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023話 お転婆女騎士 その1

誤字脱字の指摘、感想等いただけると嬉しいです(´_ゝ`)

「よし決めた。お前には私の婿になってもらう」

「「「えええー!」」」


 ナターシャのとんでも発言に、ニーナ、トモエとなぜかローザまでもが驚きの声をあげている。そして、ヴィーヴルが口をパクパクさせて声になっていなかった。


 スカイも一瞬呼吸を忘れそうになったが、ジェイクがため息をつき、他の騎士たちもにやにやしていることから何かありそうだと気付く。


「ほう、ライバルが四人もいるとは、お主はよほど良い男なんだな」

「まあな」


 スカイたちをからかっているのが目に見えているため、わざと否定はしなかった。


「ふん、つまらん。不敬罪で本当にそうしてもよいのだぞ」

「不敬罪で貴族の婿になれるなんて良い国だな」


 やばっ、調子に乗り過ぎたか。騎士たちの表情が険しくなっていくのに気付き、スカイは少し焦る。


「兄さん、ふざけすぎ」


 トモエが、スカイに近寄り耳元に小声で言った。


「それで、本当の目的は何なんだ?」

「それもそうだ、話を進めるとしよう。先ず確認だが、お主が別の大陸から来たというのは本当なのか?」


 ナターシャのその言葉に、スカイがガンダー村長の顔を見て確認すると、頷いたので大体説明してくれたのだろう。


「ああ、本当だ。どこまで聞いたかわからんが嘘は言っていない」

「なかなか信じがたいが、それが本当だとするとお主たちは戻れんだろう」

「それはなぜだ」

「驚かんのだな」


 大体予想がつく。恐らく他の大陸が発見されていないのだろう。


「まあな。お前たちは、このヴェルダ大陸以外を知らないんだろ」

「察しが良いな。そう、今までヴェルダ大陸以外の大陸など発見されていない。ここから南の海にでてもヴェルダ大陸の北の国に着くからな」

「それでそれを聞いてどうするんだ?」

「そこの村長によると、国に戻ることを諦めているようなことを聞いたからな。それに少数で三倍の数の盗賊団を捕縛して無傷で帰ってきた凄腕の傭兵……」


 ここまで言ったのだからわかるだろ、と言いたそうな顔をナターシャはしている。


「行き場を失った実力のある傭兵団……雇いたいのか俺たちを」

「正解だ」

「仕事内容と期間、それと待遇次第だな」


 ラムールへ行き傭兵活動を考えていたスカイたちにとって、これは思わぬところで渡りに船の申し出だった。ただ、足元を見られないように注意が必要だな、とスカイは気を引き締める。


「うむ、話が早くて助かる。我が国がフォルセアリー王国ときな臭いというのは既に知っているであろう」

「小競り合いが絶えないというのは聞いている」

「軍事機密に当たる情報があるため詳しい話は、契約してからになるが……フォルセアリー王国との国境線で防衛任務だ。期間は、少なくとも一か月以上。待遇は、私との直接契約でどうだろうか」


 期間の終わりを言わないのが厄介だな。聞いても契約してからと言われそうだ。それに待遇に対しての答えが直接契約とは、いったいどういうことだろう。


「直接契約が待遇とどう関係があるんだ?」


 ナターシャは少し眉をしかめてなにやら考える素振りをみせる。


「なるほど。どうやら文化が違うようだな。お主の国がどうだったかわからんが、この大陸で傭兵といったら根無し草のように、戦闘によりころころ所属を変える。それは、雇い主が死んだりすると報奨金をもらえなくなるのが大きな理由だろう」

「それは俺たちの国でも同じだよ。それはつまり……ナターシャは死なない自信があるのか」

「貴様っ」


 また、ベイツとかいう若い騎士が我慢ならんというように怒鳴る。


「重要なことだ。俺も部下の命を預かる立場だからな」

「ベイツ、お前は黙っておれ」

「く……」


 スカイからすると、辺境伯の娘が出陣しなければいけない状況に陥っていることが心配でならない。勝手なスカイの想像だが、軍国主義の国なのか単純に人手が足りていないかだろう。


「傭兵にしては良い心構えだ。そこまで言うなら良いだろう……私は死なぬよ。絶対にだ」


 迷う素振りすらせず堂々とナターシャは死なないと宣言してきた。少しくらいは逃げの発言をするものだが、どうやらこのナターシャは生粋の指揮官のようだ。指揮官が堂々としているとそれだけで下の者は安心できる。


