第62話 国民の混乱
ネットでは怪情報が拡散された。
亜細亜太平洋島嶼連邦共和国政府の名で、以下の内容がSNSで発信されたのである。
「我々亜細亜太平洋島嶼連邦共和国は絶対に屈しない。よって、日本政府が降伏するまで、核を含むあらゆる攻撃を実行する。
我が軍は以下の地域を次の核攻撃の目標として定めている。我々亜細亜太平洋島嶼連邦共和国は日本国民の犠牲を望まない。以下の地域の住民の避難をすすめるものである―――」
地域は、内容によって東京や大阪であったり、札幌、高松、岡山など、場所が変わっていた。
また内容によっては全く関係のない焼死体などが貼りつけられたりしていた。
日本の情報当局は亜連から発信された心理戦の一環ともとらえたが、その後内容が改変されていたのは一部のユーザーが勝手に改ざんしたものだと理解していた。
しかし、対象となった地域の住人は、情報に踊らされ、避難を行う者も少なからずいた。
物資の統制も行われつつあったが、政府が生活必需品を確保し、放出は滞るに違いない、というデマが流れた。
各地のスーパーや店舗では買占めが起こり、混乱に陥った。
この鎮圧のため、警察が駆り出され、自衛隊も出動する騒ぎになった。
東京某所の備蓄倉庫に暴徒が押し寄せている。
一時的に止んでいた一般国民と上級国民という言葉が今になって突如として復活した。
ネットでここに生活必需品が集積させられ、『一般』国民の中には放出されず、『上級』国民によって確保されるという噂が飛び交ったのだ。
すでに警視庁機動隊が抑えていたが圧倒的な人数の前で機動隊は圧倒され、進入を許してしまった。
警官は暴力を受け、備蓄倉庫はこじ開けられ、略奪が行われた。
このような事態は、日本人の性格上、現れないとされていた。
それは戦後未曾有の災害のたびに証明されてきたこととされた。
しかし、今は戦争である。まだ継続中であり、しかもいつ、自分の頭上にあの忌々しい核分裂反応が起こるとは限らない。日本に住む人々は等しく死の不安に直面していたのである。
その不安とともに、政府が核攻撃を3度許してしまったことが不信につながり、さらに物流の大打撃がさらに自身の生活の大きな不安となって現れたことがこれを助長した。
明日をも生活できるかわからない、もしかしたら生きているかもわからない、という強烈な不安は、人々を無秩序な略奪に走らせたのである。
その時だった。
銃声が響いた。連射音がいくつも轟く。
出動した陸上自衛隊普通科隊員が空に向けて威嚇射撃を行った。
「全員略奪をやめなさい!」
しんと静まり返った。
そのとき、積みあがった物資の入った段ボール箱の影に隠れて、猟銃をもってきていた暴徒のひとりが、実弾を装填して、自衛隊員らに向けた。
その前に自衛隊員らが危害射撃。暴徒に実弾が次々と命中。横の物資の段ボール箱にもあたり、中にあったミネラルウォーターが段ボールから漏れた。
ミネラルウォーターが、絶命した暴徒の亡骸から流れる血を洗い流していった。




