↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星喰らいの王  作者: のあずぅあーくぅ
13/54

第七章 黒星の残業 1

翌朝、学院には妙な静けさが漂っていた。


昨日の戦闘の噂は、夜のうちにほとんど全ての生徒へ広がっていたらしい。食堂へ向かう廊下でも、訓練場へ続く中庭でも、ノアへ向けられる視線が増えている。


銀色の瞳。


黒星。


異常な戦闘判断。


そして、星教会の騎士すら圧倒したという噂。


もちろん誇張も混じっているだろう。だが、それでも周囲の空気が変わったことだけは確かだった。


「……面倒だな」


ノアは小さく呟き、視線を避けるように歩く。


だが、その直後。


「おーい、銀目!」


聞き慣れた声が飛んできた。


アークだった。


朝から妙に元気な声を響かせながら、片手を振って駆け寄ってくる。


「また勝手にどっか行こうとしてただろ!」


「別に逃げてたわけじゃない」


「いや絶対逃げてた!」


アークは笑いながらノアの肩を叩く。


その後ろから、セシリアとルナも歩いてきた。


セシリアは相変わらず無表情だが、どこか周囲を警戒しているようだった。ルナは少し困ったように笑っている。


「朝からすごい視線ですね……」


「見世物じゃないんだけどな」


ノアがそう返すと、アークは豪快に笑った。


「でも実際すげぇからな、お前。昨日の最後とか見たか? 完全に相手の動き読んでたぞ」


「読んでたんじゃない。予測してただけだ」


「それを普通は読んでたって言うんだよ」


くだらないやり取り。


だが、その時間は不思議と落ち着いた。


昨日までの張り詰めた空気が少しだけ緩む。


ノアは仲間たちの横顔を見ながら、胸の奥の黒星を意識した。


脈動は、まだ続いている。


以前より静かに。


だが、確実に。


まるで何かを待っているように。


「……どうしたんですか?」


ルナが不思議そうに覗き込む。


ノアは視線を逸らした。


「いや。少し考え事をしてただけだ」


完全な嘘ではない。


だが、本当のことも言っていない。


黒星については、まだ分からないことが多すぎる。


なぜ自分の中に存在しているのか。


なぜ戦闘中だけ異常なほど思考が加速するのか。


そして――なぜ最近になって脈動が強くなっているのか。


考えれば考えるほど、不気味だった。


訓練場へ向かう途中、ノアはふと足を止める。


視線。


誰かが見ている。


ノアはゆっくり振り返る。


二階の渡り廊下。


そこに、一人の少女が立っていた。


長い黒髪。


白い制服。


細い指先。


そして、こちらを真っ直ぐ見下ろす金色の瞳。


イリスだった。


「……」


視線が合う。


だが、彼女は何も言わない。


数秒の沈黙。


その後、イリスは静かに踵を返し、姿を消した。


「……なんだ?」


アークが首を傾げる。


「いや」


ノアは短く返した。


だが、胸の奥では黒星がわずかに脈打っていた。


嫌な感覚だった。


まるで、何かが近づいているような。


訓練場へ到着すると、すでに多くの生徒が集まっていた。


今日は通常訓練ではない。


学院全体を使った大規模模擬戦。


数十人単位で班を組み、広大な学院内部を使って戦う特殊訓練だ。


「ルールは簡単だ」


壇上に立った師範が低い声で告げる。


「制限時間は三時間。班ごとに“星札”を配布する。他班の札を奪い、最終的に最も多く確保した班が勝者だ」


周囲がざわつく。


単純な戦闘訓練ではない。


探索。


奇襲。


情報戦。


心理戦。


そして連携。


総合的な実力が問われる訓練だった。


ノアの目が細くなる。


面白い。


純粋な戦闘能力だけでは勝てない。


つまり、頭脳戦の比重が大きい。


「これは燃えるな!」


アークが笑う。


セシリアは静かに周囲の班を観察していた。


ルナは少し不安そうにしている。


「作戦はどうします……?」


その問いに、ノアは周囲を見渡した。


広い訓練場。


複数の建物。


中庭。


時計塔。


地下通路。


利用できる地形は多い。


そして、参加者の性格もある程度把握している。


ノアの脳内で戦術が高速で組み立てられていく。


「まず正面衝突は避ける」


「お、奇襲型か?」


「いや、もっと単純だ」


ノアは静かに言った。


「相手同士を潰し合わせる」


アークが目を丸くする。


セシリアだけは、少しだけ口元を動かした。


「……なるほど」


「学院内は広い。班同士が接触すれば、必ず戦闘になる。なら、俺たちは最後に動けばいい」


「漁夫の利ってやつか」


「それだけじゃない」


ノアは地図を指差した。


「この地下通路。ここは音が反響する。つまり、少人数でも大人数がいるように誤認させられる」


「……あ」


ルナが小さく声を漏らす。


「わざと戦闘音を響かせて、別班を誘導するんですね……!」


「そういうことだ」


アークがニヤリと笑う。


「やっぱお前、頭回るなぁ」


ノアは小さく息を吐いた。


戦闘は嫌いじゃない。


だが、本当に重要なのはそこじゃない。


どう動かすか。


どう錯覚させるか。


どう誘導するか。


戦場は、思考で支配できる。


その瞬間だった。


胸の奥で――黒星が脈打つ。


ドクン、と。


今までより、深く。強く。


「……っ」


ノアの表情がわずかに歪む。


視界の端が、一瞬だけ黒く染まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。