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嘘斬り姫と不死の怪物  作者: Hiro
嘘斬り姫
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第一章 最終話

 だがしかし、レーヴェストの放った光輪はトールに届く前にかき消される。

「なにっ」

 渾身の魔術の不発に動揺するレーヴェスト。魔術を失敗したのではない。発動した魔術を何者かにかき消されたのだ。それは並の力量ではできることではない。

 そんなレーヴェストとは裏腹に、トールは何が起こったのかを把握していた。

 遅まきながらにやってきた相棒に声をかける。

「スミおせーぞ」

 トールの視線の先には、四肢を大地につけた一角獣の姿があった。

「これはどういうことだレーヴェストよ。貴様は娘を迎えに来ただけではないのか」

「これはこれは一角獣殿。私は救出を拒む魔物を追い払おうとしただけです」

 レーヴェストは冷静さを取り戻し、スミに弁解をする。この場でトールだけでなく、スミとまで対立することは避けたかった。

「その男を傷つけたことはどうでもいい。だが、話もせぬまま別れるというのは、やはり互いに心残りになろう。すまぬがアヴェニールと別れを告げさせてもらえぬか?」

 スミは疑いの籠もった声でレーヴェストに問う。

「それは……できかねます」

 スミをどうするか躊躇するレーヴェスト。彼の魔術を打ち消したスミの魔法は並の力ではない。トール一人なら力尽くで突破できると思っていたが、さすがにスミほどの力量の相手と連戦をするのは想定外だ。

 しかし、スミは逃げ腰なレーヴェストに逃がす気はないと宣言をする。

「そうか、ではこのような言い方は流儀ではないのだが……力尽くでいかせてもらう!」

 スミが額の角に意識を込めると、強い光線が放たれる。

 レーヴェストはとっさに服の隙間から、左腕に描かれた魔術文字をさっとなでる。すると、瞬時に魔術障壁が張られスミの攻撃魔法を防ぐ。魔法の余波があたりに被害をもたらすが、レーヴェストの身体には傷一つついてなかった。

「魔術は人がその技術をもって魔法の力を真似たもの。しかし、魔法の力こそがオリジナルだとしても、人の技術はそれをも上回るのですよ」

 レーヴェストの言動は虚勢であったが、魔法を主体として闘うスミにはそれは有効に思われた。魔法さえ防いでしまえば、一角獣の身体で行える攻撃は体当たりか、後ろ足による蹴りだと考えたのだ。どちらもレーヴェストには脅威にならない。

 レーヴェストの思惑どおり、スミは魔法によるレーヴェストの攻略を選択から外す。だが、それはレーヴェストに有利な状況になったわけではなかった。

「笑止、その程度のことで調子にのるな!」

 スミの身体が光に包まれると白い馬体は消え、波打った髪の隻眼の男がその場に現れる。

 男は体格に恵まれた身体を純白の金属鎧で覆い、さらには一角獣の意匠がほどこされたサーベルを右手に構えている。

 男は手に下サーベルで鋭い突きをくりだす。

 レーヴェストは辛うじてそれを『確殺』で受ける。すると剣同士が反発しあうような嫌な音が響いた。

「速いっ。それになんだその剣は。魔具を拒むとは……聖剣だとでもいうのか」

「よくぞ我が一太刀をしのいだ。しかし脆弱!」

 続けて放たれた一撃も辛うじて受けるレーヴェストであったが、豪腕を受け止めた手にはしびれが走る。

「(なんということだ、この私がたった二太刀で追い込まれるとは)」

「レーヴェストよ、アヴェニールをさらい、何を目論んでいる!」

「(くっ、もっと迅速に行動していれば)」

 スミの問いには答えず、自らの行動の緩慢さを悔やむ。もっと手早くアヴェニールを捕まえていれば、こんな状況に陥ることはなかったろうと。それでも彼はアヴェニールを諦める気はなかった。

「その剣筋、正規の訓練を受けたものだな。魔術師でありながら、正規の剣術も扱えるとは随分と良い育ちのようだな」

 スミが剣を交えながらにレーヴェストの素性を探る。

 魔術を極めるには素質の他にも長い時間が必要となる。レーヴェストほどの若さで修めるには並大抵の努力ではなかったろう。更には魔術書や道具を得るために大量の資金も必要となる。そこから剣術まで覚えようとするものはおらず、ましてや両方を一流の域まで高めるのは困難を極める。

 それを考えればおのずと出自は限定される。

「それはこちらの台詞ですよ。あなたこそ何者です。一角獣に化け、魔法を使う人間など聞いたことがありません」

 軽口を叩きながらもレーヴェストは焦っていた。

 一度は魔法を防いでみせたとはいえ、もう一度防げる保証はない。それでいてこちらの魔術は問答無用で防がれる。剣術も手にした剣の力も相手が上だ。このまま策もなく戦い続ければ、負けるのはレーヴェストのほうである。

「(この男には岩鬼人のような馬鹿げた回復力はないハズ。ならば『八頭蛇』を使えば。だが、持ち替えてはこちらも剣撃を防ぐことができなくなる。どうする!?)」

 レーヴェストの迷いを読み取り、スミが渾身の一撃を放つ。辛うじて攻撃を受けるレーヴェストであったが刀身にヒビが入る。

「しまっ」

 さらにバランスを失ったレーヴェストに、スミが追い打ちをかける。

 しかし、その剣はレーヴェストの胸を貫く直前で動きを止めた。剣の先にはアヴェニールが封じられた水晶がかけられていた。

「アヴェニールっ」

 そこに彼女を見つけたスミが動揺する。

 気づかずあと半歩踏み込んでいたら、彼女を傷つけていたかもしれない。

 レーヴェストはスミにできた刹那の隙をみのがさなかった。

「『蜘蛛の投網(スパイダーネット)』」

 手早く詠唱を終えると、魔術の投網でスミの動きを封じる。

「彼女をどうするつもりだ!」

 魔法の網から抜けだそうとするスミだが、それは容易ではなかった。

「別に命を奪おうというわけではありません、その力を借りるだけですよ」

「力だと!?」

「この地にいるあなたたちにならわかるかもしれませんね。ですが、それに私が応える理由はない」

「(まさかこの者はあれを行おうというのか)」

 服の隙間から、鎖骨のあたりをなぞると、レーヴェストの身体が宙に浮く。

「では、こんどこそ」

 夜空に消えようとするレーヴェストをまだ追う者がいた。

「ちょっとまったぁ!」

 それは天使の羽(エンジェル・ウィング)を装備したトールだった。足から大量の血液を流したまま飛翔する。

「まだ来ますか、しつこい! しかし、直線で来るとは愚かな!」

 レーヴェストの魔術に構わず、トールが水晶めがけて手を伸ばす。しかし、それよりも先に光輪の魔術が完成する。

「『光輪』」

 レーヴェストの手から放たれた光の輪は、こんどこそそれはトールの身体を引き裂いた。

 だがトールの勢いに押されたレーヴェストは、狙った頭を外してしまう。それでもトールの肩から胸までを引き裂き、背中の魔具までも破壊する。

 千切れかけた腕を懸命に伸ばすが、重力は彼の身体を離しはしなかった。

「アヴェニーーール!!」

 トールの絶叫が色のない森にこだまする。

『第一章、嘘斬り姫』を読了いただき、まことにありがとうございました。

第一章はここまでとなります。わずかでも楽しんでいただけたなら幸いです。

第二章以降の投稿は現在未定となっておりますが、なるべく早い時期の投稿をめざしたいと思います。


なお、ご意見・ご感想などありましたらお気軽にどうぞ。

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