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第1話 最悪の誕生日

はじめまして!44Pです!

本作を開いていただき、ありがとうございます。

本作は「カクヨム」でも先行して連載中の作品になります。

また、執筆の際のアイデア出しや設定の整理(壁打ち)として、一部AIのサポートを活用しながら私自身が執筆しています。

セラとクリスのファンタジーな日常を、なろうの読者の皆様にも楽しんでいただけたら嬉しいです!よろしくお願いします!

 フラリス王国の朝は、いつも金色の陽光と共に始まる。

 窓の外からは、パン屋が手際よく釜を焼く香ばしい匂いと、通りを行き交う荷馬車の車輪の音が聞こえてきた。冒険者の街『トーファス』は、今日も活気に満ちている。

「……ん」

 安宿の固いベッドの上で、セラ・ウッドベルはゆっくりと目を開けた。

 真っ先に目に入ったのは、枕元に立てかけられた一振りの剣だ。

 装飾のない、武骨な『無銘の長剣』。幼馴染のクリスとお揃いで、初めて手に入れた自分たちの「証」。それを見るだけで、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 今日は、十六歳の誕生日。

 この国では十六歳は成人とみなされる。剣一本で世界を変えようとするクリスにくっつき、平和な世界を作ろうと共に誓ったあの日から、どれほどの月日が流れただろうか。

 顔を洗い、使い込まれた黒い旅装束に身を包む。

 鏡に映る自分は、まだ少年のあどけなさが残っているけれど、その瞳には冒険者としての自負が宿っていた。

「よし! 今日も頑張ろう!」

 宿を出てギルドへ向かう道すがら、多くの人々がセラに声をかけてくる。

 今やセラが所属する【正義の剣】は、若くしてSランクにまで上り詰めた、ギルドの期待を一身に背負う伝説のパーティーだ。

「おはよう、セラ! 今日も精が出るね!」

「おはようございます、おじさん!」

「おはよう、セラ! アンタの好きなオレンジ入ってるよ! 持ってきな!」

「おばちゃん、おはよう! これからギルド行くから、帰りにまた来るね!」

 数多の難題クエストをこなしてきた【正義の剣】は、街の人々にとっての英雄的なパーティーであり、冒険者達の憧れの存在だった。

 あちらこちらからかけられる挨拶に一つひとつ丁寧に返事をしながら、セラの頭の中は仲間たちのことでいっぱいだった。

 豪快な笑い声でいつも場を盛り上げてくれるシグマ。

 いつも太陽のような笑顔で雰囲気を明るくしてくれる、パーティー全員の妹的キャラクター。唯一歳下のセラだけにはやたらとお姉さん風を吹かせてくる。自称・最強魔術師クロエ。自称だが、その実力は紛れもなく本物だ。

 静かに、けれど慈愛に満ちた治癒の魔術で何度も自分たちを救ってくれたノア。聖母のような外面とは裏腹に、心を許した仲間には割と辛辣で、愛のある毒を吐くこともしばしばある。対象は主にシグマだが……。

 そして、サブリーダーにしてクリスの恋人であるマリー。パーティーのお姉さん的存在で、いつも優しく冷静沈着。頭の回転も早く、剣技の腕も超一流で、セラとクリスを唯一本気で叱れる存在だった。

 最後に、何よりも信頼し、背中を預け合ってきた最高の親友クリス。

 パーティー【正義の剣】が結成されてから二年。幼馴染のクリスが成人になった日に共に立ち上げたこのパーティー。

 始めはクリスと二人だけだったが、クエストをこなすうちにマリーが、そしてノアが加入し、シグマとクロエ、最後にオメガが加わった。このパーティーは、誰かがルールとして決めたわけでもないのに、毎年必ずメンバー一人ひとりの誕生日を祝ってくれる。

 たった二年とは思えないほど、彼らは家族のように温かい絆で結ばれていた。

 プレゼントがもらえるのももちろん嬉しい。けれど、セラにとって何より嬉しいのは、皆が自分のことのように心から喜んでお祝いしてくれる、その温かい空間そのものだった。

(みんな、もう集まってるかな。……今日は僕の誕生日だし、少しくらい驚かせてくれるかもしれないな)

