1.復讐への一歩
現代社会に突然変異が起きた。
ある者は火を操り、ある者は稲妻を放った。
それは異世界に迷い込んだようで、夢のようだと歓喜する人で溢れた。
人は魔法が使えるようになったことで力を得た。
すると、人は力を振いたくなるものだ。
その結果、今の世は強盗、略奪など治安が悪化して混沌としている。
だが、みんなが魔法を使えた訳では無い。
使えないものは無能と呼ばれていた。
大切な人が目の前で殺された。
魔法により、体の至る所が切り裂かれたのだ。
血が舞う中、僕はあのとき手を伸ばすこともできなかった。
あの魔法犯罪者はまだ捕まってはいない。
野放しなら、僕が殺すまでだ。
絶対にあの頬に火傷のある男は殺す。
強くなるために、この護衛会社の門を叩いたんだ。
僕は、面接のための雑居ビルの一室に来ていた。
外はボロボロなのに、中は妙に新しいしセキュリティがしっかりしている。
「で? 何でうちに?」
僕に向かい合っているガタイのいいスーツの男が片眉を上げて問いかけてきた。
答えは決まっている。
「僕の大切な人が目の前で殺されました。人を守れるようになりたい。そう思いました。もう、大切な人を失いたくないので」
「うーん。なるほど。武術とか、格闘技とか、スポーツとかしてたことある?」
「いえ。何も。高校は帰宅部でしたし」
その人は眉間に皺を寄せて頭に手を当てて俯く。
普通は戦う術があって、こういう所に勤めるんだろうからなぁ。
「はぁ。社会人経験は?」
「あります」
社会人としては、ちゃんとしていると思う。
「どんな仕事?」
「コンビニです」
向かいに座っている人の眉がピクリと動いた。
「あぁ。アルバイト。他には?」
「したことないです」
沈黙がしばらく続く。
アルバイトは、社会人経験っていわないんだっけ?
いや、ちゃんと社会人だよね。
「魔法は?」
「使えません」
「帰っていいかな?」
再び頭を抱えるスーツの男。
下を向きながら「でも、人手は欲しいしなぁ。育成まで時間かかるし、最後まで頑張れるとも限らないし……」何やらブツブツ言っている。
「あっ、今から実践で試験してもいい?」
「えっ? どんな試験ですか?」
「俺と戦うんだ」
その言葉を聞いて血の気が引いた。
喧嘩もしたことないのにそんなの無理だよぉ。
どうしよう。
でも、大切な人を守りたいと思う気持ちは本気だ。
どうなるかわからないけど、本気で立ち向かってみよう。
諦めちゃだめだ。
あれ以来、失意のドン底に居た僕は何も出来ずに過ごしていた。
灯と付き合いだしてからは、仕事しなきゃってアルバイトを始めて。
どうにか頑張って二人で生活できるようになった矢先だったんだ。
そんなアルバイトしかできない僕の隣で灯は笑顔でいてくれた。
「頑張ります」
立ち上がると少し広いマットの敷かれた訓練部屋のような所へ案内された。
ここは都内のビルだが、ワンフロアをこの会社が使っているようだ。
「少し身体を温めるぞ」
スーツの男はそう言うと上着を脱いで身体を動かし始めた。
僕も、一緒に運動を始める。
屈伸をして膝を伸ばし、アキレス腱を伸ばす。
怪我だけはしないようにしよう。
ただ頑張るしかない。
「よし。じゃあ、かかってこい」
スーツの男は両手を自然な形で前に出して構える。手は少し軽く握るくらいにして。
拳で殴る構えでは無い。
何もしてこなかった僕には、突進するくらいしかなかった。
「行きます!」
両手を開いたままスーツの男に突進していく。
頭を抑えられてマットに叩きつけられた。
「こんなものか?」
腕に力を入れて立ち上がると、スーツの男を睨みつける。
僕にだって信念があるんだ。
やるんだ。
「うおぉぉぉぉ!」
また突進していった。
手を差し出されたので、首を振って避ける。
そのまま腰にタックルをかました。
ただ、痩せている僕が突進しても大した衝撃ではなかったようだ。
腰へ衝突してもビクともしないスーツの男。
踏ん張って押そうと踏ん張るが、無駄なようだ。
精一杯再び力を入れた時、視界がグルンと回った。
背中からマットに投げられて呆然とする。
簡単に投げられた。
こんなんだから、誰も守れないんだ。
僕が情けないから……。
灯の最後の姿が思い浮かぶ。
「どうした? 諦めるのか?」
その言葉は、僕の闘志に火を点けた。
諦められない。
灯を葬った奴に報いたいんだ。
灯を殺したあいつ。
あいつだけは許せない。
絶対に殺す。
「ぐぉぉぉぉ!」
また突進していく。
今度はガッチリ受け止められた。
だが、終わりじゃない。
必死に足を掴んでいく。
それは予想外だったようで、バランスを崩した。
スーツの男が笑っている。
「うーん。力は無いけど、根性はあるし。諦めない心はあるんだなぁ」
しばらくの沈黙の後、男は口を開いた。
「君さ、最後に殺気を感じたんだけど、何を考えてた?」
「……」
僕は、答えられなかった。
だって、人を殺したいだなんて言ったら、雇ってもらえないと思ったからだ。
「答えられないと……」
「大切な人を守りたいと思っているのは、本当です」
「たしかに……うちのキャッチコピーは"大切な人を守りませんか?"だけどなぁ」
顎に手を当てて考え込んでいる。
こんなに力のない奴をどうしようかとか考えているんだろうか。
求人情報に記載してあったホームページを見た時にデカデカと書いてあった謳い文句だ。
まさしく僕はこれをみて、力が手に入るかもしれないと思い応募したんだ。
「あぁ。そういう事。うん。でも、やる気はあるし、殺気はちょっと気になるけど……鬼のように鍛えれば───」
何やらまたブツブツと呟いている。
いきなり目の前に人差し指を立てる。
中指なら立てられたことあるが……。
「舘 亮。君を我々の身辺警護会社、イージスに迎え入れよう。しかし、条件がある」
「条件……ですか?」
「一年。一年で我々と同格になるまで逮捕術を学んでもらう。死ぬ気で鍛えるんだ。いいな?」
「わかりました。よろしくお願いします」
「俺はイージスの社長。白石 護だ。以後、よろしく」
固く握手を交わす。
こうして、僕は力を手にする第一歩を踏み出した。
人を殺す力をつけるために。