「そこまで言うなら俺も命を預けよう。俺からの要求は、衣食住の他に、戦果報酬をしっかり査定してくれればそれでいい」


 スカイは、そう言ってニーナたちの方を確認するが、誰も異論は無いようだ。ニーナが昨日言ってくれたことを思い出したスカイは、パレルモたちが頷いているのに気が付いた。


 これは、俺だけの独断じゃない。


 みんなの総意だ、とスカイは確認出来て嬉しくなった。


「契約成立だな」

「ああ、これから宜しく頼むよ」


 スカイは握手をしようと右手を出す。ナターシャは、一瞬恥じらう様子をみせて、右手にはめていた籠手を外し互いに握手を交わす。

 騎士たちがざわざわし始めたのが少し気になる。


 そのあと、スカイたちはガンダー村長に挨拶をしてからメルの村を出ることにした。その挨拶のとき、ガンダー村長からスカイは謝られてしまった。傭兵の忠誠を誓わないという説明は、敬意を払わないということでなかった。

 ナターシャだったから問題にはならなかったが、身分にうるさい貴族だったらふつうに不敬罪を言い渡された可能性があったという。通りで騎士たちが敵意むき出しだった訳だ。


 今後は気を付けよう。


「それにしてもよく馬が無事だったな」


 スカイたちが全員馬を持っていたことから、捕虜たちの移送を外で待機していた歩兵に任せ、一足先にナターシャたちとラムールの町へ向かうことになった。


「ああ、それは不幸中の幸いってやつですよ」

「それにしても傭兵が海を船で渡ることってあるのだな」


 なかなか鋭い娘だ。ふつうに考えれば、兵の移動は陸路だからな。


 また、スカイは適当な話をでっちあげる。


「実は、俺たちの国は争いが絶えなくて、少ない領土で戦ばかりするもんだから、他の大陸を発見するべく志願したんですよ。発見したのは良いのですが、それを伝える手段を失ってしまいましたが……」

「ああ、よいよい。あのあと村長と何か話しをていたようだが、今更丁寧に話されても違和感しかない。普段のお主で良いぞ」


 やはり、ナターシャは貴族らしくない。でも、スカイたちにとってはやり易い性格だった。


「それは助かる」

「それにしてもお主の国には貴族はおらんのか?」


 これを聞いてくるということは、やはりスカイの態度が気になっていたのかもしれない。


「王政の国だから当然貴族も沢山いる。ただ、強いやつが偉いっていう文化があってな。そのおかげで俺は好きにやっていたんだ。まあ、ナターシャたちからしたら変わった国だろうな」

「うーん、強いやつが貴族になることがあるが貴族でもないのに偉いというのは理解ができぬな。お主のその言い方だと相当名の売れた傭兵なのだろう。どこかに士官するとか騎士爵を下賜されたりしなかったのか?」


 嘘に嘘を重ねたせいで、話が矛盾してしまっている。


「さあ、なんでだろうな?」


 仕方がないので、スカイはとぼけることにした。


「ジェイクなんか良い例だぞ。やつも元は傭兵で父と契約しておってな。戦果を上げて父から騎士爵を下賜されて貴族の仲間入りをしたのだ」


 そうだったのか、それはなんかフロリバに似ているな。俺の場合は、子爵まで爵位が上がったがな。


 内心スカイは、そんなことを考えて勝手に優越感に浸った。


「だからお主も戦果を上げれば、貴族になれるぞ」

「そっか、考えておくよ」


 いずれは、どこかに士官でもして腰を落ち着かせられる場所を見つけたい。ただし、メルの村しか見ていない。この国に腰を落ち着かせて良いか判断するには情報が少なすぎる。とりあえず、その話は終わりにして戦局の方へ話題を変える。


「それより、フォルセアリー王国との戦のこととか色々教えてくれないか」


 ラムールの町まで、馬で丸二日間かかるというので、その間に情報を整理することにした。


 フォルセアリー王国には約八万の兵がおり、それなりに魔法士も居るらしい。ただ、その内の二万は、リーデル王国から併合したため統率が不十分らしい。

 それに対して、クピドス王国は約二万の兵しかおらず、その内ラムール辺境軍が四千で国境線の三分の一を防衛しているらしい。少ない兵士で横に広い国境を守らざるを得ないため、徴兵や傭兵雇用を必死に行っているらしい。そもそもメルの村に来たのも徴兵活動の一環だということを聞かされ、助けに来たのではないことに気付き、スカイは残念に思った。


 話によると、今回スカイたちが捕縛した盗賊たちの状況は珍しく、元リーデル王国の兵士たちは、傭兵としてクピドス王国やコリニス王国に集まってきているそうだ。

 辺境伯の娘が騎士団を指揮することになったのもその辺が理由らしく、「父は私に頼るしかないのだ」とナターシャは胸を張って言っている。


 一方、同盟を結んでいるコリニス王国は、軍部をまとめきれたいない元リーデル王国と面してる範囲が多いため、そっちの戦線は未だ平和という情報があり、コリニス王国からの援軍でクピドス王国の東側は、フォルセアリー王国の進撃を押し返しているらしい。


