎えたのじゃなかったの!?」
「しかも、靴が足に合うだけで、嫁にするって⋯」
「何人出てくるんだよ。それとも、足にすっぽり入っちまったら、それで終わりか!?」
「もしかして、ついでに側室でも娶るつもり!?」
家来たちが、ガラスの靴を携えて、家々を回っているという噂を聞きつけ、次は、どこの家だ!?自分の所はまだなのか!?と、連日、始終、王子様とガラスの靴に国民達の話題は、もちきりだった。
城から一番遠いのでは?というところに、屋敷を構えているシンデレラ達にも、王子とガラスの靴の話題が舞い込んできた。
「王子様が、花嫁を探している?」
行商人が話す内容に、シンデレラは、聞き返した。
「はぁ。街中、その噂で持ちきりなんですわ。いやね、私も、詳しくは知らないんですけどね、なんでも、なんだったかなぁ?あ、そうそう、なんか変わった靴をですね、王子様が所有してるらしくてですね、その靴に合った女性を、花嫁にするー!とかなんとか、なんですかね?足フェチなんですかね?うちの王子は。ふへっ!」
行商人は、そう話し、「じゃ、まいど!!」と言い、去っていった。
変わった靴⋯という名に先日の舞踏会での、ガラスの靴を思い出す。
(そういえば、片方をどこかに脱ぎ落としてきたのだっけ。夢中で走ってたから、確認する余裕もなかった⋯)
でも、まさか、その事ではないよね、と思い直し、シンデレラは仕事へと戻るのであった。




