第60話 覚悟
1月15日 昼
閣議。
統幕長出席が『龍の角』作戦に一通り説明した後、閣僚たちの感情は揺さぶられた。
ある者はその作戦計画に驚愕し、ある者は拒否反応を示し、ある者は消極的に肯定し、そしてある者は積極的に肯定した。
「その……」
しばしの沈黙の後、やっと口を開いたのは額が広がった、肥えた農水大臣だった。
「統幕長は、その作戦が遂行されたとして、被害はどのくらいになると、推測されますか?」
「先にも申し上げました通り、AからDのプランにわかれています。あくまで私の個人的見解ですが、最も限定的なAプランでも数百、最も規模の大きなDプランでも数千の犠牲が出ると思われます」
「数千!」
環境大臣が思わず叫んだ。
「はっ、あくまで個人的な見解です。また、当然でありますが、現在の自衛隊で可能な作戦行動を計画しています。とはいえ、自衛隊はあくまで国土防衛を主任務としています。例えば1個連隊、1000名程度や護衛艦数隻程度の海外派遣の実績はありますが、自衛隊は海外での大規模作戦行動の実績はなく、またそれを本格的に実行することを想定して運用はされていません」
「だが」
杉田総務相が腕を組んで、言いたくなさそうに話す。
「浜松、甲府、船橋……この原爆攻撃で、死者数は80万を超えた。重軽傷者は200万。戦後日本で、これだけの被害を出した出来事はない」
それだけではありません、と二宮防衛大臣は言った。
「通常弾頭による攻撃や東京での戦闘被害もあります。自衛官もすでに2000名以上の犠牲者が出ています」
「これ以上の犠牲者を出さないためにも、亜連の軍事力は徹底的に……最低限でも日本への攻撃能力を壊滅させる必要がある」
経済産業大臣が強く主張した。
この間、鈴木総理は口元に手をあて、深く考え込んでいた。もちろん一言も発していない。
「総理」
経済産業大臣は総理をみて言った。
「我が国は人的にも、産業的にも、大打撃を受けています。この戦争に早く終止符を打つ必要があると考えます」
総理は頷く。
「私もその気持ちはわかります。しかし、核攻撃を仕掛けていた侵略者が、本土攻撃を仕掛けてきたところでさらなる核攻撃を行う必要があります」
そして、総理は外務大臣代理を見た。
「講和の様子はどうなっていますか?」
外相代理は答えた。
「依然、亜連はあらゆる交渉を拒んでいます。一部の要人が極秘裏に、我々と接触してきていますが、いずれも望みは薄いです」
総理は腕を組んだ。
そして思った。
こうして悩んでいるうち、考えているうちに事態は悪化していく。
それはこの戦争がはじまる前もそうだったではないか。
現行法や憲法、国内世論、国際世論としてはどうなんだろうか……しかし、考えている時間はない。こうしている間にも、第4、第5の核攻撃の準備は進んでいるかもしれない……。
「皆さん」
総理は言った。
「私達の現状は極めて深刻です。可及的速やかに行動に移す必要があると考えます。しかし、私の決定は……」
総理は何かを言いかけて、止めた。
そして、再び言った。
「私達内閣はどのような責任でも負う覚悟は必要です。皆さん閣僚には私とともにそれを背負っていただきたい。無論、最も大きな責任を負うのは私です。ですが、皆さんも閣僚である以上、申し訳ありませんがご覚悟を」
閣僚たちは、おのおの頷いた。
それをみて総理は決断した。
「『龍の牙』作戦のプランDを実行に移してください」




