数に勝る力
砂漠を越えると目の前に山岳地帯が姿を現した。
ここは大陸の南の端。ケイは足を止めて、辺りを見渡していた。
ケイの言っていた遺跡がこの近くにあるのだろうか?
目の前には山々が連なっており、山を越えたところには海が見える。
「この近くなのか?ケイ?」
俺は心配になってそう訊いてみた。
ケイはこちらを見て微笑みながら答えた。
「ああ。すぐそこさ。」
ケイが指差す方向を見てみると何やら拓けた場所が見えた。
「多分そこだろう。昔と場所も変わってないし。」
「そうか。じゃあ行こうぜ。」
「おう。」
少し歩くと一帯が人工的に掘り返された場所に出た。
その中心には何やら建造物が建っていた。
「これが遺跡?」
「ああ。」
俺は砂に埋もれたその地下への入口が恐ろしくも思えたが、
得体の知れない高揚感も芽生えた。
辺りを見渡すとぼろ切れの様なテントがあるのに気が付いた。
「ケイ。あれって・・・。」
「・・・人の気配がしないな。もう使われていない様だ。」
俺とケイはテントに入った。
テントの中には色々な道具がごちゃごちゃに積み重なっていて、足の踏み場が無い。
長い間使われていない様にも見えるが荒らされた後にも見える。
そこら辺を見てまわったが、特に有益な物は無かった。
「特に何も無いな。」ケイはこちらを見ながら呟いた。
「ああ、そうだな。じゃあそろそろ出ッ・・・。」
「何だ!君達は!」突然、外で次郎が叫ぶ声が聞こえた。
俺とケイはほぼ同時に声のした方に走った。
外に出ると俺達を囲む形で、5人の男が立っていた。
重そうな鎧を着た戦士、どこかの国の元兵士、魔術師風の男と人や善さそうではあるが
目に光が無い僧侶、そして多分、リーダーであろう金髪の男が目の前に立ちはだかる。
その真ん中に立っていた金髪の男が前に出てきた。
「よう。アンタ等、冒険家だな?」
「それより俺達の質問に答えてもらおう。」
ケイは冷静に質問を返した。
「悪いが答える気はねえな。お前等に質問する権利もねえ。
命が惜しけりゃそうだな・・・。」
金髪の男は不気味な笑みを浮かべた。
「その女を渡してもらおうか?」
「げへへへへへ・・・!」
周りの男達の下衆な笑い声が響いた。
「・・・・・・・・・・・。」
「その期待には答えられないな・・・。」
そう言うとケイは剣を抜こうと腰に手を添えた。
「ケイ。ちょっと待ってくれないか?」
次郎はケイの手を押さえた。
「どうした?次郎?」
次郎は押さえてた手を退けて、その手で自分の腰に付けている剣を抜いた。
「どういうつもりだ?」
金髪の男は睨みながら言った。その周りの男共も身構えた。
「ここは俺に任せてくれ。」
何を言ってるんだ・・・?次郎?大人5人相手に一人で戦う気なのか?
俺は突然の事に声が出なかった。それにこの状況下で俺が発せれる言葉も
見当たらなかった。
次郎の言葉を聞き入れたのか、ケイは腰に当てていた手を解いて答えた。
「・・・分かった。」
俺は状況が全く把握できないまま、目の前で起こっている事をただ呆然と見ていた。
次郎が一歩前に踏み出すと、鎧を着ている男が叫んだ。
「あぁ!?野郎には用はねえんだよ!!」
「どうやら、こちらの要求を飲めないということらしいな?
ならば、それ相応の対応をさせてもらおうか。」
「どこの世界にも居るもんだな。こういう奴等が・・・。」
次郎はため息を吐きながら呟いた。それに対して兵士の男が次郎に刃を向けた。
「有利か不利かも分からねえとは都合の良いカモだぜ!!」
兵士は思い切り剣を次郎へと振りかぶった。危ない!俺は心の中で叫んだ!
兵士の放った斬撃は空を切る様に次郎の股下へと下りた。
俺は次郎が真っ二つになっている様が脳内に浮かんだ。
しかし、よく見ると次郎には傷ひとつ付いていなかった。
「何!?」
兵士は慌てて地面に刺さっている剣を引き抜いた。
俺も兵士と同様に驚きを隠せなかった。一体何が起こったっていうんだ!?
「有利不利が分かっていないのは君達だと思うがね。」
「んだとッ・・・!」
次郎が剣を構えた瞬間、兵士は何かに押されたかの様に仰向けに倒れた。
「何だ!?」
さっきから何だ・・・?次郎は動いてもいないのに兵士が突然倒れた?
他の4人の奴等も唖然としていた。俺と同様、状況が理解できていないようだ。
「ケイ!これはどういう事なんだ?」
「・・・う~む。俺にも分からん。」
「え?」
ケイはまじまじと次郎を見つめていた。アルベールも戦いの様子に釘付けの様だ。
ケイにもアルベールにも解らない?となると、俺が理解できないのは当然の事だな。
一瞬固まった空気が再び動き始めたかの如く、金髪の男が話し始めた。
「調子に乗ってもらっては困る。こっちは5人も居るって事を忘れてないか?」
「さっさと降参したらどうだ?それとも本当に死にたいのか?」
「君達に分かってもらえるまで私はどんな脅しにも屈するつもりはない。」
「・・・そうか。お喋りが過ぎたな・・・。やれ!お前等!!」
金髪の男が合図をすると男共は次郎に向かって一斉に攻撃を仕掛けた!