 その後、何事もなく順調に進み、辺りが暗くなったため、適当な場所で野営をすることになった。夕食は、硬い黒パンと干し肉であった。マッジクボックスからメルクの森で狩ったシカのシカ肉ステーキや果物を取り出しても良かったのだが、その扱いが不明なため控えることにした。ナターシャたちが手持ちの袋から出していたため、やはりマッジクボックスは一般的ではないのかもしれない。


「なにか良い案はないかな?」


 スカイは、ナターシャから聞いた情報をみんなに説明して、どうするべきかみんなの意見を聞いてみた。


「防衛する場所にも因るんじゃないかしら。砦等の拠点があるのか、それとも平地なのか、森の中で戦うのか……」

「ニーナの言う通りなんだけど、いつどこで戦うのか俺たちに決定権はない。俺が言いたいのは、どんな状況下でも対応するためにはどうしたら良いかということだ」


 なかなか意見が出ず沈黙が続き、スカイがどうしたものかと考えているとツバサが控えめに挙手をする。


「ツバサ、何か良い案が?」

「単純に決定権を持てばいいと思うのじゃが」

「どうやってさ」


 滅多に発言しないツバサが発言するときは、確信をついたことを言ってくれるので期待したのだが、少し呆れたようにスカイは聞きかえす。


「簡単じゃよ。戦果を上げて発言力を強めるのじゃ」

「兄さん、それよ。昨日の盗賊戦でわかったけど。この世界の兵士はそんなに強くないと思う」


 ツバサの案にトモエが補足をしてくる。


「それはつまり無双しろということか? 俺的には行き過ぎた力を見せつけると、この国に縛り付けられるんじゃないかと、そっちの心配をしてるんだよ」

「恐れながら申し上げます、閣下。僕たちは閣下が無下に扱われるのが我慢なりません」


 今度は、パレルモが真剣な面持ちでそう言ってくる。


「おいおい、閣下は止めてくれ。団長と呼ぶようにと言っただろ」


 スカイは、話を聞かれていないかと周りを見渡し声を潜めて注意した。

 

「それは、承知しております。本心であるが故、閣下と申しました」

「スカイくん、村長の家で騎士たちがあのナターシャちゃんに対するスカイくんの態度に怒ったように、パレルモ君たちもスカイくんが下に見られていることを我慢してるんだよ」


 それは気が付かなかった。スカイ自身が偉いと思っていないと言ったら言い訳かもしれないが、NPC傭兵たちからしたら、スカイは彼らの主である。設定による忠誠心かもしれないが、この世界に召喚されたことにより心を持ったNPC傭兵たちの唯一の拠り所なのだろう。


「そうだったのか、その気持ち、ありがたく受け取っておくよ」

「ご理解いただけたようでなによりです」


 スカイは、暫く考える。空を飛ぶことは、スカイとニーナの夢ではあるが、もうここはゲームの世界ではない。スカイとニーナの他には、妹のトモエも付いて来てくれ、それぞれの従者だけではなく、NPC傭兵たちも命を宿した存在となっている。


 スカイは、夢の実現のために転生を決断したが、それだけを求めてはだめだろう。パレルモから言われた言葉、「閣下が無下に扱われるのが我慢なりません」がスカイの脳裏に焼き付いている。


「ちょっとみんな聞いてくれ」


 スカイは、ついに決心した。

 その考えを説明し、みんなの意見を取り入れながら微調整を加える。それは、夜の見張りを担当しながら翌日の未明まで続いた。


「昨日はよく眠れたか?」


 隊列の後方に位置していたスカイのところまでナターシャが来て声を掛けた。朝は、野営撤去やらで忙しくろくに挨拶すらしていなかった。


「ああ、雇い主が見つかったおかげでぐっすり眠れたよ」

「そういう割には、目が充血しているぞ。なにやら遅くまで話し込んでいたようだが何を話していたんだ?」

「ばれる嘘はつくものではないな。いや、大したことではないよ。この地で生きていくことを決断しただけだ」

「……そうか。辛い決断だったろうに……」


 へえー。ナターシャはこういう顔もできるんだな。


 昨日は、騎士団長としての顔なのか、自信満々で勝気な印象が強かったが、今は憂いを含んだ物寂しい顔でスカイたちのことを見回している。


「だが、私に協力してくれるというのなら後悔をさせるつもりはない。心配せず私に付いて来てくれ」

「当然だ。これから宜しく頼むよ。ナターシャ卿」

「ああ、任せてくれ」


 ナターシャは、スカイたちの本当の目的を知らない。


 騙すようで心苦しくもあるが、俺たちには俺たちのやるべきことがある……。


 先ずは、このあとの一つ目の仕掛けに、ナターシャたちがどんな反応をするのか楽しみで頬が緩むのを感じながら、隊列の先頭へと戻るナターシャの背中をスカイは見守ったのだった。

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