舌戦と出発。
えーと、エルフの氏族長の娘?
大問題です。
エルフ族長というものは王に近い存在。そしてその娘が帝都に落ちていたという。
只のエルフならばどれほどよかったか。
だいたい何でそんな身分の高い人物が・・・拾って来ては仕方ありませんね。
「エルちゃんはどうやってここまできたの?」
「えっとね、もりでおひるねしてたの。めがさめたらまっくらなところでこわくてにげたの」
めちゃくちゃ誘拐されてるじゃありませんの・・・全くどこのバカですか?わざわざ外交に火種を焚き付けてるのは。
フランシスコ伯爵。
ヘルメス商会の番頭が忠告してきた人物。
彼はエルフ外交においての帝国側の玄関口に過ぎません。
外交官の役職に近く帝国内にいるエルフの保護とエルフ側の情報収集が主な仕事で典型的な中間管理職。
もしも策謀等を行うならば役者不足もはなはだしいです。
なので上位の貴族が関与している可能性が高い。
さてと、とりあえず今日はここまでにいたしましょう。
旦那様ベッド内
「ワオン」
「ワンちゃん・・・zzz」
教育的指導が必要かもしれませんわ。
┝┝┝┝┝┝
ドンドンドン。
「開けろ、ここにエルフがいるのはわかっているんだぞ!」
やかましいですわ。
朝、商会のドアを殴るように叩く音が聞こえてきます。
昨日の今日でまた何か仕掛けてきたということは幼女エルフがよほど重要か、もしくは焦っているのでしょうね。
襲撃の後にすぐに行動する・・・これは疑ってくださいと公言しているようなもの、わたくしならば絶対にしません。
扉を開けてみれば予想通り外交局の職員がいました。
「失礼、こちらにエルフの方がいるとお聞きしまして」
「はあ、」
「エルフの方を保護したく参りました」
本来の職務の通りの内容に鉄板な受けこたえ、服装をみれば確かに外交局のものであるとわかる。
一見彼等はエルを保護しにきた職員だと思われますが、いくつものミスをしておりますの。
エルフがここにいると聞いた。
さて、誰にお聞きになられたのでしょうか?旦那様はエルを商会まで外套に隠して連れてきた。
エルフを常時監視しているならば可能な芸当ですが、それならばエルフ氏族長の娘が帝都に落ちている状態であった事に矛盾が生じてしまいます。
結果的に昨日お越しになられた非合法組織の方々に依頼した方による情報提供とみて間違いないでしょう。
次に、時刻がおかしい事。
いかにも急いで来ましたという風に取り繕っていますが、本当に緊急事態ならば夜中であろうと来るもの。
何故、朝早くなのかと疑問でしたが・・・周りをみれば理由がわかりました。
どうやら今の時間帯は商会周囲の人通りが少ないようです、これではできるだけ人目につかないように回収したいという魂胆が見え見えですわ。
怪し過ぎますわ。
「エルフの方を引き渡していただけませんかね?」
こちらが渋っているのをみて、向こうも苛立ってきたようです。
まさしくさっさと渡せやと言うかのように口調まで変わってきています。
現状は向こうが職務に則っているわけですから、悔しいですが、わたくし達がそれを拒否する権利はありません。
後ろの職員が制圧棒を何度も手にポンポンしている、その顔は行商の途中でみた盗賊のゲス顔と類似していた。
だめだ、この子を引き渡してはだめだ。
わたくしの直感がそう囁く。
しかし、相手を止める手段が何もない。
「抵抗なされるので?では「ちょっと待っていただきたい!」・・・ああん?」
動かないわたくしをみて職員は腕を伸ばし商会へと入って来ようとします。
とっさに幼女を商会の奥へと隠さなくてはと振り返る。
そこには、旦那様が立っていました。
「あなたは?」
