遭遇
飛行機がフィリピンの空港に到着したのは、午後過ぎだった。この後、宿泊先であるホテルに移動して、夕食を食べる予定だ。明日は、プールやビーチに繰り出す予定だ。泳げるが、椿が嫌がるので授業以外で泳ぎに行ったことはないので楽しみだ。
(いや、流石に俺の水着姿を晒したくないって男心は解るけど……こんなツルペタ、そんな目で見るのは椿くらいだと思うんだけどな)
男の筋肉もだが、俺は女性を見る目も前世の感覚(こちらの欧米系)なんで、全く出ていない訳ではないが――それでも椿か、幼女趣味くらいしか反応しないと思う。大切なことなので、二回言う。
そんなことを考えながら歩いていると、制服姿の集団である俺らに空港に居合わせた人達の視線が集まっては、離れていく。多分、日本の空港で逆の立場だと、俺もそうすると思うからそのことに引っかかりはしない。
……だけど逆にこちらに、と言うか俺に向けられたまま逸らされない視線が気になって、俺は視線の主へと目をやった。
(あいつか)
年の頃は、四十歳前後くらいだろうか? 両親と同じ年代で年上なんだが、前世の俺が生きてたら同じ年くらいなのと、肌の色が前世の自分と同じなんで一方的に親近感が湧く。
肩にかかるくらいの癖のない黒髪を、首の後ろで一つに束ね、中肉中背の体をスーツに包んでいる。浅黒い肌。顔の端正さもだが、首の左側に文様――ではなく、刺青が入っているのも印象的だ。
(フィリピンでは、ボディペイントも含めて刺青を入れてる人が多いって、ネットで見たけど……竜? 派手だけど、似合ってるよな)
そうは思うが、そもそもが日本人ではなさそうな刺青男は俺の知り合いでも何でもない。だから何故、俺をこんなに見つめてくるのかが全く解らない。
内心、首を傾げながらも眺める俺もそんな俺を見返す男も、お互いに視線を逸らさない。何となくだが、目を逸らしたら負ける気がして逸らせなかった。
とは言え、俺の隣を歩いていた椿が、そんなやり取りに気づかない訳はなく。
「何をしている、行くぞ」
「うぉっ!?」
肩と言うか首に腕を回され、物理で視線を外すしかなかった。と言うか結構、強引に引っ張られたので首が痛い。乱暴な椿の態度に、同じグループの志水さんと宍戸君がオロオロするのが視界の隅に見えた。
それでも椿に連れられて歩きながらも、気になったのでこっそり視線を男がいた方へとやると――刺青男の姿はなく、けれど首の痛みが男が夢ではなかったことを教えてくれた。