11.夜勤の開始
「今日からはお前達、夜勤な」
「「「はい!」」」
「夜勤?」
質問したのは俺だけだった。
他の人たちは聞き分けている。
「そうだ。夜のお姫様の護衛だ」
「お姫様っすか!? 咲月さん以外にお姫様なんて居るんですか!?」
ちょっと黙ってた方がいいんじゃないですか?
蓮さんイタイこと言う時あるからなぁ。
咲月さん困って……ないな。
なんかクネクネして照れてる?
この人たち何なんだろう。
「知らん。キャバクラ嬢の護衛だから夜になる。ヘタに金があるから出勤から退勤の間まで付いてないといけない」
「はぁ」
「いい太客だねぇ」
よしさんが上機嫌に言う。
きっとキャバクラ嬢の護衛だから機嫌がいいんだ。
可愛い女の子が横にいるから。
「そうなんだよ。これが成功したら定期的に来るかもしれねぇぞ。心してかかれよ?」
「「「「はい!」」」」
◇◆◇
頑強そうな扉が開くと、僕は最敬礼で出迎えた。
「おはようございます!」
僕は優雅に礼をする。
出迎える係は咲月さんにしようかと思ったんだが。
過去にコンビニのバイトをしていたんだ。
それを話したら接客業やったことあるのが僕だけだということで抜擢された。
コンビニでは、厳しい店長だったから、そこらの執事よりしっかりと教育されたんじゃないだろうか。
礼の角度から言葉まで優雅な動作も指導された。
「おぉー。凄いわ。ちゃんとしてる人ね」
「この度は弊社を採用頂き有難う御座います。何なりとお申し付け下さい」
実は、女性耐性がないので、緊張している。それを感じ取られないようになんとか頑張っているんだ。
「ふふふっ。えぇ。宜しくね。移動は?」
「お車をご用意しております」
「準備がいいわね。案内して貰おうかしら?」
「こちらでございます」
一階のエントランスの前で止まっている車まで案内する。
そう言うからにはそれなりに現在地が高いわけで。
今は地上五十二階の高層にいる。
所謂、タワマンですな。
誰に買ってもらったマンションなのかは知らないが。
かなりの資産家がこの女性の虜になっているんだろう。
着飾っているドレスも煌びやか。
髪は落ち着いてるんだ?
「今から髪をセットしに行くわ。その間もお願いできるのよね?」
「はい。ここへお帰りになるまで付いているようにと言われております」
「そう。宜しくね」
下についてエントランスでよしさんと合流する。
二人で前を警戒しながら車の後ろに女性を乗せる。
一緒に後ろへと乗り込む。
「蓮さん、髪をセットに行くそうです」
「どちらになりますか?」
蓮さんの仕事仕様の話し方は初めて聞いた。
ちゃんと話せるんだな。
「この先の通りを進んでラーソンを左に曲がって進んだところの角にエンジェルっていうサロンがあるわ。そこよ」
「かしこまりました」
窓の外を眺める。
帰路に着くサラリーマン。
今から遊びに行くであろう若者。
腕を組みながら歩くカップル。
「あら? ミクちゃん今日は同伴なのね。良かったわねぇ」
隣の女性が何やら呟いている。
今見たカップルは客とキャバ嬢だったようだ。
この辺の店だから歩いて向かうのか。
この女性はそんな事もする必要が無いくらいの地位にいるのだろう。
「着きました」
ドアをスライドさせて辺りを警戒しながら降りる。
降ろそうとしたが。
「おっ! エレナちゃーん! ぐうぜーん!」
さっと斜め前へ出て警戒する。
男性と依頼人の中間に位置するように、しかし視界を遮らない様に位置取る。
何時でも対応できるように自然体ながらも構えた。
「あらぁ。専務さーん。またいらしてねぇ」
「俺もまた行きたいよぉ。また相手してねー!」
手を振って去っていく。
チラリとこっちに目を向けた目には嫉妬のような感情が混ざっていた。
そうか。
僕たちが近くで護衛をしてるというだけで。
近くにいるというだけで嫉妬されるのか。
このエレナさんにはそれだけの魅力があるということなんだな。
まぁ、それは否定できない。
店の中に案内して店の中で少し後ろに立つ。
エレナさんの髪が盛られる姿を見ながら周囲を見渡す。
この店で入口から入ってきたら裏口に逃げるしかないか。
正面からきたら取り押さえて裏へ連れて行き、正面から逃げた方がいいか。
車があるからな。
横にいるよしさんも同じことを考えているのかキョロキョロとしている。
「はい! できたわよん!」
中性的な感じの人がセットを終える。
この人がうまいのだろう。
たしかに見違えるように華やかになった。
「どうかしら?」
「闇夜に煌びやかな蝶が舞って輝いているように華やかでございます」
僕の中の精一杯の言葉で褒めてみる。どこかのホストがこんなこと言っていた気がして、マネて口に出してみたんだけど、気に入って貰えただろうか?
「ふふふっ。あなた、お名前は?」
「亮、と申します」
「私の源氏名はエレナだけど、本名は恵美っていうの。地味でしょ?」
「いえ。素敵なお名前だと思います。可愛らしくて。華やかな今のお姿はエレナ様なのでしょうが……」
少し上目遣いでこちらを見る。
「ふふっ。普段の私も見たい?」
少しドキッとしてしまった。
こういう仕草に男は心を掴まれるのだろうな。
恐い恐い。
「私には勿体ないことで御座います。準備が出来たのなら行きましょうか」
俺は誤魔化して外へ案内した。
また警戒して車に乗せる。
乗っている間は基本、無言なのだが。
「ねぇ、亮、彼女とかはいるの?」
「いません」
「えぇー。仕事忙しい?」
「まだ入ったばかりなので忙しいのかどうかも今の所は分かりません」
素っ気なく返事をするが。
流石はナンバーワンキャバ嬢。
メンタルが鋼だ。
「ねぇ、私が休みの日も護衛してくれるのかしら?」
チラッとよしさんを見る。
ニコニコしていたよしさんが口を開いた。
「指名して頂いて、料金をお支払いしてくれれば可能でございます」
よしさんは優しくそう口にする。
僕は、その言葉を言ってほしくなかった。
灯以外の女性と一緒にいるなんてなるべくしたくないのに。
「そう。……亮を護衛につけてってお願いすればできるのかしら?」
「可能でございます」
「ふーーーん」
何かを考えているような含んだ顔でニヤニヤしながらこちらを見るエレナさん。
なんか、嫌な予感がするんだけど……。
その後、嫌な予感は的中することになる。