「はじめまして、当商会の店主をしておりますカシウス・ヘルメスと申します。いやはや、早朝からお仕事ご苦労様でございましてどのような御用件で?」
「店主か、ならば話が早い。ここにいるエルフを保護しにきた速やかに引き渡せ!」
旦那様の口調とテンションが商売の時になっている・・・ふてぶてしく笑みを浮かべながら手をモゴモゴと動かす様子は一見あちらをおだてているように見えるが、よく見ればその目は笑っていない。
怒っている、旦那様が怒っている。
「引き渡せ?これは奇異な事をおっしゃられる。いつからあなた方外交局の職員がエルフの身柄を好き勝手できるようになられたと?帝国がエルフにできる事はあくまでも保護」
「本人が事件・事故に巻き込まれた時に一時的に帝国が保護することでございます。しかし、エルフ自身が保護を求めていないのに身柄の引き渡し?おかしいですねえ?それとも特別な事情でもあるので・・・例えば迷子とか」
「そっそうだ、我々は親とはぐれたエルフの子供を捜索しているのだ!さっさと引き渡してもらおう」
「それはそれは。では、その親御さんのお名前は?捜索しているお子さんのお名前は?」
「・・・」
「なるほど名前も知らずに探していると、その上エルフがいると聞いたから引き渡せと・・・話しになりません。お引き取りを」
「エルフの子供が一人で帝都にいるのは危険、我々の保護下のほうが安全だ!」
「今までの言動からあなた方に任せる方が危険だと思うのですがねえ?」
怒涛の舌戦、旦那様はこちらがもっている情報を利用してどんどんと相手自滅を誘い追い詰めていく。
はったりに嘘と事実を混ぜんこんだ弾丸に相手は撃ちぬかれた。
「1商会ごときが信用できるか!」
「ヘルメス商会には外国の重要なお客様が滞在していた実績もありますが。それでも信用がないと?心配ならば毎日お越しになられては?」
どうやら、決着がついたようだ。
相手は怒りを顔をにじませ、手を見るのが痛いぐらいに握りしめているのがわかる。
「引き渡したほうが身のためだぞ」
舌戦で不利と悟ったようだ、今度はあからさまに武力に訴える方針へ変更らしい。制圧棒を職員達が構え始めた。
「へえ、それをここで言うのですか?」
それに対して旦那様は余裕の笑みを浮かべていた。
それもそのはず。わんこが今にも飛びかろうと唸っているうえに周囲のヘルメス商会関係施設から角材をもった従業員が次々と飛び出してきている。
「それにわたくしも結構怒っておりましてよ」
久方ぶりに暴れるべくスカートを破く、おそらくわたくしは今とてもいい笑顔をしているでしょう。
こらこら、棒を落としてはいけませんよ。何で座るのですか?さあお立ちになって・・・こら!逃げないでくださいまし!
「おっ覚えていろよおおおおおおお」
不利を悟った外交職員達は逃げていった。
「旦那様よろしいので?」
「僕はヘルメス商会と名乗ってはいないよ、名乗ったのは名前とこの商会の店主だということだけ」
「なるほど、それにしても流石ですわね」
「はったりありきの話法は、あんまりしたくてないんだけどね」
「さてと、曲がりなりにも公的機関に喧嘩を吹っ掛けてしまったわけだ」
「そうですわね」
「とりあえず、行商にでも向かいますか・・・」
「もちろん方向は南西ですね?」
「その通り、大森林付近の街に向かおうか。もしかしたらエルフの方々に森林の外縁で偶然にも遭遇するかも知れないね」
「まあ、悪い笑顔」
「それじゃ、時は万物にも勝るもの。早速出発しよう」
きちんと商会を従業員に任せ、誘拐容疑などを避けるために行商ルートを伝えておきます。
馬車に交易品を積み込み幼女も座席に座らせ、久方ぶりのお出かけに興奮しているわんこをなだめる。
目指すは大森林最寄りの交易都市。
コースト・レッド




