98.配信休止=彼女は悪意を前に呆然とする。
さっきまでの楽しかった気分はすっかり吹き飛んでしまい、陰鬱とした気持ちのまま立ち上がった私はひとまず心を落ち着けるべく、キッチンの椅子に座って、買ってきた飲み物に口を付けた。
「………………ふぅ……大丈夫、なるべく外に出ないようにして、出る時は変装する……うん、何の問題もない…………よし、切り替えよう。お母さんも、もうすぐ帰ってくるだろうし、暗い顔は心配させちゃうだけだからね」
大きく深呼吸をし、自分に言い聞かせるように大丈夫と口にした私は両の頬を軽く叩いて思考を切り替える。
久しぶりに帰ってきて早々、お母さんを心配させるわけにもいかない。
………大丈夫、私なら何事もなかったかのように演じきれる。
だからいつも通りの過ごそうと思い、お母さんが帰ってくる前にSNSを更新しようとして私は信じられない現実を目にする事になる。
――――漆黒ゆうぐれの配信休止はスキャンダル隠し!?全くの嘘だらけ!ファンを今まで騙していたその正体とは!?
SNSを開いた瞬間に飛び込んできたその記事は私にとって寝耳に水の全く身に覚えのないもの。はっきり言って根も葉もない情報ばかりの悪質なデマだらけの記事だった。
「なに……これ…………なん、で……こんな…………」
けれど、その時の私の心を抉るには十分すぎる内容だ。加えて、質が悪いのが、この記事のほんの一部が嘘ではない事だった。
というのも、記事の一部記載に漆黒ゆうぐれの過去は陰キャぼっちの苛められっ子、他人の男を惑わせて不和を生んでいたというものがあったのだ。
かなり脚色され、悪意のある言い回しではあるが、その内容は紛れもなく中学時代の出来事。
無論、男を惑わせていたつもりはないけれど、傍から見ればあの出来事はそう捉えられていてもおかしくはない。
しかし、問題なのはそこではなかった。
言ってしまえば、この記事に心が抉られたところで、私が目にする分にはその影響を受けるのは自分だけ……〝漆黒ゆうぐれ〟という存在には微塵も関係ない。
問題はこの悪質な記事が私の目に届く範囲まで挙がってきているという事だ。
今までもこういうゴシップめいた記事は何度か出ていたけど、どれも私の目に入ることなく、見向きもされずに立ち消えていた。
でも、今回の記事は違う。
多くの人が反応を示し、トレンドにまで入ってしまう程に膨れ上がっており、今現在、最強Vtuber〝漆黒ゆうぐれ〟は批判殺到の大炎上とでもいうべき状態に陥っていた。
98.配信休止をご覧くださり、誠にありがとうございます。
悪意に晒され、呆然と立ち尽くす彼女は果たして……?
今後が気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録とグッドボタン……もとい、ブックマークと評価の方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!
「……火のないところに煙は立たないとは言いますが、この業界……いえ、この業界に限らず、火のないところには火種をつけると言わんばかりの勢いで粗を探してきますわね」
「……まあ、そういうゴシップが売れる、お金になるって考えてなりふり構わず動く人が少なからずいるって事だよ。それが誰かの人生を狂わせるなんて事は考えないんだろうね」
「記事もそうですが、それに乗っかってここぞとばかりに叩く人も罪が重いと私は思いますわ」
「人の不幸は蜜の味……なんて言うからね。誰かを叩いてストレスを発散したい、自己承認欲求を満たしたい、自分本意な理由で誰かを傷つけるなんてよくある事だよ」
「……嫌な世の中ですわね……本当に」