 そんな期待を胸に、セラはギルドの二階にある【正義の剣】専用の個室へと向かった。

 冒険者の最高ランク『S』に位置づけられる彼らには、ギルド内でも特別に個室が用意されていた。

 だが、その重厚な扉の前に立った瞬間、セラの足が止まった。

 いつもなら扉の向こうから聞こえてくるはずのシグマの怒鳴り声も、クロエの軽やかな笑い声も、一切聞こえてこない。

 扉の隙間から漏れ出てくるのは、肌を刺すような、冷たくて重苦しい沈黙だけだった。

「……みんな?」

 セラが扉を押し開ける。

「おはよう! 皆!」

 いつものように満面の笑みで部屋に入ると、そこにはメンバー全員が揃っていた。

 扉の左右にシグマとオメガが立ち、真ん中のソファーにクロエとノアが並んで座る。そして扉の正面、団長の席にはクリスが座り、その隣にマリーが立っている。

 配置はいつも通りだ。

 けれど、誰一人としてセラと目を合わせようとはしなかった。

 窓から差し込む光はあんなに明るいのに、部屋の空気は凍りついたように冷たい。

 シグマは腕を組み、険しい表情で床の一点を見つめている。クロエは不自然なほど俯き、指先を小さく震わせていた。ノアはいつもの聖母のような微笑みを消し、無機質な表情でただそこに佇んでいる。

 そして、中央に座るクリス。

 その美しい銀髪が陽光に透けて輝いている。けれど、その瞳に宿っているのは、かつての親友に向ける温かさではなかった。

「……おはよう、セラ」

 クリスの声は、ひどく低く、他人行儀だった。

 その言葉に、セラの心臓が嫌な音を立てて跳ねた。

「あ、ああ、うん。……みんな、どうしたんだい? そんな怖い顔をして」

 おどけて見せようとした声が、自分でも驚くほど震えていた。

 クリスは何も答えず、机の上に一枚の羊皮紙を滑らせた。

 そこには、冷徹な筆致でこう記されていた。

『脱退勧告書』

 その文字を見た瞬間、周囲の音が遠のいていくような感覚に襲われた。

 視線を下にずらせば、見覚えのあるサインが並んでいる。

 マリー。シグマ。クロエ。ノア。オメガ。

 そして、最後の一行には、誰よりも見慣れた、クリスの几帳面な署名があった。

「これ……何かの冗談……?」

 セラは乾いた笑い声を漏らしながら、必死に仲間たちの顔を覗き込んだ。

 けれど、誰も笑っていない。

 十六歳の誕生日の朝、最高のプレゼントを期待して開けた扉の先にあったのは、信じていた家族からの、冷酷な拒絶だった。

「え、クリス? コレって……」

 慌てて視線を戻すが、クリスはすでに顔を伏せ、二度と目を合わせようとはしなかった。

 それは、パーティーリーダーの権限により、特定のメンバーを強制的に脱退させるための書類だった。

 存在自体は聞いたことがあったが、実物を見るのはこれが初めてだ。

 詳細な理由が書き連ねられているようだったが、セラの頭には一切入ってこない。

「……え……コレ……って、」

 思考が完全に追いつかず、気の利いた言葉など一つも浮かんでこない。

 ただ、同じ言葉を掠れた声で絞り出すのが精一杯だった。

「…………」

 しかし、クリスが口を開くことはなかった。

「……そっか。うん、わかったよ」

 何もわかっていない。だが、ここで何か言葉を発したところで、今の状況が変わるとは思えなかった。

 クリスや仲間たちが、こんな悪質なイタズラで自分を傷つけるような人間ではないということだけは、痛いほど理解できてしまったから。

 セラは震える手で羽根ペンを手に取り、勧告書に視線を落とす。

 そこには脱退の理由などが記載されていたはずだが、セラの目に飛び込んできたのは――パーティーメンバー『全員』のサインだった。

 クリスだけではない。【正義の剣】の全員が、セラを追い出すことに同意したという冷酷な事実。

 セラにとっては、それだけで十分すぎた。

 大好きなパーティーから、家族だと思っていた仲間たちから、自分はもう必要とされていない。

 セラは、書類にサインをした。

 ここで自分の名前を書くのは、ギルドでパーティー結成の承認を受けた、あの幸せな日以来だった。

 ペンを置き、再びクリスへ顔を向ける。

 だが彼は、俯いたまま微動だにしない。

「……皆、今まで本当にありがとう。とても……楽しかったよ」

 震える声でなんとか絞り出したその言葉が、ちゃんと音になっていたかすらわからない。

 今にも溢れ出しそうな涙を両目に溜めながら、必死に笑顔を取り繕うのが精一杯だった。

 他のメンバーがどんな顔をしているのか、確認する余裕など微塵もなかった。

 一度でも彼らの顔を見てしまったら、我慢していたものがすべて決壊してしまう。

 逃げるように背を向け、部屋の扉を開ける。

 心のどこかで、クロエやシグマあたりが、あるいはクリスが「冗談だよ!」と笑って引き止めてくれるんじゃないかと、ありえない期待をしてしまった。

 だが、冷たい音を立てて扉が閉まっても、彼を呼ぶ声は最後までかからなかった。

 ギルドのこの部屋から一人きりで出るのは、セラにとって今日が初めてだった。


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