絶体絶命だ!!と俺は思ったのは、ほんの一瞬の事となった。
兵士の放つ斬撃は魔術師の男を斬り、重戦士の大斧が僧侶を切り裂いた。
魔術師の放った炎魔法が金髪の男に直撃し、僧侶の鈍器が兵士へと振り下ろされる。
そして、最後に金髪の男の剣から放たれた強力な突きが重戦士の鎧を貫いた。
今一度に起こった事を俺の古ぼけた脳で整理すると・・・「同士打ち!?」
俺はとっさにこの言葉が口から漏れた。
一瞬の出来事過ぎて、俺とケイとアルベールの三人は言葉を失った。
目の前には無傷の次郎が立っているのと男達の断末魔が響いてるだけだった。
金髪の男は立ち上がり体勢を立て直した。
「くそ!まさかこんな猛者がこの遺跡に来るとは・・・!」
俺は我に返り、再び状況を把握しようと頭を働かせた。
次郎に向かって放った5人の攻撃を次郎がどうにかして避けた事によって、
次郎に当たるはずだった攻撃が反対側に立つ人間に当たってしまった。
結果的に同士打ちという形になった。
待てよ・・・。5人いるのにそんな都合よく、同士討ちになる立ち位置だったか?
もしかしたら、次郎が何かしたんだろうけど・・・。
「さて、一つ聞いていいかね?」
「何だ・・・?」
「君達は何故?遺跡の前で人を襲っているのかね?」
次郎は金髪の男に問いた。
「フフフ・・・。考えりゃアンタだって分かるだろ?
危険な遺跡に入るよりは、無謀な冒険者達を襲った方が、安全かつ確実だろう。」
金髪の男は息切れを起こしていながらも流暢に話した。
「成る程な・・・。遺跡に向かうために揃えた道具や装備やらをお前等が奪うと。」
ケイは納得した様子で腕組みをしている。
「その通りよ・・・。さて、正直に答えてやったんだ。見逃してくれるだろ?」
「ちょっと待ってくれ、まだ聞きたいことがある。」
次郎は続けて、質問をぶつける。
「この大陸で起こっている事件。お前等が関係しているのか?
今この大陸では、冒険者達の消息が絶たれる事件が多発しているだろ?
お前等がここを襲って人を・・・。」
「待て、その事件と俺等は関係ねえ。第一、俺等は人を殺してなどいない。」
質問の途中で男は食い気味に答えた。
「良いか。今この大陸で起こっている事件に関わるな。特に外から来た奴はな。」
男は不敵に笑った。その笑みに俺は寒気を憶えた。
「お前がこの事件に関係してないのは分かった。だが、俺はこの事件の調査を
やめる訳にはいかないんだ。」
ケイは金髪の男に向かってそう言った。
「そうかよ。そろそろ行かせてくれないか?」
男は一刻も早くこの場から立ち去りたい様だ。
「私は君達を許した訳じゃない。今度会った時には手加減しないぞ。」
「肝に銘じておこう。」
男はそう言うと足早に去っていった。
仲間を置いて一人だけで逃げる所を見ると、ここに気絶して残った4人との
結束力はさほど強くは無さそうだ。
「さて、俺達は遺跡の調査に行こう。
こんな所で無駄な体力を使ってる暇はないからね。」
次郎はそう言うと、遺跡の入り口へと進もうとした。
「次郎。」
遺跡へ向かおうとする次郎をケイは呼び止めた。
多分、思ってることは俺と同じだろう。
「どうした?」
ケイは気絶した倒れた4人を指差しながら言った。
「こいつ等を相手する時に何をしたんだ?」
次郎は頭を掻きながら話始めた。
「説明には時間が掛かるんだ。今は説明より遺跡の調査が先決だろう。」
次郎はそう言うと遺跡の入口へと降りて行った。
「どう思う?ヒロ。」
「え?」
突然の俺にフラれたので驚いた。この場合、アルベールに訊くのが定石だっただろ?
と思い、アルベールの方を見たが、そこには誰もいなかった。
気付けばアルベールは次郎と同様、遺跡の入り口へと歩いて行っていた。
とりあえず、俺はケイの問いに答えた。
「ケイが分からないなら俺にはさっぱりだよ。」
「そうか・・・。」
ケイは顎に手を当てながら歩き始めた。
「まずはこの事件を解決するのが先決か・・・。」
ケイはそう呟くと次郎達がいる入り口の方へと歩いて行った。
俺は次郎の事も気になったが、事件の話を出した瞬間の・・・。
あの金髪の男の様子が明らかにおかしくなったのが、どうも気になった。
外から来た奴は事件に関わるな。とか言ってたな。
「・・・・・・・・・・・・。」
ダメだ!全然分からん!俺の頭で考えられる事は何もないな。
とりあえず、俺はケイの後を付いて遺跡の入口へと進んだ。
色々と解らない事ばかりだ・・・。




